第26話:獣
お待たせしました
「話は分かった…ドレイドル…ここら辺じゃ聞かない名前だな」
「そうか」
「一応後で記録が残ったりしてないかミラに調べさせておくよ」
「分かった、ありがとう」
「これからどうするんだ?」
「とりあえず今日は依頼の報告だけして休むよ」
「そうか…何か分かったらミラに伝えておく」
「あぁ」
2階に降り、ビルの所へ行く。
何か作業をしているがこっちに気付いた様だ。
「おっ、兄ちゃん!なんか大物でこ狩ったか?」
「大物は居なかったけど…」
イベントリから回収したモンスターを作業台に出す。
「迷宮産のモンスターじゃねーか!ちょっと待ってろ」
「ブルとグリグリとネンムルは1体ずつ残して貰っても良いですか?依頼の報告があるんで」
「ギルド依頼か?感心感心、それなら大丈夫だ。買い取り表に達成の証押しとくからな」
「んじゃそれで」
査定の間少し待つ。
『ルイン、今日はお疲れ様』
『ご主人様もお疲れ様でした…あの…大丈夫、ですか?』
『正直ちょっとキツいかな…ルインは?』
『私は平気…では無いですけど大丈夫です』
『そうか…ちょっとダンジョンに潜るのは休憩してゆっくりしようか。ドロップあるからお金も平気だろうし』
『ご主人様がそうおっしゃるなら…』
「終わったぞー」
ポンポンっと頭を撫でビルの下へ。
「結構あったな…ブルが2体で22万、グリグリが1体16万、ネンムルが1体8万…蜘蛛が11体で44万ってとこだ、ブルは肉屋に持っていったほうが高いがどうする?」
「んじゃブルの肉だけ少し貰って良いですか?全部買取で大丈夫なんで」
「あいよ、ありがとな!ギルド依頼の報酬も悪く無いはずだから兄ちゃんも良い防具揃えろよ!」
「気が向けばって感じですかね…」
「まぁ兄ちゃんが腕利きってのはこのモンスター達を見れば分かるが…姉ちゃんは良い装備してんのに兄ちゃんがそれじゃ格好付かねえぞっ」
「ハハッ」
『ご主人様は格好良いですよ?』
『そうか?ありがとう』
「んじゃ今回はピッタリ100万ネルだな!また頼むぞ!」
礼を伝えミラの所へ。
「ミラ、先にビルさんに見てもらってきたからコレ…」
「お疲れ様ですセイラさん、依頼の対称モンスターですね!それでは報酬とギルドカードの更新をしますので少しお待ち下さい」
「あと糸の買取りもお願い…そういえば契約金払って無いけど良いの?」
「はい、他の街や大きい都市なんかは分かりませんがウチではランクCの冒険者様からは頂いておりません」
「了解、ありがと」
査定を終え、報酬の入った袋と2枚のプレートを受け取る。
「今回の依頼達成報酬が全部で40万ネル、大蜘蛛の糸が5つで15万ネルになります。お確かめ下さい」
「買取り価格結構良いな…蜘蛛で金策も有りか…」
「ジャイアントスパイダーの糸は細く強靭なんで需要が多いんですよ」
「なる、報酬もオッケー、ありがと」
「おっけー…ですか?えっとまたお待ちしてますね」
手を泳がせ宿へと向かう。
ネイルに2日分宿代金を先払いし少し早めの夕食を取る。
ニールさんにブルの肉を焼いてもらいヤトに食べさせ自室へ。
「ルイン、近々街を出ようと思うんだけど…」
『はい』
「これから先、またドレイドルみたいな奴が居るかもしれない」
『はい…』
「そんな奴等が俺達にも襲い掛かってくるかも」
『はい』
「それでも付いてくるか?」
『ご主人様…私は何処へでも付いていきますよ?』
「恐くないか?」
『ご主人様と一緒なら!』
「分かった…ルイン、強くなるぞ」
『はい!私もご主人様の隣で闘えるように!』
「あぁ、取り合えず次の目標はレベル100だな…」
『頑張ります!』
感傷に浸っている暇は無い。
目的がある。立ち止まる理由は無い。
日課の様にルインにお礼を言い今日も瞼を閉じる。
目が覚めると金色の瞳に吸い込まれる。
「おはようルイン」
『おはようございますご主人様』
食堂へ行き朝食を済ませる。生野菜に塩を掛けたサラダ、吹かした芋とハムステーキ、ヤトにはぶつ切りにされ煮込まれた肉を用意されていた。
「今日も美味しかった、ごちそうさま」
「ふふっ、ヤトちゃんも美味しかったかなー?」
ネイルさんに頬ずりするヤトを羨ましそうに見つめる視線を厨房から感じるが宿を出る。日課のバルバルのお乳とナクの実を食べギルドへ向かう。
『今日はどうするんですか?』
『んーまだ何も決めてないんだよなー』
ギルドへ入ると何やら騒がしい。
「頼むよ!誰か!」
