第5話 『偽りのバディ・コード』
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本作は、名前と使命以外の何もかもを忘れたの電脳戦士と普通の高校生が「二人で一つ」になって戦う、王道特撮リスペクトのSFバトルアクションです!
巨大化変身、武装、合体など、僕たちがあの頃夢見たロマンをこれでもかと詰め込んでお届けします。
それでは、第2話『第二話 爆誕・絆の戦士ユナイト』お楽しみください!
どんよりとした曇り空だった昨日が嘘のように、窓の外には眩しいほどの晴天が広がっている。
だが、昼休みの古い空き教室に集まった勇樹と真守の視線は、外の景色ではなく、宙に浮かぶ水色のホログラムモニターに釘付けになっていた。
「よし……これでコンパイル終了。パッチ適用、完了だ」
真守が人差し指の『ハックサック』をフリックすると、空中に展開された幾何学ウインドウが小気味いい電子音と共に弾けた。その画面に表示されたのは、赤く燃え盛る重装甲のユナイトと、鋭利な藍色の翼を背負ったユナイト――2つの新たなフォームの3Dモデルデータだ。
『おおっ! これは凄いぞ、マモル! 体中からとんでもないエネルギーが湧き上がってくるのを感じるッ!』
勇樹のスマホの画面をエメラルドグリーンに明滅させながらユナイトが興奮した声を上げる。
「昨日デリートした『バグラウンド』と『エアフロイズ』の残響ノイズを逆コンパイルしてな。ユナイトの深層データに直接書き込んだ。これでお前のバッテリー消費の激しさを補う『パワー特化型』と『高速空戦型』のリアルタイム換装が可能になる」
「すげえよ真守! これなら次の怪獣が来ても、バッテリー切れを気にする前にボコボコにできるじゃん!」
勇樹が拳を握りしめて相好を崩す。エアフロイズ戦での絶体絶命のピンチを乗り越え、最強の「盾」と「翼」を手に入れた。これ以上の味方はいない。勝てる――二人の間に、そんな確かな手応えと熱い空気が満ちていく。
――その、最高潮の盛り上がりに。
冷や水を浴びせるような、静かなスライド音を立てて教室の扉が開いた。
「――ねぇ。何、その楽しそうな話」
ビクリ、と勇樹の肩が跳ねる。
入ってきたのは、同じ学年の女子生徒、吉良彗香だった。黒髪にメタリックシルバーのメッシュという特徴的な髪を揺らし、首からはレトロな一眼レフカメラを下げている。おとなしくて病弱、よく保健室にいる写真部の幽霊部員。それが勇樹たちの知る彼女の印象だった。
「き、吉良さん? どうしてここに……」
「忘れ物を取りに来たら、なんだか不思議な音が聞こえたから。……それより、これ見てよ」
彗香はどこか少し影のある、けれど無邪気なはにかむような笑顔を浮かべ、一枚のプリント写真を勇樹の目の前に差し出した。
そこに写っていたのは――昨日、エメラルドグリーンの光を纏って空中のハニカム足場を駆け抜ける、ユナイトの決定的な戦闘の瞬間だった。
「なっ……!?!?!?!」
勇樹の心臓が激しく跳ね上がる。世界の修復プログラムによって、街の人々の記憶はすべて「ガス爆発」や「地震」にすり替わっているはずだ。写真に撮られているなど、夢にも思わなかった。
「昨日、屋上から見ちゃったんだよね。君たちが、あの見えない怪物と戦ってるところ」
彗香は首を少し傾げ、両手を後ろで組んで上目遣いに勇樹たちを見つめる。
「ねぇ……私も怪獣退治に混ぜてくれる?」
どこか含みのある甘い笑顔でのお願い。
勇樹と真守が息を呑み、あまりの衝撃に言葉を失ったその瞬間。スマホの画面から、事態の深刻さを全く理解していない呑気な声が響いた。
『おおっ! まさか俺たちの戦いを目撃して記憶を保っている奴がいるとはな! いいぞお嬢ちゃん、大歓迎だ! 仲間は多ければ多いほどいいからな!』
「ちょっとユナイト!?!?!」
勇樹が慌ててスマホのスピーカーを抑え込むが、もう遅い。
真守が眼鏡の奥の目を鋭く細め、彗香を観察するように睨みつける。だが、彼女が「昨日のビルの屋上で自分たちを見下ろしていた敵側のエージェント」だとは、二人とも夢にも思っていない。ただの「秘密を知ってしまった一般人のクラスメイト」として接するしかないのだ。
「……はぁ。ユナイトがそう言うなら、仕方ないか……」
勇樹は頭を抱えながら、しぶしぶといった様子で彗香へと視線を戻した。
「わ、分かったよ。だけど、本当に危険だから、絶対に無茶はしないでね……?」
「うん、ありがとう。よろしくね、西川くん、木下くん」
彗香は嬉しそうに微笑み、カメラのレンズをそっと指で撫でた。その瞳の奥で、冷酷な光がギラリと蠢いたことを、少年たちはまだ知る由もなかった。
*
5時間目。昼食後の強烈な眠気と、天井で回る扇風機のぬるい風が、教室全体を気怠い空気で満たしていた。
黒板の前では、年配の生物教師がチョークを走らせている。
「……よって、生物の細胞壁というのは、外圧から身を守るための強固な障壁であり……」
そんな退屈な授業の解説など、今の勇樹の耳には一切入っていなかった。
机の下、教科書の陰に隠したスマホが、衣服越しにブルルと短く震える。画面を覗き込むと、エメラルドグリーンの光がドットの点滅のように細かく波打っていた。イヤホンから、ユナイトの緊張を孕んだ囁き声が脳内に直接響く。
『――勇樹、感知した。強いバグノイズだ。今までの奴らとは比べ物にならない、凶悪な「質量」を感じる……!』
「マジかっ……!」
勇樹は息を呑み、画面の『侵食率』のインジケーターを見た。数値はすでに「12%」を指し、ものすごい勢いでカウントアップを始めている。
視線を斜め前に向ける。そこには、窓際の席でいつも通り退屈そうに頬杖をつき、ノートの端に幾何学模様の魔法陣のような落書きをしている真守の姿があった。
勇樹は小さく咳払いをし、真守に向けてスマホの画面をチラリと見せる。真守は眼鏡の奥の目を鋭く光らせ、すぐに事態を察知して小さく頷いた。
カチリ
二列後ろの席では、吉良彗香がふっと顔を上げ、机の下でレトロな一眼レフカメラのレンズキャップ静かに外していた。そして、教科書の影から勇樹に向けて、昼休みと同じ「含みのある笑顔」を小さく送ってくる。
(吉良さん……本当にやる気満々じゃん……!)
