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第十九話 「激動の予兆」

 それから三日。相手が人目を気にしないことはもうわかっていただけにピリピリとした緊張を常に纏わせながら日々を過ごしていたが、どうやら一向に何か仕掛けてくる様子はなかった。

 ここ数日は、また悪魔が来たら僕たちが居なくて対処できるのかという不安と、僕を庇って怪我をしたメメルさんの養生も兼ねて依頼に行っていなかった。しかしいつまでも此処で燻っているわけにもいかないし、《金剛騎士団》も連絡を受け、ガルムエントへ数人派遣されると聞く。《金剛騎士団》は一人一人の実力が、冒険者クラスで言えば『金』を超えるもの達で形成された騎士団で、例の如く僕も《日曜騎士団》に入るまでの一時期、所属していた。故に彼らの実力には信頼を置いているし、何よりこの街には『白金』であるサリアさんがいる。恐ろしく強いが一応後衛職という事で一人で残す状況をよしとは思わなかったが、《金剛騎士団》とサリアさんがいれば下級悪魔程度どうにかならない事はない。

 メメルさんの具合も良いと聞くし、懐具合も寂しい。そろそろ冒険に繰り出してもいい頃か……僕は冒険者ギルドの一席でそう考えていた。


 そんな時だった。


「あの……ごめんなさい。少し良いでしょうか……」


 僕の服の袖を、くいくいと弱々しく引く手があった。伸ばされた腕を辿って、顔を仰ぎ見る。

 何処か儚げな、という形容がよく似合う少女だった。年の頃は十五くらいで、顔に幼さが残っている。王国の基準でいえば、成人したかしていないかくらいだ。服装はしっかりとした生地に綺麗なレースなどの装飾が施されたものであり、貴族か、最低でも高級住宅街に住まう平民か。郊外に住み着くような下民ではない。それは確かだ。

 初めて見る顔であり、声をかけられた理由に検討がつかないので僕は多少困惑したが、直ぐに顔に人当たりの良さそうな(という風に見せようと試みている)笑顔を顔に浮かべ、


「どうかしましたか?」


 と聞き返す。

 少女は僕の返答に安堵したのかほっと息を吐き、言葉に何度か詰まりながらも丁寧に言葉を紡ぐ。


「あの、私、話を聞いて……三日前にあった事件を解決した人、ですよね……?」

「……えっと、一応体面的にはそうなっていますね……」


 実際はどうなのかは別として。依頼を受けた、という意味では僕でも間違いではないし、変に否定しては面倒を増やすだけだ。


「それで、私、貴方にお願いが……」

「お願い、ですか? 勿論出来ることはさせていただきますが」


 予想外の展開に少し面食らいつつも、困っているなら助けなければという使命感に突き動かされ、半ば条件反射でそう答える。

 一拍おいて。少女が躊躇ったような素振りを見せた後、意を決したようにその言葉(・・・・)を口にした。


「お願いです。父を──殺してください(・・・・・・・)


 ──何処かで、薬指が小さく動いた。

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