第十八話 「再開」
「終わってない、って……」
「ええ、近く何か大きい動きがあるでしょうね。私たちはそれに巻き込まれる公算が高い」
冷静に話を進めるサリアさん。
僕はその推論を聞いて、焦りを感じた。
だって、そうだろう。何人も死者を出した事件の黒幕がまだのうのうと世にのさばっていると言われたのだから。
また死人が出るかも知れない。
そう考えただけで、どうしようもない焦燥感が僕の胸を支配した。
「心臓を抜き取ってるって話を聞いた時点で、あの受付嬢も気づいていた筈。犯人が悪魔を使役してるってことにね。だから、あんなに心配していたんだと思う。下級悪魔でも実力は殆ど『金』以上だし、厄介な特性持ちが多いから」
そういう事だったのか……受付嬢がとても心配していた意味がわかった。事実僕も、サリアさんがいなかったら危なかったし。
よしんばメメルさんが負傷しておらず、万全に闘えたとしても腕が本体という特質を見破れたのかはわからない。
「悪魔は、心臓を抜き取るんですか……何のために?」
「悪魔に殺された人の魂は、心臓に宿る。そして人の魂は悪魔や魔神との取引に使えるから、狙う悪人は多いわ」
「取引?」
「ええ。普通で考えたら不可能な事を、可能にする力を悪魔や……特に魔神は持っている。人の扱う魔法となんて比べ物にならない、奇跡の力を。貴方のあの魔法は上位の魔神の力に匹敵するとも思うけどね」
「あの魔法に匹敵って……!」
それは、本当に尋常じゃない。
アレは、神様認定チートだ。そうそうそれと拮抗する力なんて無いと思っていたが……。
魔神。
魔界の深淵にいる強大な存在、とは知っていたが……警戒する必要がありそうだ。今は動きがないと聞くが、一度人間のテリトリーを侵されるとそれこそ手の出しようがないかもしれない。
もしかするとあの十年前の男こそ魔神や悪魔と関係している可能性すらある。そう感じさせるようなおぞましさを、身体が覚えていた。
「黒幕の目的は今のところわからないけど、警戒するに越したことはないでしょ。なにせ自分の住んでる街で悪魔使って虐殺事件起こすようなやつよ? 邪魔した私達を殺しに来るかもしれない。むしろそれが当然でしょう」
「え……じ、自分の住んでる……って」
一瞬、何を言っているのかと頭が理解を拒んだ。大好きな街にそんな恐ろしい人間がいるとは信じたくなかったのかもしれない。
「言葉通りの意味よ。悪魔を呼び出す条件に、『その場に五年以上滞在し、土地と縁を結ぶ』ってのがあるから」
「……別の街で呼び出して、連れて来たのかも……」
「悪魔は呼び出された土地から離れると消えるわ」
無知ゆえに抱くことの出来る希望を、一言で切り落とすサリアさん。
つまり本当に、いるのか。
そんなやつが。自分の利益の為に、同じ街に住む、もしかしたら言葉を交わしたこともあるような人達を平然と殺すようなやつが。
「悪魔から召喚元を吐かせたりは出来ないから、こっちからその犯人を探すことは出来ない。実際、悪魔遣いの犯人って見つける方法は無いのよ。私が昔こういう依頼を解決したのも、散々邪魔して痺れを切らした犯人が自分から来たのを倒したんだし」
「…………無理ですか」
「まず無理でしょうね。それこそ、悪魔や魔神に頼まない限りは」
僕は沈黙した。
気持ちの整理がつかず、どうすればいいのかもわからず。八方塞がりの状況に心が悲鳴をあげていた。サリアさんがそんな僕の背中を、優しく叩いてくれた。
遠くでは、ユカリさんと受付嬢が傍若無人に暴れまわっていた──
◇◆◇◆◇◆
全てが終わってから人々に知られたその事件は、殆どの人にとって悪魔が倒されたその時点で終わっていた。
ただ、黒幕の男と僕。そして一人の少女にとってはその限りではなかった。
「お願いです。父を──殺してください」
僕の元を訪れたその少女の言葉を発端に、僕の人生の在り方は再び狂いだす。




