第二十話 「チート」
俺の手に一振りの剣が握られる。
先程獣を倒すのに使ったのと同じ、そして十年前にあの男を斬ったのと同じ、刀身が光る長剣。【エクスカリバー】だ。
「これが俺の固有魔法……【再構築】です。簡単に言えば、物を作り直す能力。今は、俺の魔力を作り直して剣という形にしました」
「ふぅん? 作り直す、と言えば確かにそういう魔法は聞いた事がないが……しかし、それで武器を作るとなれば【武器創造】と同じような結果になりそうだが」
「ええ。現にそれよりも格段に強力になってる。一振りで触れてもいないものを斬る、飛ぶ斬撃なんてまるで伝説の【神器】みたい。どうしてこんな武器が作れるの?」
持って当然の疑問を思い思いにぶつけられるが、その答えを俺は初めてこの魔法を使った時に得ていた。
「この魔法は……頭の中で『思った通りの物を』作れるんです。例えば『何でも斬れる』剣をイメージすれば、何でも斬れる剣が作れる。この剣……【エクスカリバー】は、僕がそういうものだとイメージして作り上げたからこそ、そういう能力が付与されている」
何故、視界内のもの、その全てを斬るというを持っているのかといえば、僕が作った【エクスカリバー】のイメージの元になっている『フォー・ライト・ファンタジー』において、最強の剣エクスカリバーは通常攻撃が全体攻撃になるという効果を持っていたのだ。
最強、というイメージがさっき言ったような『何でも斬れる』という効果も持たせており、【エクスカリバー】は『視界内にあるもの、その悉くを例外なく斬り伏せる』剣となっている。全てを斬ると言っても、イメージ的には斬撃が飛ぶと言ったほうがいいかもしれない。自分が振った剣を軌跡、その延長上にあるものがその通りに斬られるのだ。
それがどれだけ恐ろしい事なのかは想像に容易い。小高い丘にでも行って、街全体を遠目に見るところに身を置ければ、単騎で街を一つ壊滅せしめる事も容易ということなのだから。
「そして、その『何でも斬れる』『視界内のものを斬れる』という性質……概念は、剣が持つもの。持ち手に左右されないんです」
つまり、何の訓練も積んでいない農民であろうとこの剣を持つだけであらゆるものを斬る事ができる剣豪になり得る、ということ。
更に。
「この魔法……異様に燃費が良いんです。それこそ、今此処でこの剣を百本くらいなら余裕で作れる程度には」
二人が見せたその絶句は当然のものであり、特に魔法使いである少女に顕著に見られた。
魔法とは、世界を改変する力。その改変の度合いが大きければ大きいほど魔力を消費するのが原則だ。だが、この魔法に関してだけはその原則は守られていない。
何でも切り裂く斬撃を魔法で再現するとすれば、その改変の大きさ故に必要な魔力量は一流の魔法使いを十人集めても足りない程。それをポンポンと量産できるのがこの魔法。誇張でなく、悪用すれば簡単に世界を滅ぼすことすらできる。
「……武器を作るという点だけでもこれだけのポテンシャルを持つ魔法です。他にも色々と使い道はあるわけで、本当にフルで活用すれば出来ないことはないと言ってもいい」
金がない時は水をダイヤモンドに変えることも出来る。強くなりたいなら身体をもっと高性能に作り変えればいい。武器だって、剣と言わず水爆や戦闘機、戦車だってその気になれば作れないということはない。
「だから──僕はこの能力を使いたくはない」
わかったときは恐ろしかったものだ。何せ、元は普通の高校生に過ぎない自分が当然のように世界を滅ぼす力を持っているのだから。
それに、何度でも思う。これはズルだと。
悪用でなかったとしても、もらった力を得意げに振るう勇気は僕にはない。
それなら努力で力をつけよう。どうせ誰かを救うのなら、自分のでもない力じゃなく自分の力で救ってみせよう、と思えた。
今回は──駄目だったけれど。
「……その能力を持ったのが君で良かったよ。悪人が持っていたらと思うと背筋が凍る思いだ」
そう肩を竦めるドクター。
何でもないように振る舞っているが、その頰に汗が流れているのが見えた。
「……強大な力を自分の利になるよう振るわず、強くなる為に自分に厳しい鍛錬を強いるなんてそうそう出来ることじゃない。彼女から聞いたが、『銀』クラスなのに技も流派も使えるなんてとんでもないな。どう低く見積もっても『金』相当の実力はあるだろう。努力だけでそこに至ったというのなら、どれだけの時間を費やしたのか。どれだけの努力を積み重ねてきたのか。戦わない私にだってそれが容易に想像できるよ」
だが、と。ドクターは言葉を一度切った。
そして躊躇うように視線を泳がせた後、意を決したように再び口を開く。
「……どうしてそこまで出来るのか、私には理解できない。何が君をそこまで追い込んでいる?」
一瞬何を言われているのか理解できず、僕は唖然とした。追い込まれている? 僕が? 何に?
「君に闘う才能はこれっぽっちもない事なんて、私にだってわかるのに君にわからないわけないだろ? 君が一年かけてようやく出来るようになったことを、出来て当然みたいにやってのける人が、周りにはたくさんいた筈だ。そしてその度に思った筈だ。あの魔法を使えばこの中の誰より強くなれるのに、と」
……図星だった。
僕のいた騎士団は、いくつもある騎士団の中でも最強で、その中で僕はいつだって落ちこぼれだったから。才能のある人達が集められる集団の中で、才能のない僕は彼らについていくためにその十倍の努力を強いられてきたから。
「君がどんな努力をしたって、君の魔法を超える力を発揮できることはないのに。十年積み重ねた血を吐くような努力が、生まれた時から持っていただけの魔法に負けるなんてこと、君が一番よくわかっているはずなのに。使っても誰も責めやしないのに。どうしたらそこまで出来るんだ? 何が君を突き動かす? 何が君を追いつめている? なぁ、後学の為に教えてくれよエイリアス。何が君をそこまで歪ませた?」
でも、と思う。
ドクターの言うことは、きっと正しいのだろうけれど、僕にとっては間違いだ。
確かに、辛い時もあった。血を滲むような努力が辛く、投げ出したい時もあった。どうせ努力しても天井は見えてるし、魔法を使えばもっと強くなれるだろうと思った。
「僕は誰かの役にたちたくて、強くなりました。こんな力では何をしたって誇れない。その賞賛はこの力が受けるべきものであって、僕が受けるべきものではないから。僕は僕として、いつだって自分に誇れる自分でいたい。誰かの役に、たちたいんです」
これは心から思っていることで。
偽る事のない本音に違いなくて。
目の前の二人はその気持ちをきちんと理解した筈で。
だからこそ僕は、目の前で愕然としている二人が──理解できなかった。




