第一話 「翼竜」
一本の草も生えない荒れた地面。薄い空気に混ざり巻き起こる砂埃。
そして、咆哮する、巨体に翼をもつ蜥蜴──翼竜。
「グォアアァァァァァァ!!」
「行きます!」
「にゃ……!」
僕は二本の剣を抜刀し、翼竜へと突撃。数秒間をおいて、メメルさんが僕の後ろに続いた。
翼竜の体躯は僕よりも三回りは大きい。だから懐にさえ入ってしまえば小回りの利く僕達が有利だ。
「グゥゥ……!!」
翼竜が翼に付いた鉤爪を振るう。
僕はそれを剣で迎撃。強い衝撃が受け止めた剣を走り、腕がしびれる。
メメルさんが僕の背後から出て、僕を置き去りに再び翼竜に突撃。
当然もう片方の鉤爪が振るわれるが、
「させるかっ! 炸裂せよ!」
「ういうい、放て! 【神のパゥワー】!」
後衛から放たれた高位の炸裂魔法と、神聖魔法では希少な攻撃魔法である【フォース】に弾かれて翼竜の体が背後に大きく弾かれる。
翼竜の身体が大きく流れたことで僕の体も自由になり、再び翼竜の懐へと前進。
同時に、マジックアイテムを起動させる。
「起動! 【磁力世界】!!」
その言葉と同時、僕を中心に半径五メートルに特殊な磁力場が発生する。
ここは山。周りには金属を含んだ岩石がごろごろ転がっている。
「集結!!」
それを合図に大小さまざまな岩石が浮遊したかと思うと、一斉に翼竜へと飛来する。
ついでに僕の両手に構えられていた剣も、その磁力に引き寄せられて翼竜に襲い掛かった。
表皮に張られた鱗が岩石とぶつかってごつごつと音を立てる。
流石に無傷とはいかず、痛みがあるのか翼竜は小さく呻き、もがき続ける。
「メメルさん!」
「にゃっ!」
その隙を、メメルさんが短刀を片手に懐に入り込み、大きな体を駆けのぼるように顔へと接近。
その翡翠のような瞳に短刀を突きさした。
「ゴ…………ァ……」
その一撃が瞳を貫通し、脳に至ったのか。
翼竜はその巨体を地面に投げ出した。
◇◆◇◆◇◆
「「「「「カンパーイ!!」」」」」
ギルド内に幾重にも重なった声が響く。
クエストを無事成功させたことを、ジョッキを片手に祝っているのだ。
なぜかナチュラルに受付嬢がいるが……もう放っておくことにした。
「取り敢えず、無事に帰ってこれてよかったです。皆さんお疲れさまでした」
「……いちいち堅いのね、相変わらず。こんな場でくらい言葉を崩してもいいと思うんだけど」
「そんなわけにもいきません……っていうか性分なんですよね。うーん……デフォルトでこれ、というか」
「あー、いるいる。そういうやつ。私も昔の友達にもいたわ」
「にゃ……にゃー♪」
「ん、メっちんなに呑んでるん? ってマタタビ酒!? なんでこんなもんあんの!?」
「ぬっふっふ、受付嬢さんはみんなの受付嬢ですから、どれだけ小さな需要にも供給を欠かしませんとも!」
「有能! だったら私今度お願いしたいのがあってぇ……」
「ほむほむ? まあ検討くらいはしますけど」
僕達はそんな感じでわいのわいのと盛り上がっていた。
「あ、ダーリン。そういえば流石に帰ってきた日は休養? そろそろいつもの訓練の時間だと思うけどにゃー」
「あれ、もうそんな時間ですか? ……んー、やっぱり出来るだけ欠かしたくないのでちょっとだけ体を動かしてきますね」
「ありゃ、そっかー……余計なこと言っちゃったかにゃん」
「あ、でもほんとにちょっとですから。直ぐ戻ってきますよ」
「んー、じゃあ待ってるかー。ちょっと、ただし数時間とか言われたらヘコむケド」
「あ、あはは……大丈夫ですよ」
ユカリさんとそんな軽口をたたき合いつつ、僕は剣と──まだ脱いでいなかった鎧やマジックアイテムを身に着けたまま訓練場へと赴く。
訓練場には珍しく誰もおらず、物音一つなく閑散としていた。
「まぁ、都合がいいって言ったらいいのかな……静かな方が集中は出来──!?」
槍のような鋭利な殺気。
それが僕の肌を刺した。
「ぐっ……!!」
背後から何かくるという確信から、僕は全身に身を投げる。
頭上で鋭い風を切る音がした。
先んじて殺気に気づけたために無理な態勢にならず、僕は綺麗に体勢を立て直す。
背後を見ると、そこにはかつての部下がいつもの軽薄そうな笑みなど見る影もなく、真剣な表情でそこに立っていた。
「アゴラ…………! お前、どういうつもりだ!」
「はっ──騎士団から逃げたやつに言われたかねぇ……なっ!」
裂帛の気合いとともにアゴラが鋭く踏み込む。
僕のそれよりも遥かに洗礼された技術を伴って、白刃が僕を襲った。




