第32話:崇拝
アクション!
「突然何だって?それに誰だアンタ等」
「ふむ、見たところ庶民の様だが…我々は北邦騎士第四師団」
「で?」
「ん?北邦騎士の名を聞いて分からないのか?」
「生憎こっちに来てから日が浅いんでね」
「ふむ?まぁ良い、説明してやろう、おい!」
「ハッ!偉大なる我々北邦騎士団ではかつて強大な力で北の地を治めた魔女様に習い平和の為に魔女様の血統を保護させて頂き、日夜大陸全土を奔走し活動する者の集まりです!」
「ご苦労、下がれ」
「ハッ!」
「と言う訳だ、そちらの麗しき黒髪、吸い込まれる様な浅黒い褐色の肌、そして見つめられるだけで跪きたくなる金色の瞳!魔女様の血を色濃く受け継いだ純血の表れ!その御方を我々の象徴として保護しに参ったと言う訳だよ」
「ふーん、で?」
「だから!我々はその御方を迎えに来たのだ!さぁ魔女様、どうぞこちらへ!」
「ルイン、左手を」
スッと鎖の巻き付いた十字の刻印を見せる。
「なっ!これは奴隷の印!貴様、まさか?」
確か照明するには…ルインの左手に自分の右手を重ね強く念じる。
すると十字の刻印が輝きを放つ。
「って訳だ、わざわざご苦労さん」
「な、なっ!」
ぷるぷると震え顔を赤くする男。
「ぐっ…まぁ良い、いくらだ?我々もその御方の価値は分かっている。金貨100で良いか?」
「はぁ?」
ルインがギュっと服の裾を摘まんでくる。
「ふむ、やはり納得せんか…宜しい、ならば金貨200出そう。おい、直ぐに用意しろ!」
「ハッ!」
『ご、ご主人様…今までお世話になりました…』
俯くルイン。
「おい、何ふざけた事抜かしてんだ?」
「む?なんだ…まだ足りぬか…仕方無い、いくらだ?言ってみろ」
「いくら積まれようが手離す気はねぇよ」
『えっ』
「は?」
「行くぞルイン、おら!道空けろ!」
ルインの手を取り騎士達を押し退け宿屋街の方へ向かう。
困惑気味だが騎士達は後退り、悠々とそこを通る。
「待て!貴様!我々に協力せんと言うのか!」
「なんの協力だよ」
「無論平和の為にだ!魔女様の威光があれば他国との小競り合いも無くなり、何事も円滑に進むのだ!更に其れほど色濃く表れた血統の容姿!我々が保護したとなれば第四から第一師団への昇格も可能!魔女様の地位も暮らしも最高のモノになる!」
「ふーん、まぁ俺には関係無いし」
「貴様…!」
『確認だけど…ルイン、俺とアイツ等どっちを選ぶ?』
『決まっています!あの日、私を呪いから解いてくれた時からご主人様から離れる事なんて考えれません!どうかいつまでもお側に!』
ストレートな好意に少し照れる。
「仕方無いな…全員剣を抜け!」
シャン、シャン、シャン…次々と剣を構える。
「北邦騎士第四師団!副師団長、ビブル・ロ・シュセムが許可する!魔女様に不等な扱いを行うこの男に裁きを!」
「はぁ…一応聞いといてやる…」
「全員…掛かれぇぇー!」
「良く聞けよ?加減はしねぇ!責任は取らねぇぞ!覚悟のある奴だけ掛かって来い!」
「「「「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」
野次馬達は離れ高みの見物だ。
大通りは広く、また囲まれると面倒だが騎士達は横5列の編隊を組み、波となって真っ直ぐこちらへ向かってくる。
「てめぇら全員同じ考えって訳か…ふざけやがって…!捻り潰してやる!!」
腰に提げた籠手を引き抜き
【加速】+【闘志】を発動。
同時に踏み込み、一気に距離を詰める。
見えない速さで目の前に現れた男に騎士達が一声に剣を降り下ろす。それに合わせて1歩後退、カンッと石畳に高音が響く。
【加速】+後退回避加えてWSを発動。一瞬姿を消したと同時、空気が横薙ぎに歪み拡がる、衝撃が騎士達を襲う。
