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第十八話 「祈りと目覚め」

「ちょ……ちょっと!?」


 崩れ落ちる、私を助けてくれた(ヒト)。慌てて側に駆け寄って様子を見る。片手には臓物を抱えたまま、止血もしてない。上半身と下半身が、殆ど繋がっていない。呼吸は薄く、肌が白い。このままだと、もうすぐに死んでしまうだろう。寧ろ、まだそうなっていないのが不思議なくらいだ。

 どうする──いや、どう出来る?

 治癒は苦手だ。ましてこんな重傷、やったこともない。はっきり言って成功する気がしない。

 でも──


「そんなの、今関係ないじゃない──!!」


 右手で薄く糸のように魔力を伸ばし、涙目で私は患部に手を差し入れた。

 命がけで助けてくれた。無理だと思ったのに。諦めかけてたのに、最後に私は生きていられた。だったら私も、命懸けでこの人を助けないといけない。恩を返さないといけないのに、死なれたら私はどうしたらいいのか。


糸より紡ぎ(ハィルメルフィ)繋いで閉じよ(クライミスクライ)翠の灯(ガイムエンタ)──」


 使うことは無いと思っていたから魔法語すらうろ覚えの治癒魔法を途切れ途切れ唱えると、魔力が患部を繋ぎ止め流血を抑えていく。


「っ……酷い…………」


 抑えれば抑える程、治せば治す程に新たに露出する問題。そもそも失われた臓器すらある。肉だって大半が削がれ、獣の胃に納められている。流した血も多すぎる。攻撃に特化し、治癒は門外漢な私程度の魔力による治癒では、欠損を補うことは出来ない。

 もうどうしようもない──


 今日だけで何度目か。心が折れ、諦めかける。


「おーおー、派手にやらかしたなぁ……っと、酷いなこりゃ。確かにこのままじゃ死ぬかもなぁ」


 この場にそぐわない、まるで緊張感というものを持たない声が後ろからかけられるまでは。



 ◇◆◇◆◇◆



 辛うじて覚醒した意識のなか、僕は無意識のうちに腹部に手を当てていた。


 ──あれ。


 最早何も無いはずの腹部に、手応えがある。失われた筈の肌が、肉がある。


「…………あれ……?」


 ガラガラという音と共に、横たわった身体に伝う振動。どうやら僕の身体は馬車か何かで移動させられているらしい。

 パチリと瞼を開くと青空を仰ぐことが出来る。やはりどうやら、死んだ訳ではなさそうだ。


「あ、起きた!? ちょ、ちょちょちょっとあんた! 大丈夫!? 痛いところとかない!?」


 身を乗り出して僕の顔を覗き込む少女。

 さっき、獣に襲われていた少女だ。

 赤く長い髪が、ふわりと僕の顔を撫でる。

 これでもかと顔が近い。顔が紅く、熱を持つのを感じて少し焦る。


「だ、大丈夫……!」


 僕が気恥ずかしさに負けて、慌てて起き上がろうとすると。


「急に身体を動かすのはやめておけ。折角縫合した身体がまた、裂けてしまうぞ」


 そう、御者席からかかる声に身体を静止させた。

 老練な雰囲気を伴うその若い声の主は、手綱から手を離さずに身体を半分だけ荷台にいる僕の方に向けた。


「全く、私が通りかからなければ死んでいたぞ? 謝礼を要求したいところだが、一先ず挨拶をしておこうか。初めまして、エイリアス・シーダン・ナインハイト? 私の名は……あー、ドクターと呼べ。医者だからな」


 物凄く捻りのない名前を僕に告げ、悪戯っ子のような笑みを顔に浮かべてみせた。

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