「つってもよー…」
「あぁ…厳しいぜそりゃ…」
皮の装備で全身を固めた男が叫び周りが浮かない顔。
「おはようミラ、なんかあったの?」
「あ、セイラさんおはようございます!実はある冒険者の方がギルド依頼で東の廃城へ調査任務に向かわれたのですが…」
「廃城ねぇ…まぁいかにも何か出そうだもんな」
「はい、それで腕利きの冒険者様が引き受けて下さったんです」
でも…と続ける声を先程の男が遮る。
「頼むよ!稼ぎならあるんだ!望む額を用意する!だから誰か一緒にリーダーを助けに行ってくれ!!」
「アイツは二つ名持ちだろ?そんな奴を助けれる実力のある奴なんて今居ねーぞ」
「お前らだって!リーダーには…ガウンさんには助けてもらった事だってあるだろ!?誰か頼むよ!俺と仲間達じゃどうにか出来る相手じゃないんだよ!うっうっうぅ…!」
「ルイン今日何するかは決まった、行くぞ!」
『ガウンさんを助ける、ですね?』
「当然!おい、アンタ!俺が行く!」
「な!本当か!誰だか知らんが…恩に着る!」
「詳しく事情は分からねーけど急いでんだろ?俺達はすぐ行ける」
「あぁ!そっちの金眼の人もお仲間さんか!助かる!」
「あのっセイラさん!何も聞かずに大丈夫なんですか?!」
「話なら移動中聞くよ、んじゃ行ってくる」
「ちょっと待って下さい!」
ミラが裏から何か持ってくる。
「お役に立つか分かりませんがギルドから支給品をお渡しします!お気をつけて!」
「あぁ、ありがと。ルイン、行こう!」
『はい!』
「お兄さん達付いて来てくれ!東門にハイヤールグルを待たせてる!そっから現地へ向かう!」
「了解、急ごう」
今度もナニが待ってるか分かんねぇ…ガウンとは出会ってまだ数日、付き合いも長い訳でも無い、けど世話になったのは事実だ。
「待ってろよガウン…」
門を出てすぐ外に六本足で首の長いカバの様ないきものが居た。
背中には馬車の様な屋根付きの荷台が括られている。
「こいつだ、乗ってくれ!」
初めて見る生き物だ、興味が湧くが我慢だ。
「いけ!目指すは東の廃城カセット!お兄さん達、しっかり捕まっててくれよ!」
そして道中話を聞く。ガウンを何故助ける必要があるのかを。
「俺の名前はチット。呼び捨てで構わねぇ」
「俺はセイラ、それと彼女がルイン」
「お兄さん、まさか飛び膝か!?」
「その呼ばれ方は微妙なんだけど…まぁそうだ」
「ガウンさんが言ってた…っと先ずは先に礼を言わせてくれ。
感謝する!」
「気にしないでくれ、ガウンには世話になってる」
「ありがとう…ありがとう…」
涙ぐむチット。
「それより本題だ、なるべく情報が欲しい」
「あぁ、そうだな…先ず…」
チットの話で分かった事がいくつか。
ガウン率いるパーティ<ヘルプハンダー>5人で依頼を受け万全の状態で廃城へ向かった事、ガウンとチット以外はラフィンの街で入院中、順調に調査は進み城の最上階である種族に出会いガウンに退却を命じられた事、退却から既に二時間程経過している事。
「その種族が…ヴァンパイア、か」
「あぁ、だがガウンさんは実力的にはランクAの冒険者に劣らないって言われてるんだ…他の仲間はランクCだが、それでもヴァンパイアに遅れは取りはしねぇ…けど…」
「退却を命じられたって訳か」
「確かにいきなり骸骨も現れて俺達は焦ったが…」
「骸骨が?」
「あぁ、床から這い出るように4体骸骨が現れたんだ」
「チット、このルグルが潰れても良い!急げ!」
「急にどうしたんだよ!?最初からそのつもりだ!」
ヴァンパイア自体はさして強力じゃない、ランクC~B程度。
自己再生付きでレベルもそこそこだから熟練度上げに人気なくらいだ。が、どのモンスターも職業付きは総じて危険度が上がる。そして今回は恐らく…
「死魂術師…ガウン、持ちこたえろよ…」
『ルイン、気を引き閉めて行くぞ』
『はい!』
遠くに城が見えてくる。太陽に照らされた真っ黒な城が。
「不味いな…相性が悪い…ぐっ!」
「どうした冒険者?儂はまだこの椅子から立ち上がってすら無いぞ?」
「ハッ!油断は命取りになるぜっ!」
骨の兵士の剣を受け止め弾き返す。体制の崩れた骨に長く、大きく曲がった刃による斬撃を加える。
斬撃を食らいながらも骨の兵士は反撃をする。
「刃が通らねぇ…普通なら骨だろうと関係ねーが…」
玉座に座り、悠々と眺めるこの城の主。
長く後ろに流した髪は青、顔は整い青白い。耳は先が尖っており、瞳は金色。額からは4本、短く角が生えている。