大旋風・放:脚を半月状に払い中範囲の敵にダメージを与える風圧を飛ばすWS。TP消費90
「あああぁぁ!」「ゴフッ…」「何…が!」
衝撃は列の後方まで届き一瞬にして師団を壊滅させる。
前列の何人かは吹き飛び野次馬達からは悲鳴が上がる。
立って居るのは副師団長を含め4人。
3人の騎士が倒れた者達を避けながら向かって来る。
「はああぁぁぁ!」
最初にたどり着いた騎士に強攻撃。
鎧が割れ、沈んだところで二人目が追い付く。
【加速】+ステップインからの見えないWS。
顔面に凄まじい力を叩き込まれた騎士が追い付く寸前の三人目を巻き込み吹き飛ぶ。副師団長の横を掠め回転し煙を放ちながら出店へ突っ込む。
「そんな…き、貴様何者だ!こんな事して!た、ただで」
「済むと思ってるよ!おらあああぁぁぁぁ!!」
(【加速】+ステップイン)×3
一瞬で離れた距離を詰める。
【闘志】+WS
両蹴り:勢い良く放たれる両足を使った蹴り。宙空を小距離飛び進む。TP消費25
男が盾を構えるがその瞳の印を砕き、骨の折れる嫌な音、鎧のひしゃげる鈍い音を響かせ広場の中央、街のシンボルであろう八角形の石の塊に周りに設置されたベンチを巻き込み激突する。
「人が優しく聞いてやったのにな…」
拳を上げる。
「俺の…勝ちだ」
『あの人数をこんなにも早く…やっぱりご主人様は凄すぎます!』
駆け寄るルインを優しく撫でる。
『一旦宿に戻ろうか』
『はいっ』
野次馬達が騒がしい中、一人の男が何人かの鱗の鎧で装備を固めた男を引き連れやってくる。
「北邦騎士の連中が騒いでいると聞いてやって来たんだが…この状況は何だ?」
野次馬達の視線が一声に集まる。
他の男達のくすんだ緑の鱗装備と違い、鮮やかなエメラルドグリーンの鱗装備の男達を引き連れてきた男が近づいて来る。
「私はこの街の衛兵長、話を聞かせてもらえるか?」
面倒事にならなければ良いが…。
「お前達は野次馬達からも話を聞け!連中も署に連れていき手当を、手の空いた者は片付けを!」
指示を受け衛兵達が迅速に動く。
「ここではなんだ…本部にご同行願えるか?」
「断ったらどうします?」
「後日強制的に」
「んー、了解です」
衛兵長に付いていき、ギルドとは反対の道を進む。
暫く進み広い大通りへ。更に進むと四角い大きな建物が見えてくる。青い屋根の建物だった。周りにもいくつか同じ色の屋根をした建物が確認出来る。
「ここがこの街の衛兵所本部だ」
中へ案内され一階最奥の部屋へ通される。
少し広い、取調室の様だ。
「私は衛兵長のパルムドール、早速だが名前と仕事を教えて貰えるか?」
「セイラ・アズミ、この街へ来たばかりの冒険者です、彼女はルイン俺の奴隷でもあり同じく冒険者です」
2枚のギルドカードを見せる。
「ふむ、ありがとう。それで騒ぎの原因は君達に?」
「そう言われるとそうですね」
「理由を聞いても?」
「アイツ等が彼女を渡せと言ってきたので断ったら襲われたので自己防衛として反撃しました」
「成る程…理由は容姿か…彼女も応戦したのかね?見たところ良い装備だが」
北邦騎士が魔女を崇拝しているのは常識らしい。
「いいえ、俺一人です」
「君が一人で?ふむ…おい!入れ!」
「失礼します!魔道具でも嘘は言っていない反応です!」
水晶を持った男が部屋に入り答える。
「悪いが外で試させて貰っていた」
「気にせず…」
気付いていたので問題は無い。
「うーむ、正直自己防衛にしてはやりすぎだが…冒険者で身元もしっかりしている。態度も良いので問題は無いだろう…時間を取らせてしまい申し訳無い。」
「いえ、こちらも非がないのを証明出来たみたいで安心です」
「この街は差別や魔女を崇拝しているなんて事は無いが彼女は目立つ容姿だ、この街へ来て日も浅いと言ったな?何か困った事があれば遠慮なく頼ってくれ」
「ありがとうございます」
