第八話 「颯爽」
「そこまでだ!!」
訓練場中を轟く怒号。
数人の近衛兵を伴って街へと降りてきた父──ガルムエント現領主、マルセルのものだ。
「父、さん…………?」
僕は父さんを仰ぎ見る。父さんの瞳は優し気で、僕とアヤトさんたちを心からを心配しているようだった。
僕とアヤトさんは地べたに囀りながら、しかし両手の剣は手放さず、まだピンピンとしている団長を睨みつける。
ナナさんは、魔法使いは厄介とされたのか早々に倒されて屋根の上で倒れているらしい。確認には行けていないので確証はないが。
カムイさんは息を切らしてはいるものの、僕とアヤトさんが団長と戦っている間もゴルドルフと対等な戦いを続け、未だ地面に膝をついていない。
「……エイリアスか。お前がいてこんなことになっているということは複雑な事情があるのだろうが──後で家で聞かせてもらうぞ。そして……まさか君がいるとはな。ルーク・F・ダーリェン君」
「………………何用ですか。元団長」
「まさかわからないわけではないだろう。都市で神器を軽率に開放し、徒に市民を混乱させることが君の正義か?」
「大局で見れば正義につながると確信しておりますが」
団長が全く悪びれない様子で言う。
だがその態度を父さんは鼻で嗤って見せた。
「私には君が暴れたいだけの暴徒か何かにしか見えないがね。しかし息子はどうやら限界のようだ。此処から先は私が相手をしてもいいが、どうかね」
父さんが不敵に笑い、レイピアを腰から抜き放つ。
団長の表情がわずかにこわばる。
「…………やめておきましょう。万全ではない状態で貴方を相手にするのは骨が折れる」
「どうかな、私も衰えているかもしれないが? 少なくとも国内最強の座は随分以前に君に譲った」
「…………相変わらず、食えない人だ……もう少しご子息を見習った方がいい」
「君は父を見習った方がいいな。ダーリェンは……というと君も含まれてしまうか。アイザックはもう少し柔軟な思考を持っていたよ。だからこそ私の右腕足りえた」
「……大きなお世話だ。帰るぞ、ゴルドルフ、アゴラ」
「ん、ちょっとおもしろくなってきたところだったんだけど……ま、いいか」
「あ、え、お、おれの処遇は……!」
声を掛けられたアゴラが慌てて問い、ああ、と。まるで忘れてでもいたかのように声をあげ、振り向く。
「決闘はどこぞの馬鹿の為に破綻になったのだ。また俺が奴と剣を交わらせるその時まで、お前の扱いは保留とする。精々励め」
「…………は、はいっ!」
アゴラがその強面からは想像もできないような満面の笑みで力強く返事をし、次いで振り向いて俺を睨みつける。
嫌われたもんだなぁ…………
「ではな、エイリアス。その力、精々持て余さぬようにすることだな。でなければ…………全てを失うことになるだろう」
そんな不吉な言葉を残し、三人は颯爽と帰っていった。
彼らが去った後には何も残ってはいなかったが、団長が遺した不穏な言葉が、重く心にのしかかっていた。