「回復薬も残り少ねぇ…どうする…」
普通のヴァンパイアならばガウン1人でも勝てる。
が、相手は骸骨を使役し、更にその骸骨までも普通の強さでは無い。使役される側の強さは使役する側の実力に依る。
「高位って訳だな!」
4体相手、骨の攻撃は単調だが中々反撃は出来ない。
更に骨に刃は通り難く、ジリジリと体力を削られていく…。
「これで最期…」
回復薬を飲み呟く。骨は残り3体。
「奥の手を見せてやるよ…」
「ほう?抗うか?ならば…」
城の主が手を挙げると骨の兵士がバラバラになり一つに纏まる。
新たに一つの骨になる。身の丈は3メートル程になり、骨で出来た兜と鎧、巨大な剣を両手で構えて居る。
「フーッ…」
目を閉じ呼吸を整える。
身の程を分け前ない巨大な力は自身を滅ぼす。
使いこなせない高級な装備に身を包む冒険初心者をよく注意したものだ。思いだし自嘲気味に嘲笑う。そして…
「狼が来るぞ…」
獣が獰猛に嘲笑う。
「着いたぞ!この城だ!」
「チット、お前はここで待っててくれ!」
「な…!」
「お前の言いたい事は分かる、が…」
「なら!」
「酷な言い方になるが、ガウンが退却を命じたんだろ?お前達じゃ手に負えないって判断だ。なら俺にとっても邪魔になる」
「ぐっ…分かった!ルグルは直ぐに出せるようしとく!リーダーを頼んだ!」
「任せろ!行くぞルイン!」
『はい!』
城内に入ると大蝙蝠の群れが襲い掛かってくる。
「ルイン!上に向かいながら撃ち落とせ!走るぞ!」
『はいっ!』
「撃ち漏らしは俺が殴る!」
上へ上へと向かいながらルインが器用に蝙蝠を沈めて行く。
何体か目の前に表れるは全て殴り一撃で落とす。
三階迄上がった所で雄叫び…いや、遠吠えが聞こえる。
「ア゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ーン゛!!!!」
「なんだ!?」
『ご主人様!上に!』
大蜘蛛。ドラゴンの顔に脚が12本生えたソレは大量の骨で出来ている。ドラゴンの額には青白い裸を惜し気も無く披露させた女性の腰から上が生えている。
「旦那様は只今客人と遊んでおられますので私がお相手させていただきます」
「美人の誘いは悪くねえが…生憎間に合ってるんっ…でぇ!」
【加速+加速+闘志】からのWS
鼻先に強力な一撃を浴びた骨の塊にヒビが広がり粉々に砕け散る。
「甘いですねお客様、私さえ無事なら…」
風切り音と共に女の額に矢が刺さる。
「アレ?」
その美しい胸に二つの刃に依る傷が刻まれる。双刃は収められ大きく曲がった死の刃が女の首を刈り取る。
崩れる骨の塊、それに繋がる、頭の無い女の身体に宙空回し蹴を撃ち骨と共に潰す。首から上は二つの刃で三つに。
『ルイン、良くやった!急ぐぞ!』
『はい!』
一滴の血も流れていないにも関わらずその場は凄惨だった。
「ア゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ーン゛!!!!」
蒼き狼の姿が顕現する。体は2メートル、尾まで含めると3メートル程になる。四つん這いになった体からは白い光が立ち上ぼり鋭く牙の伸びた狼の額には捻れた角が2本生える。
全身のバネを伸縮させる態勢から狼が消え、床の割れる音が響くと対峙していた骨が砕け散る。
「先祖還りか?珍しいな」
床、壁、天井。至るところがひび割れ煙が上がる。
蒼白い筋がいくつも出来る。その線が城の主の左腕を奪う。
「グルルルルル」
「ふむ。中々だな」
狼が食わえて腕を棄て、再び四肢を曲げる。
「血の暴風」
今まで血を流さなかった左腕の奪われた箇所から真っ黒な血が吹き出る。夥しい血が鋭く蝙蝠の羽の様になり渦を巻いて狼を覆い尽くす。
「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「終わりにするか」
玉座に座ったままの主の頭上に巨大な剣が現れる。
同時にその部屋の扉が勢いよく開かれ、浅黒い肌の女が立つ。
「なん…」
声は続かず、恐ろしい衝撃と共に玉座から後ろの壁へと吹き飛ぶ
「がっあぁ!?」
理解出来ず痛みに苦しみながら前を向くと男が立っていた。
黒い髪に黒い瞳。着ている物は貧相だが佇まいが尋常では無い。
「邪魔するぜぇ…アンタが旦那様かぁ?」
男が嘲笑う。獰猛に。獣の様に。
次回も1週間後になります。すみません…リアル都合が付かず…




