第十七話 「幕間」
さて、暫くして。
治ったとはいえ意識は戻らず、しかし呼吸は確かに穏やかになったメメルさんを抱いてギルドに還ると、そわそわとクマのようにそこらをうろうろと徘徊している受付嬢の姿がそこにはあった。よほど心配していたのだろう。
「えっと……ただいま戻りました」
恐る恐るそう声をかけると、受付嬢は声に反応してこっちを向くやぱぁっと顔を明るくしてほっと胸をなでおろした。
「お帰りなさい! はぁ~……心配しましたぁ……大丈夫ですか、お怪我は……?」
「メメルさんが敵にやられてしまいましたけど、ユカリさんが治療してくれて。しばらく休ませないといけないのはもちろんなんですけど」
「そ、そうですか……やっぱり強い敵だったんですね。サリアさんに行ってもらって正解でした。直ぐにメメルさんが寝ておける部屋を用意しますね!」
「ええ、助かります……ふぅ、よいしょっと」
ぱたぱたと手配の為に走っていく受付嬢を横目に、ひとまずメメルさんを手近な長椅子に寝かせる。僕もそれなりには鍛えてるとはいえ、成人女性をずっと抱えてると肩にくる。まあメメルさんめっちゃ軽いけど……
ふと、気が付くとユカリさんが顔を伏せてぶつぶつと呟いている。
盗み聞きは良くないとは思ったし、別に聞こうとしたわけではないのだが、距離が近かったからその言葉は否応にも僕の耳に飛び込んできた。
「ゆっちんも抱っこしてほしいなー……でも痛いのはな……むぅ」
「……流石に恥ずかしすぎるので勘弁してくださいね?」
「うぐぅ」
起きてる女の人を抱えるのは流石にちょっと……止むにやまれぬ時だけにしてほしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆
メメルさんを手配してもらった部屋のベッドに寝かせ、もう夜も遅かったので僕はギルドでみんなと一緒に夕飯を頂いていた。メメルさんはまだ起きてこないようで、部屋の前で魚を焼いても駄目だったと受付嬢が言っていた。いや本当に危ないからやめてほしい。火事になるから。
「ではえーと、無事殺人もぴたりと止まりまして! 何より皆さんの無事を祝いましてー、乾杯!」
「か、乾杯……」
「はぁ……乾杯」
「いえーい、かんぱーい!! 私何にもしてないけども!」
やたらめったらテンションが高い受付嬢とユカリさんを前に、僕は気おされ、サリアさんは平常運転で落ち着いていた。この人たちのテンションは天井知らずで、さらにそうそう下がることもないので本当に対処に困るのである。
「いや、ユカリさんはメメルさんを助けてくれたじゃないですか……その点、僕なんて結局詰めが甘くて背中狙われてるし、サリアさんに助けてもらわなかったら大変なことに……」
「……あんた達、私が云うのもなんだけどネガティブすぎるでしょ……エイリアスがいなかったら、それ以前にあの悪魔に猫の子は押し負けてたって事実もう頭から飛んでるじゃない」
忘れてた。
でも、メメルさんのことだから結局何とかして逃げ切ってた気もするし……
「悪いことばかりじゃなくていいことこそ考えなさいな。結果オーライでもなんでも、最終的に生きてたら全部勝ちよ、こんな世界」
「そんなもの……ですか?」
「『白金』の言うことよ、信じられない?」
「…………いえ……」
これ以上ない説得力だ。
しかし、なにか……引っかかる。
「まぁ、割り切れって言って割り切れるものじゃないわよね。罪悪感とかその辺って。もしこうなってたら……とか。気持ちはわかるわ」
「やっぱり、ですか。流石ですね」
「伊達に長いこと冒険者やってないってのに」
苦笑して小さく頭を振るサリアさん。同い年だというのに、潜ってきた修羅場鉄火場の数の違いからか、凄く大人びて感じる。余裕がある、というのか。僕の考えていることなんてお見通しというわけだ。自分も通った道だから。
頼りになる。会ったばかりの時のように年相応な面を見せてくれることはなかなかなさそうなのが、少しだけ残念だけど。
暫く談笑して、不意にサリアさんがバツが悪そうに表情を曇らせた。
「…………あぁ、そういえば。之も言わなきゃダメだったか……まぁ、しょうがないか。巻き込まれちゃったものは。どうせ知ってて受付嬢のやつも……これは考えすぎかな……」
「? どうかしましたか?」
「…………貴方は、悪魔のことをどれくらい知ってる?」
「いえ、そこまで詳しくは……名前は聞いたことがあるくらいです」
質問の意図を図りかね、取り敢えず正直に返答する。
サリアさんはそれを聞いて、でしょうね、と小さく頷く。
「それがどうか……?」
「そうね……諸々を省いて核心だけ言うのなら、悪魔っていうのは使役されるもの。誰かが作為的に呼ばない限りこんなところにはいない。自然に湧いたりしないものなの。だからつまり──」
────。
そこまで言われれば、いくらなんでも僕にもわかった。
つまり。
「……悪魔を呼んだ黒幕がいる……?」
「ええ。つまり……この事件はね、まだ終わってない。手を挙げて喜ぶにはまだ早いのよ」




