想い
エイリアス・シーダン・ナインハイトは人格者だ。人を尊び、人を救うために動く。そう、私に対してそうであったように。人もよく、貴族であるという事を笠に着ず友人のように接してくるその態度は、およそ従来の貴族像とはかけ離れている。真に敬うべき人間というものがいたのなら、それは彼か、帝国のトップに位置する、この世に並び立つもののない偉大なる御方、その人くらいだろう。少なくとも私はそれくらいに高く、エイリアスの事を評価している。
だからこそ、思う。
──彼は、狂っていると。
才能は自分の力じゃないから、努力して力を手に入れる?
馬鹿な。そんなに簡単に諦められる筈がない。既にある力の使用を自らに禁じ、無力に打ちひしがれ、見下される生活を苦ともしないなんて、およそ正常ではない。
例えば。自分には剣を振る才能があるから、自分は剣を捨てると豪語する剣士がいるだろうか? 決まっている。いる筈がない。普通の人間は才能に喜び、それを伸ばすために尽力するだろう。それを彼は否定し、全くと言っていいほど向いていない剣を振るうのだ。才能はなく、十年の努力が数年で追い越される過酷な世界に好んで身を投じているのだ。その全ての苦痛が、一言呪文を唱えるだけで消し飛ぶ徒労だと知りながら。
それだけではない。彼は人の事を思い、それを守りたいと思いながら、自らのエゴで人の命を救う事を放棄している。彼の力が彼の意思で人の為に振るわれれば、それはどれだけの人の命を救うだろうか。或いは、それは長年続き多くの死者を出し続ける蛮族との戦争をすら終わらせられるかもしれない。なのに、彼はそれなりの冒険者として燻っている。これ程の矛盾があっただろうか。
何が彼をそうさせたのか。此処までの歪みを孕んだままにされてしまったのか。付き合いの短い私に分かることではない。
でも、なんとかすることはできる筈だ。歪んだ歯車を正常に戻すくらいは。それは彼を救う事にも、きっと繋がる。例え無理でもやってみせる。そう、彼が私を助けてみせたように。無理だろうと突き進まないといけない。
だって──彼が、好きだから。
彼は私にとって英雄で、だから彼を救いたい。そんな単純な、恋心。救ってもらったあの瞬間、私はもうそれに囚われていた。
彼を守りたい。彼を救ってあげたい。何処か危なっかしい彼を、ずっと支えてあげたい。
口に出すのも恥ずかしいそんな想いが、私を確かに突き動かしていた──。




