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第五話 「ユカリ」

「…………〜〜〜〜!!?!?!」


 ふとした瞬間に我に返り、肩を引っ掴んで引き離す。


「なっ……なっ……!?」


 抗議を試みるも、上手く言葉にならず喘ぐようなどもりが口から出るばかり。まだ名前も聞いていないその女性の紅い顔は、すっかり淫靡さすら醸し出すような色気のある『女の顔』になっており、それが一層僕の困惑を深くさせた。

 僕はただ一つ確信する。自分のした事が、あまりにも──軽率だったと。

 女性はとてもにこやかな笑顔を顔に浮かべ、宣言する。


「そ、そこまで言われちゃったらし、仕方ないよね! わかった、じゃあ私貴方のお嫁さんに……」

「にゃぁぁぁぁ!!!」


 と、それを叫びながら横から飛びかかったメメルさんが遮った。その顔は怒りに歪み、僕や女性と全く異なる理由で朱に染まっている。


「どわぁ!?」


 およそ女々しさというものを感じさせない、寧ろおっさんくさい悲鳴をあげて女性が押し倒される。その悲鳴を聞いた事で僕も漸く困惑から解放され、どうにか言葉を紡ぐことに成功する。


「あ、あの……い、いまのは、一体……!?」

「え、キスだけど。ほら、古今東西従属の証っていったらキスじゃない? メカっ娘との契約に体液が必要とかでキスしちゃったりさ!」


 僕の追及は半ば抗議に近く、どちらかといえば非難の色を帯びていたと自覚せざるを得ない程だったが、しかし女性はきょとんと悪びれる様子もなく当然のことと切り返す。

 そしてその思考回路が、悲しいかな少しは理解出来てしまう前世がゲーマーな僕がいた。いや、リアルにいきなりキスするのはどうかと思うけど……


「はぁぁ……いやぁ、まさかリアルでほんとにこんなキュンとするトキメキ感じさせる口説きが出来る人がいるなんて思わなかったわー……神さまありがとー! リアルダメとかいってごめんね!?」


 虚空に向かって叫ぶ女性。

 っていうかまずい。あまりにも咄嗟で、その為に言葉のチョイスが雑すぎた。そして、自分が今、普通に美形である事も考慮に入れていなかった。さっきこの女の人はなんと言おうとした? 『お嫁さんに』?

 不味い。これは不味い、非常に不味い。何とか切り抜ける方法を考えなければ──!!


「ふぅ……まぁそんな事よりさ」

「え?」

「貴方の名前。なんていうの?」

「え、エイリアス……です」

「ほうほう。ちなみに私はユカリ。こっちだとちょっと珍しい名前だけど、ルーツが王国じゃなくってさ。どっちかっていうと『火の国』よりなの。だから馴染まないかもしれないけど、まぁ慣れてちょうだいな。末永くよろしくね、ダーリン♡」


 立てば芍薬、座れば牡丹──その言葉を体現するような美しさを持つユカリは、にやりと不敵に笑って、蕩けるような声で僕をダーリンと呼んだ。

 メメルさんに睨まれているのを感じ取り胃にキリキリとした痛みを感じながらも、僕はしかし、彼女に心惹かれずにはいられなかった。

 どんな在り方であろうと、その存在が即ち美である(・・・・・・)と──そう約束づけられたような、そんな姿に。その笑みに。

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