第四話 「王道」
安価な羊皮紙がまだ主流で、この世界では高く珍しい白い紙に描かれていたモノ。
それは漫画だった。
黒鉛を板で挟んだだけの鉛筆とも言えない筆記用具一本で描かれたと見える、コマ割りすらキッチリと本格的になされたその漫画の内容は少女漫画だ。
信じられない事だが──この人はこの中世に発展が近い世界で一人、現代日本に匹敵するソレを完成させてしまったらしい。そして、そうとわかれば彼女の言っていたリアル云々の言葉の意味も、彼女が要求してきている行動もわかってくる。つまり彼女は少女漫画のような、甘いセリフをかけて欲しいのだ。
問題は──それをするのがとんでもなく恥ずかしいという事くらいだ。
が……背に腹は変えられない。此処は堪えて、思いついた打開策を実行するほかないだろう。
胃がズキズキと痛むのを感じながら、ゆっくりとした足取りで彼女の元へ向かう。急に足を進めて自分に近づいてくるのに驚いたのか、彼女はギョッと目を見開いて伏した体勢から体を起こしてその場に座り込み、後ずさりし始めた。
「ちょ……な、なに? ま、ま、まさかと思うけどか弱い私に乱暴しちゃうつもり!? ご、ごめんごめん謝るから! 謝るから待っ……」
丁度彼女が壁に背中が付くまで下がったところで、僕はそれまでの緩慢な動きから一転、足を早めて急接近する。それを何かの脅しと感じたのか、彼女はひっと喉から声を漏らし、身を竦ませる。そして、僕は彼女の頭の丁度横の辺りの壁に、勢いよく手を突き、目線の高さが同じになるようにしゃがみこむ。
そう、それは少女漫画において必ずと言ってもいいほどに登場し、世の少女達を魅了し続けた聖なる行為。少女漫画の王道。
──壁ドンである──!!
そして、鼻先がつくほどに顔を近づけて僕は。
「──俺の女になれ」
如何にも少女漫画の男が言いそうな台詞を、どもりそうになるのを耐えながら言い放つ。あまりの痛々しさに赤面しそうになるが、まだ顔が近い。誤魔化せる距離にない以上下手を打つと興ざめされる不安があるので、懸命に堪える。
──どうだ!?
女性の顔色を伺う。女性はポカンと口を開け惚けている。何が起こったのかわからない、というように。
だが、同じ体勢で暫く耐えていると、次第に女性の顔が赤く染まっていくのが確認できた。
──やったか!
手応えと確信を得て僕は、取り敢えず離れようと膝を伸ばし──否。
伸ばそうとした。が、それは遮られた。
目の前の女性に後頭部を掴まれていたからである。
「…………へ?」
状況を理解できないまま硬直していると、突然強烈な力でぐいと引っ張られる。
抵抗する事も出来ず、僕の頭は女性の顔に急接近し──互いの唇が触れ、止まった。
────?
目の前にある、女性の目を閉じた顔。
どうしてこんな至近距離にそんなものがあるのか。まさしく何が起こったのか理解できず、僕は唇に柔らかな感触を感じたまま、その感触を堪能するように硬直した。




