第十三話 「脅威」
どうして。
どうして、こんな──。
地面に転がった死体と。
目の前に悠然と君臨する黒いケモノ。唯一白い爪と牙を赤く染める血。
私は、それを見て、頭が真っ白になった。
簡単な依頼。
少し、森がざわついているから見てきてほしいというだけの、依頼。
依頼の指定クラスは『銅』だった。『白金』の私たちがそれを受注したのは、なんてことはない、気まぐれ。
アンザス森は最寄りのガルムエントによって重要で、私たちは暇をしていて、この依頼がたまたま余っていたから。それだけ。
なのに、どうしてこんなことに──。
『いつ如何なる時も、油断しないこと。』
厳粛なリーダーの神官、ガシムは言った。
『だぁいじょうぶだって!どんな敵でも、俺が食い止めてやっから!』
お調子者の戦士、ザーミェンは言った。
『調子乗りすぎ。ま、頼りにしてるから、私は安心して殴れんだけど』
面倒見のいい拳闘士、サマリーは言った。
『そ、そんなに殺気立たなくても……ほら、森とか綺麗だし、息抜き程度に考えて、ね?」
小心者の斥候、エルクは言った。
私、なんて言ったっけ。もう覚えてない。
まさか、あんなのが最後の会話になるなんて思いもしなかったから。
明日からもずっと、こんな日々が続くって信じてたから。
最初に気づいたのは、エルクだった。
ガサガサと、草をかき分ける音がしたと言い。私たちはそれを警戒し、陣形を組んだ。
前衛のザーミェンが抑え、サマリーが敵を殴ってひるませ、魔術師の私が魔法を放ち、ガシムが神聖魔法でサポートし、万能なエルクが全域をカバーする。
凡庸だけれど、基本を押さえた布陣。みな、実力者だ。簡単に破れるはずもない。
そう、驕っていたのだろうか。
黒い風が草むらから飛び出し。
一番前に立っていたザーミェンの首から上が消えうせた時、私は声も出なかった。
頭を失ったザーミェンだったものがその場に崩れ落ちる。
呆然と立ち尽くす私達。それは、ケモノにとってどれだけの隙に見えただろう。
だから、続けてサマリーの体が前足に薙がれてへし折れるのは、当然のことだったのだ。
「逃げろ────!!!!!」
ガシムが叫び、めったに使わない両刃斧を背中から外し、ケモノと打ち合った。
ガシムは全身が大きく、後衛ながら身体ほどの大きさの斧すら容易に振り回す。
爪と刃がかち合い、しかし、ケモノはびくともせずにそれをはじき返す。
隙だらけになった頭を、太い前足が叩き落とす。
ゴシャリ、と頭が肉球と地面にサンドされ、平たく潰される。
「アイリ!! 救援を! もしここでやられても、犠牲が増えないように──!!」
云われて、慌てて煙を立ち昇らせる。
救援要請。『白金』以上には支給される、紅い煙の発生させられるマジックアイテムだ。
「相手はケモノ、逃げようもない……しょうがない、やるぞ!! 誰か、これに気づくと信じて──!」
いつになく気迫に満ちたエルクが、後ろ腰に備えていた短剣を取り出す。
あの強大すぎる爪と牙に比べればあまりに、頼りない。けれど、エルクの強さは知っているから。
彼に前を任せ、信じて魔法の詠唱を始める。
一撃、魔法を喰らわせられれば、何とか逃げる隙もできるはずだ。
そして、数合と打ち合わぬうちに、あっさりと吹き飛ばされてこと切れた。
もう、残っているのは、私だけだ。
みんな、死んだ。
私も、死ぬんだ。
「…………嫌。死にたくない! 死ね、ない……!!」
もがいて。何もない生に、意地汚くしがみついて──。
私を、黒い影が覆った。
あ、もう、駄目──。
「死な、せるかよぉぉぉぉぉ!!!!」
瞬間。前触れもなく、風とともに飛び出してきた何か。
それがケモノに斬りかかる。
天性の、動物的反射で爪を振るうケモノ。
ガギリ、と鈍い音がして、それらは空中で接触する。
そして、ケモノが大きく吹き飛ばされた。
「やらせ、ねんだよ……! 僕が、じゃない。俺がだ!!」
肩で、息をする青年。
金髪が、風でふわりと揺れる。
誰だろう。関係ない。
目の前で、私を護るために仁王立ちするこの青年が。
私には、英雄に見えたんだから──。
21字更新とは、いったい……?
最近少し、忙しく……申し訳ない!




