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第三話 「帰って!」

「ぐすっ……グスッ……もうお嫁に行けない……」


 顔を伏せて啜り泣きながらそんなことを言う女性に、僕はなんと声をかけていいかわからず、オロオロとしていた。

 扉の中にいた女性は、それはそれは綺麗な人だった。年の頃は二十を少し過ぎたあたりか。貴族、と言う感じではないが、美しい女性の多い貴族にも此処まで綺麗な人はいない。少し方向性の違う綺麗さであるので、比較は少し難しいが。言うなら、彼女は自然体に綺麗なのだ。貴族のような上品な美しさではなく。

 長く蒼い髪は細かな手入れがされていないからかボサボサとハネまくっているがその輝きは依然失われていないし、同色の瞳は同じ大きさの宝石と比べてもどちらが美しいか悩むほどに煌めいている。

 扉を開けた張本人であるメメルさんは特に悪びれる様子もなく、大量のゴミで足の踏み場もないような床にゴミを掻き分けて寝転んでいる。これはこれで、彼女的には落ち着くらしかった。味をしめて自室を散らかしたりしなければいいけど。

 結局何も出来ずしばらく待ってみたところ、顔を伏して泣いていた女性がピタリと泣き止み、少し顔を上げて上目遣いに僕の顔を覗き込んだ。


「…………ねぇ。ちょっといい?」

「は、はい……?」


 唐突に問いかけられ、少し戸惑いながら返事をすると、その女性は目の下を赤くしたジト目で僕を睨め付けるように見た。


「どーーーして泣いてる女の子に慰めの一言も無いワケなのカナ!? そこは『そんなことない、僕が君をお嫁さんにしてあげるよ』とか『君みたいな美しい女性には涙は似合わないさ』とか言うところじゃない!? はーこれだからリアルは駄目だわー! 顔はイケメンだから期待したのに、ほんと幻滅だわー!! ほら私もう忙しいから帰って! かーえーってー!!!」


 機関銃の如く浴びせられる言葉の嵐に僕は一瞬怯み、メメルさんはビクッと身体を跳ね上げた。


「ま、待ってください! その前に話を……!」

「……話ぃ?」


 怪訝な面持ちで聞き返す女性。

 話を聞こうとしてくれたことを意外に思いつつ、僕は此処に来た理由を説明する。


「実は、僕のパーティに入ってくれる神官を捜していて……受付嬢さんに紹介されて、ここに来たんです」

「げ、サッちゃんの紹介か……まぁそりゃそうだよねぇ。サッちゃん以外私がここに住んでるって知らないし……」


 僕の話を聞いてぶつぶつと呟きだす女性。サッちゃん、というのは受付嬢さんの事だろうか。二人はそれなりに仲がいいらしい。


「…………しょうがないなぁ。まぁ別に今は別段忙しいわけでもないし、キミイケメンだし、そのうちお金は稼がなきゃだし、どうせパーティ組むならイケメンのがいいし、付き合ってあげなくもないよ?」

「っ! 本当ですか!?」

「たーだーし!! 一つ条件が……というか、試練があります!!」


 女性はビシッと人差し指を立ててそう宣言すると、力強く言葉を続けた。


「私を連れて行きたくば……私をドキッとさせる事だなぁ!!」


 ────は?


 その言葉を理解することが出来ずぽかんと口を開けて呆けていると、女性はドヤっとしたり顔をした。


「ふふん、顔だけイケメンのキミ程度には荷が重いでしょう!? 悪いけど冒険なんてあんな危ない目に二度と身を投じる気は無いのでした! わかったらさっさとさっさと尻尾を巻いて逃げたらどうかにゃ!?」


 女性がまくしたてるように舌を回す。

 とはいえ、ここであっさりと尻尾を巻いて帰るというわけにもいかない。なにせほかにアテがないのだ。

 どうしたものか……と困ったように視線を部屋に彷徨わせていると、ふと白い……何かが描かれている紙を発見した。

 それなら何かを感じ、目を凝らして何が描かれているのかを確認すると……そこには、現状の打開策が示されていた。


「……う、うぅ…………」


 やらなければならないとは悟りつつ、それをやったときの自分を想像して、エイリアスは自分の胃がズキズキと痛むのを、感じた。

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