第二話 「アゴラ」
「くっ……起動! 【磁力世界】!」
僕を中心に生成される磁場。
僕は剣を腕力にプラスして磁力でも引っ張ることでかろうじて防御を間に合わせる。
そしてアゴラの怪力を受け止めず受け流すことで自分の体を意図的に後ろに吹き飛ばし、距離を作る。
【磁力世界】の本分は要するに、範囲内の鉄を自在に操ることにある。
自分の意思で操れるだけあって強力だが、高価で使い捨てなのが難点だったが、サリアさんが魔力をチャージできるのでリユースが可能になった。ありがたいことだ。
「起動! 【鋼鉄斬糸】!」
意思と同時、目を凝らさねば見えないほどの細さとワイアー以上の強度を併せ持つ、魔力を帯びた鉄の糸が小さな箱から発生する。
「アゴラ……! どういうつもりだ。騎士が一般人を奇襲するなど! お前が僕を目の敵にしているのは知っていたが──!」
「はっ。わりぃが上からのお達しだ。この戦いはなぁ! 騎士団長殿がお望みになられたものなんだよぉ!」
「な、に……!?」
「はっ──まぁ、信じたくねえ気持ちもわかるぜ? テメエごときが俺に勝てるわけねぇからなぁ!! 騎士団でも一番弱かった! そんなテメエが俺よりも偉ぶってるのが、俺は前から気に食わなかったんだよ!!」
アゴラが叫び、剣を正眼に構えて突撃してくる。
そして、それは途中で何かに遮られたように急激に停止した。
「何……っ!?」
「悪いな、アゴラ。喋っている間にそこら中に糸を張らせてもらった。相手が弱者だとみると慢心するのも、短絡的なのもお前の悪い癖だ。その糸は突撃くらいじゃ切れたりしない」
何故怪しまれず糸が張れたかと言えば、それは【鋼鉄残滓】の糸が鉄製であり、【磁力世界】の磁場がまだ継続しているからということと言う他ない。
糸を自在に操り、器用に訓練用の的、ギルドの屋根などにひっかけることでなんとか糸の結界を張ることが出来た。
流石に警戒されていればバレたはずだが……気づかれないという確信があったのであっさりとできた。
今がどうあれ、もとは部下だ。性格はよくわかっている。
そして、この程度で止まらないのがアゴラという男の、僕にはない純粋な強さだということも、よく。
「舐めんじゃねえ、このクソガキがあぁぁぁ!!!」
アゴラは鎧に糸をひっかけたまま、もう一度力を込めて前方に突進。
糸は切れない。が、糸をひっかけていたものが先に悲鳴を上げた。
的は地面から掘り出され、ギルドの屋根は部分的にもげる。引っかかりがなくなったことで糸が何の力も持たなくなり、アゴラの体がすさまじい勢いで僕に迫ってくる。
「【百万の小刀】は意味がないな……起動! 【動かない座標】」
その言葉に、何かが発生することはない。
そういうマジックアイテム。ただ、所有者は『座標』を手にする。
動くことはない、干渉される事はない座標。極点を都合二十個程。
三次元的に空間を把握した時、指定した座標を【動かない座標】に置き換えられる。
「人相手に使うのは久しぶりだな……さて、上手く誘導できるかどうか」
「おおぁぁぁぁ!!!!」
振り下ろされる剣を、僕は思考の片手間に弾き返す。軌道上の一点を【動かない座標】と置換したのだ。
「まぁ、相手は僕より断然強いから……精一杯、頑張るだけだ」
僕は自分の周囲を俯瞰し、丁寧に点を打っていく。
勝利への布石、とはいかないのを僕は少し、歯がゆく思った。
僕にも負けん気らしきものはあるらしい、というのは新しい発見だったが。