帰るまで部下を付けると言われたが断る。
『少し遅いけどお昼にしようか』
『はいっ!』
衛兵所本部を出て近くの食堂へ入る。
お婆ちゃんが出迎えてくれた。
「おすすめを二人前と…使い魔にも何か食べさせてやりたいのですが…」
「構いませんよ、どうぞ寛いで下さい」
ヤトを喚び料理を待つ。
『食べ終わったら宿に戻ってゆっくりしよう』
『私のせいでゆっくり出来ませんでしたね…』
『ルインのせいでは無いでしょ、気にしない事』
『はい…ありがとうございます』
指を使いヤトとピシピシ闘っていると料理が運ばれて来た。
野菜と肉の炒め物、柔らかそうなパン、茶色のスープ、ヤト用には骨付きの巨大なウィンナーを用意してくれた。
「いただきます」
『いただきます!』
「ピィー!」
「うまい!」
この街の味付けは中々満足させてくれる。
銀貨3枚を渡し店を出て宿に戻る。
「おかえりなさいませ、後でお部屋にお飲み物を運びますね」
「お願いします…えっと、リーラさん」
「あら、覚えてくれたんですね。かしこまりました」
部屋で寛いでいるとノックされる。ルインが対応し銀で出来たいくつかの容器が運ばれてくる。
「お水とナクの実の果汁、牛の乳と珈琲を御持ちしました。魔道具なのでいつまでも冷たいままです」
リーラさんに礼を言い銀貨1枚渡す。
「ありがとうございます。何か要望があればおっしゃって下さいね」
丁寧なお辞儀をして部屋を出る。
用意されたグラスにルインがナクの実のジュースを注いでくれる。
「うん、美味しい」
『ラフィンで食べた実より甘いですね!』
自分の分を注いだルインが一気に飲み干す。
ヤトを喚び、アイテム欄から至高の実を取り出し与える。勿論ルインにも。
「露天に浸かってくるね」
『あっ、私も一緒に…!』
「良いからゆっくり食べな、ヤトと遊んであげててよ」
『はい…かしこまりました!』
長風呂で体をほぐし浴衣に着替え部屋へ戻る。
「ルインもゆっくりしておいでー」
『はい、頂きますね』
戦闘中では無いのでTPが徐々に回復する状態ではあるがヤトを戻しておく。
「ヤト、戻って」
「ピィ…」
「レベルが上がれば装備でヤトをいつでも喚んでおく事も出来るからさ、それまでは我慢してくれな」
「ピィー!」
ルインが浴衣に着替え部屋へ戻ってくる。汚れ物も外に持って行ってくれた。
「明日はクエスト受けようかー」
『はい!』
夕食時、又豪勢な料理に舌鼓を打つ。
小さい鍋の中には野菜とキノコ、白身魚が入っており、肉料理は豚肉の香辛料焼き、小鉢が何品かとデザートにプルプル。ミルクプリンだ。ヤトには肉の塊の中にオコメマイが詰まった物を用意してくれた。
だらだらと過ごし、夜も更けベッドへ潜る。
『ご主人様…今日は嬉しかったです』
「えっ、何が?」
『騎士の方が金貨200枚出すと言うのに断ってくれてです』
「あー、まぁ当然だよ」
『でも…大金ですよ?』
「んー、金の問題じゃ無いしな…」
『出来れば…これからもずっとお側に居させて欲しいです…』
昼にも同じ事を言われた気がする。返事をしないまま騎士達とやり合ってしまった事を少し後悔。
「ルインが離れたくなっても離さなくて良い?」
『そんな事ありえません!』
「そう?んじゃずっと側に居てね」
『はいっ!』
嬉しそうなルインの頭を撫でる。
「おやすみルイン」
『おやすみなさいませご主人様』
大人数を相手にして少し疲れていたのか、それとも昨日人生最大量を放出したからなのか分からないが、目を閉じると直ぐに眠りに就いた。
白い男が現れる。見蕩れる様な整った顔立ち。透き通った白い肌。白く長い髪の毛を後ろに流し、首もとから爪先まで上品な白い服を纏った。嘘の様に真っ白な男が現れる。
「気を付けて」
その声も又、何処か嘘っぽかった…。
バトルがいちばん




