第二十一話 「よろしく」
そこからは、何故かその事について言及される事はなく。気まずそうに話を切り替えた少女とドクターにのせられる形で、僕は彼女たちと雑談にふけった。
「そういえば……まだ名前をお伺いしてませんでした」
自己紹介の機会をドクターが奪ったのもあって、まだ少女の名前は聞かせてもらっていなかった。いや、覚えていないと言うべきかもしれない。『白金』クラスともなると、流石に僕の耳に入ってきた事がないということはないだろうから。
「あぁ、ごめんなさい。名乗り忘れてた。私はサリア。姓はないからただのサリアよ。種族は見ての通りエルフで、歳は十八。エルフだけど年齢詐欺はしてないわ。クラスは『白金』の冒険者。よろしくね」
「あ、はい。宜しくお願いします」
サリアさんに笑顔で会釈をして、挨拶を返す。十八ということは同い年だが、基本的に誰にでも敬語を使う癖が出来てしまっているのと、サリアがエルフらしく整った顔立ちをしているのもあって大人びた印象を受け、対して僕ことエイリアスは端正な顔立ちではあるが少し幼く見えるため相対的に歳上のように感じてしまい、ついつい敬語で接してしまう。
「それと……ありがとう、助けてくれて。仲間のことは残念だったけど、今は私一人だけでも助かったのが、とても幸運なことに思えるから」
「…………そうですか……」
お礼を言われるも、それを素直に受け止められない。理由は……考えるまでもないことだろう。
この世界には蘇生魔法や蘇生アイテムといったものはあるにはあるが、蘇生には条件がある。頭が無事なことと、脊髄が無事なことだ。どちらかでも欠けていれば蘇生は不可能であり、サリアの仲間たちは頭を潰され、背骨を折っているなど見るも無残な遺体になっているので蘇生は不可能だった。埋葬するのだろう、一応死体は麻袋に入れられて荷台に乗せられていたが。
先程まで悲惨な目に遭っていたとは思えない程、サリアは気丈に振る舞っていた。
「助けてもらった恩もあるし、また今度きっとお礼をさせてもらうわね。ドクターにも」
「ん、あぁ……私には君に恩を売った覚えは無いんだが……まぁ、貰えるものは貰うがね」
気怠げにドクターが返事をする。
先程僕を問い詰めていた剣幕はどこへやら、今はすっかり眠そうに目を細め、馬を操っている。掴み所のない人だ。
「さて、まぁ私も挨拶くらいしかしていないし詳しく自己紹介でもしておくかな。私は、医者だ。名前は丁度いいものを持ち合わせていないから、ドクターでいいというのはさっき言ったな。よろしく頼む」
「……名前の持ち合わせとかいうパワーワード、初めて聞いたわ……」
僕もだ。
「普段何をしているかだが、各地を転々としながら医療の勉強をしつつ、居座ったところで診療所を開いている」
「診療所?」
「あぁ。やっていることは怪我を治したり、薬を与えてやったり……だな。まぁ金なんて取っていたらみんな神殿に行くから、金は取らないようにしているが。魔法以外の手段を用いること以外はやっていることは神殿と変わらないさ」
「どうして、そんな事を?」
「魔法は選ばれたものしか使えんからな。それだけに頼ると患者の回転も悪くなるし、何より医療費が高すぎる。私はこの世界にはまだない『医療』という概念を布教する事で人を救う事を目標にしているんだ」
まぁ、だいそれた夢だが……と頰を掻くドクター。確かに、医療という概念はこの世界では薄い。医者という言葉すら、僕は初めて聞いたというほどだ。だから、確かに人一人で成し遂げるには大きい夢だ。
だが、彼女の夢はとても輝いて見えた。
「応援しています、心から」
「あぁ……まぁ、それなりにやっていくさ」
気恥ずかしそうに顔を背けるドクターが、最初の印象に反してとても可愛らしいように見えたのは、きっと気のせいではなかった。




