表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/87

第十一話 「赤い煙」

 洞窟を出て空を仰ぐと、薄く朱色がかかった空に、俄かに星が煌めいていた。

 この世界の星は空気が澄んでいるからか凄く綺麗に見える。

 僕が俺だったころ、少しだけかじっていた星座なんかとは全く違うが、それはそれで、趣が深い。

 メメルさんも、僕の横で目を輝かせていた。

 鮮やかな夕日と星が同居した空は、確かに他にないほど綺麗に映える。


「帰りましょうか。疲れましたし……」

「ニャァ…………」


 ぐでり、と脱力して力なく返事をするメメルさんを見て、少し笑う。

 なんとなく、かわいらしい。顔ももちろん整っているのだけど、仕草がとても愛らしく思える。

 やっぱり猫特有のその奔放さが、猫人族(ミアキス)である彼女にも受け継がれているのだろう。


「帰ったらお魚でもご馳走しましょうか?」

「ニャッ!」


 尻尾をピンと立てて、目を丸くするメメルさん。

 嬉しそうに耳をぴこぴこと揺らす彼女を見て、僕はもう一度、笑った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 行きよりも格段に機敏な動きでメメルさんが道を走る。

 っていうか速い。速すぎて追いすがるのがやっとという程に速い。

 疲れているのに全力でダッシュするのを余儀なくされ、自らの失態を悟る。

 帰ったら、と焦らすのではなく。

 帰ってから言い出すべきだった──!!


「…………はやく」

「も、もうちょっと、ゆっくり……お願いします……」


 ぜえぜえと肩で息をしながら懇願すると、渋々ながら、走るペースを下げてくれた。

 間違いなく、依頼より疲れた。なかなか理不尽なことである。


 息を整えながらゆっくりと走っていると、急に、ふと、メメルさんが立ち止まった。

 視線がどこか、明後日の方向……正確に言うならば、道の脇にある森に向いている。


 確か、名前をアンザスの森と言った。

 街に一番近い樹木の群生地で、町に運ばれ建築に使用される木材のほとんどはあそこの木だ。

 同時に、新米冒険者の訓練地としても知られている。

 そこに居る動物や蛮族が、そこまで強くないものばかりで、実践を積むのには最適な環境だからだ。


「どうかしましたか?」


 気になって、聞いてみる。

 メメルさんは奔放だが、意味のないことはしない人だと既に悟っていた。


「…………ん、なんだかわかんない。けど…………あかい、けむり」


 赤い、煙?


 …………~~~~~!!!!


 悟った。それが、なんであるのか、僕にはわかってしまった。

 視線を上に向ける。

 集中しなければ見えないほどに薄く、しかし確かに赤い煙が立ち上っていた。


「夕日で……見えなかったのか……!!」


 失態だ。

 もっと早く、気づかなければならない類のそれだったのに──!!


「…………ニャ?」


 メメルさんが不思議そうに首をかしげる。何故、僕が慌てているのかわからないというように。

 当然だ。依頼関係の流れすら把握していなかった彼女に、この信号の意味が理解できるはずがない。


「…………僕は、もう少し遅くなります。先に帰っていてください。受付嬢さんに赤い煙を視た、と伝えてください」

「………………ニャァ……」


 出来る限り、不安をかき消すように。

 内心の恐怖を打ち消すように、笑って、お願いする。


「…………わかった」


 こくり、と頷いて、メメルさんが走り出す。

 離れていく背中を見送って、僕は森に向き直った。


 赤い煙。それは。

 冒険者、『白金』クラスの救難信号。

 即ち。僕よりも強い冒険者が。僕よりも多く徒党を組んで。

 しかし(・・・)それでも(・・・・)

 壊滅の憂き目を見ている、と。

 そういう、信号であった。


 走り出す。

 行ったところで、何ができるかわからない。

 何が待ち受けているのか、知らない。

 それでも、助けを求められたのなら。

 手を差し伸べなければならないと、そう、思ったから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