第七話 「出立」
一度別れて家に帰り、装備と荷物を携えて再びギルドに向かう。
鎧はギラギラと陽に照らされて輝く金属製の高級品だ。コロシアムの優勝賞品だが、少なくとも金貨数十枚は降るまい。
重苦しい全身鎧ではなく、胸当てと籠手、あとは膝当てと足甲だけの軽装備。
軽い素材で出来ているのか、付けていて何故か重さをまるで感じない。流石は高級品といったところだろうが、コロシアムで付けていた装備よりも身軽とは恐れ入る。
剣もコロシアムで使っていた安物ではなく、これもコロシアムの賞品の、金に輝く片手剣。それも二本だ。
武器に関しては自由に選べたらしいのだが、その段になって僕は倒れていた。
だからガルマが選んだらしいのだが、そこは流石に彼らしく、僕のスタイルに合ったベストの武器を選んでくれた。
どちらも魔法で強化されており、鎧は軽いが強いし、剣は切れ味が更に増しているのだとか。
荷物はロープとか松明とか水袋とか着替えとか、旅に必要な諸々を一まとめに詰めたバッグだ。足りないものもあるかもしれないが、困ることがあったら次から足せば良いだろう。
ギルドに到着すると、店の前でメメルさんが待ち構えていた。
革製の胸当てを窮屈そうに付け、長い髪を一つに纏めている。俗に言うポニーテールだ。猫なのに。
「…………いく」
「そうですね。行きましょうか」
「ん」
こくりと頷き、メメルさんは僕の隣に立ち、歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
街の門を出て、地図を見て道なりに進んでいく。
舗装はされているが杜撰なもので、道はデコボコとしている。馬車で通るとお尻が痛くなりそうだ。
道の周りには薄茶色の草が生い茂って、風に撫でられて揺れていた。
「…………草むらに入るのは禁止ですから」
「…………ニャァ……」
うずうずと体を揺らしていたメメルさんに釘を刺すと、メメルさんは小さく鳴いて、がっくりと肩を落とした。
猫じゃらしじゃあるまいし……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
洞窟に着く。
入り口は広く、中は光が途中で途切れているため、よく見えない。
依頼は、ここに押し入って中にいるゴブリンを倒す事だった筈だ。
生き物を、殺すのは……十年ぶりだ。
守る為だった。けれど、あの嫌な感触は今でも手に取るように思い出せる。
出来るだろうか、僕に。
純粋に、ただ生き物を殺すという事が。
「…………いってくる」
それだけを言い残し、入口の前で立ち尽くす僕を置いて、メメルさんが洞窟に入っていく。
猫人族には暗視能力があるらしく、松明を持たなければ入れない僕とは、そもそもの索敵能力が段違いだ。
行ってから、一人で少し待っていると。
「…………ただいま」
突然、ひょっこりと帰ってきた。
「お帰りなさい」
「ん、ただいま……みおわった。から、かえってきた」
顔を猫らしく手の甲でくしくしと搔いて、メメルさんは言った。
「案外、早かったですね。そこまで広くはなかったですか?」
「えっ……んー……わかんない。ほかのどうくつ、しらないし。あ、ごぶはたくさんいた」
知らないのか……。
本当に、この人どうして斥候が出来てるのだろう。修行とか、していないのだろうか。確かに、猫人族は斥候に優れてはいそうだけれど。
「そうですか……じゃあ、案内をお任せして大丈夫ですか?」
「………ニャ」
肯定の意を示す鳴き声を発して、彼女は頷く。
僕は松明に火を付けて左手に持つと、空いた右手に鞘から抜いた剣を持った。
メルルさんが先に洞窟の闇に消え、見えなくなる。
少し、二の足を踏んでから、意を決して彼女を追いかけた。




