第十二話 「この為に」
森には、辛うじてまだ差し込む夕日によって光が残っていた。
薄暗くはあるが、松明が必要な程ではない……戦闘になった時に、火がその辺りの木に燃え移ったりしたら大変だから、それは僥倖であるといえた。
木の根っこが露出し、足場は不安定だ。先程の洞窟よりはずっと。
戦闘になる。その確信が、既に僕の胸内を占めていた。
何故なら。一歩、足を森の奥へと運ぶたびにビリビリとした殺気が肌を震わせるからだ。
どんな敵なのか。この森には、少なくとも『金』クラスで始末できるような獣や、蛮族しかいない筈だったのに。
考えても仕方がない、とは思いつつ、やはり否応にも気にしてしまう。
ここで僕が死に、今赤い煙を上げている『白金』冒険者が死んだとすると、その敵は暫く、この森を我が物顔で闊歩するだろうことは想像に難くなかったからだ。
そうならないために、メメルさんに先に帰ってもらったのだが、『白金』クラスの代わりなど、そうそう準備出来るものじゃない。
『白金』。
冒険者クラスに於いて、上から三番目。
『銀』が六番目であることから、その格の違いは十二分に伝わるとは思うが、更に具体的に言うなら、伝説級のドラゴンやヴァンパイアを敵に回し、それでも易々と帰って来るのが『白金』以上だ。
至極当然の事だが、それだけの人材がそうゴロゴロと転がっているわけも無く、国全体で見ても『白金』以上のパーティーは十といない。
ガルムエントに限定すると、その数は一つだ。
確かパーティー名を、【涼風】と言った。
煙の下にいるのは、恐らく【涼風】だろう。
聞いた話だと、最近はエルダーマンティコアや、ギガントバジリスク、ヴァンパイア・ローズを討伐したと言う話だった。
どれも一つ間違えると、都市の一つも滅ぶような大敵。それを一人も欠けず制した者達が、今、助けを求めているとは。
森を抜ける風のように、走る。
急がなければ、もう既に全てが終わってしまう事もあり得る。
僕一人に何が出来るかは、知らない。
単なる偽善、自己満足に命を懸けていることを否定はしない。
でも、そう言う生き方を定めたからには、貫く。
命を懸けて。命に代えて。
考えごとをしているうちに、足はどうやら、目的地についたらしい。
肌を刺す威嚇が、限界まで強くなる。
氷よりも冷たく、刃より鋭い、殺気が。
足が震えて抵抗する。
──進むな。
──進むな。
──進んだら、オマエ。
────シヌぞ?
そう、訴えかけて。
僕はその問いを、肯定した。
死ぬだろう。しかし、良い。
死んでも、いい。
何せ、僕は今から、敵を倒しに行くんじゃない。
見知らぬ他人を、助けに行くのだから。
その為に、生きてきたのだから。
足の震えは止まる。
木々の間から垣間見えたもの。それは。
地面に転がった四つの死体と。
腰を抜かして怯える女の子と。
深々と傷つけられた樹木の数々と──。
黒い、全身が黒い毛に覆われた、恐ろしく大きく、邪悪な獣だった。




