決意
「…………そうか」
ガルマの報告を受けてエイリアスの父、マルセルは唸った。
「いつか来るとはわかっていたが……いざ来るとなれば、どうしようもなく不安なものだな。不甲斐ない」
「……いえ、そのような事は。して、如何なさいますかご主人様。後手に回れば世界が滅ぶ──そういう相手です。最早一刻の猶予もありません」
そう断ずるガルマの顔には深い憎悪と、確固たる決意が垣間見える。マルセルはその顔を見て自らの動揺に区切りをつけた。
「わかっている。勿論奴らの好きにさせるつもりなど毛頭ない。私はエイリアスの父親として……すべき事をするだけだ」
そう、息子を守るのは当然の事。
白い手袋をはめた手を強く、強く握りしめる。この決意だけは決して、何人にも敗れはしない。
「期待しております、ご主人様」
跪いたまま、ガルマは影と消える。
一人、静かな部屋でマルセルは腰にかけたサーベルに手を添えた。
「私がもし散ろうとも。どうか、息子達を。この国を守ってくれ……」
◇◆◇◆◇◆
「……因果、か」
ドクターは一人、借りた空き家を改造して作った診療所にて黄昏た。
右手には葉巻を持っており、故に吐き出したその息は白んでいた。
「世界が動く。彼を中心に」
そう。もはや流れ出した時は止まらない。賽は投げられたのだ。
「彼はやっぱり、お前の息子だったなぁ。会って確信したよ。お前とそっくりだ。なぁ、見ているかい? ダーリェン……」
ぽつりとこぼす。その言葉は誰にも聞かれる事もなく、やがて消えた。
◇◆◇◆◇◆
ピン、と小指が伸びる。指先から伸びている煌めく糸が張り、彼の指を引いたのだった。
「…………ふ、ふふふフふ」
壊れたラジオから流れるノイズのような、聞くに耐えない雑音。それは笑い声だ。闇よりも昏い空間に唯一生じる空気の振動。
「楽しい……楽しいな。やっぱり最高だ君は…………」
噛みしめるように吐き出されたその言葉は、まるで最愛の恋人に囁きかけるような甘い声だ。
「まだ役者は揃わない。だけどもうすぐ、もう少しでお膳立ては全て終わる。そうすればきっと──」
ぶるり、とその身体が震える。恍惚とした様子で、その男は確信をもって、言葉を紡いだ。
「もっと楽しい事になるよ……」
いつまでもいつまでも、其処には気味の悪い笑い声が響き続けていた。