彼女が未来のエージェントだとは露ほども知らない勇樹は、一般人の女子を巻き込む罪悪感と焦燥感で胃が痛くなる。
「先生!ちょっとお腹が痛くなったので、保健室に行ってきます!」
突然、真守がすっくと立ち上がった。イケメンの長身が教室の中でやたらと目立つ。
「お、おう、木下か。気をつけてな」
「あ、俺も……! 真守を支えていきます!」
勇樹も慌てて便乗して立ち上がる。クラスメイトがクスクス笑う中、二人はそそくさと廊下へ脱出した。
そして、教室の扉が閉まる直前。
「先生……私も、少し目眩がするので、保健室へ行ってもいいですか?」
彗香がいつもの「病弱な優等生」の演技で、はかなげに手を挙げた。教師は「吉良さんはいつも体調が悪いからな、お大事に」と疑いもしない。
こうして、表向きは『保健室への体調不良トリオ』として、誰もいない静まり返った廊下へと揃い踏みしたのだった。
*
「一般人の吉良をいきなりバグの現場に連れていくわけにはいかない。勇樹、スマホをここに置け。ユナイトだけを先に実体化で現場へ転送する」
校舎の裏口、人気のない渡り廊下で、真守が冷徹に告げた。人差し指の『ハックサック』から水色のホログラムキーボードを展開し、ものすごい速度でタイピングを開始する。
「えっ? でも俺が一緒にいないと、ユナイトは真の力を……」
『構わん、勇樹! 真守の言う通りだ。お嬢ちゃんを危険に晒すわけにはいかない。まずは俺が時間を稼ぐ!』
勇樹は深く頷くと、教科書の陰からスマホを取り出し、画面に表示されたアプリの起動ボタンを力強くタップした。
「――ユナイト、実体化!」
無機質なシステム音が響くと同時に、スマホの画面に鮮やかな光の文字列が走り抜ける。
ピピッ―――
直後、スマホが激しく発光。エメラルドグリーンの光弾となって勇樹の手から飛び立ち、学校のフェンスを越えて数キロ先の中央高架橋建設現場へと一瞬で着弾した。
カメラレンズの透過モニターを展開した真守のハックサックに、現地の映像がリアルタイムで投影される。
そこにいたのは、全身を重機のショベルのような油圧式装甲で固めた、ビルほどもあるアンキロサウルス型電脳怪獣――『アンキローダー』。
その足元に、銀と青の光を纏った守護者ユナイトが実体化を完了した。
『ハァッ!』
ユナイトは身軽なフットワークから、怪獣の側頭部へ向けて鋭いハイキックを叩き込んだ。
――カィィィン!
しかし、虚しい電子音が響くだけで、怪獣の超硬質装甲には傷一つ付かない。
『ぐっ、堅い……というより、なんだこの重さは……!?』
突ように、アンキローダーの周囲の空間が赤黒く歪んだ。怪獣の固有能力『質量増加』が発動し、周囲の質量データが数十倍に跳ね上がる。
生身の人間なら一瞬で圧潰するほどの超重力。パワーの足りない素体状態のユナイトは、膝をつき、その場から動けなくなってしまった。
まだ世界の裏側での戦闘のため、周囲の現実世界に物理的な被害は出ていないが、空間そのものが軋み、激しい電子ノイズが火花のように弾けている。
そこへ、怪獣の尾の先にある巨大な鉄球が、容赦なく振り下ろされる――!
「っ、ユナイト! クソ、スマホ越しじゃデータの同期率が低すぎて、重力障壁をハッキングしきれない……!」
モニターを見ていた真守が歯噛みする。その緊迫した空気の中、隣にいた彗香は怯えるどころか、レトロな一眼レフカメラを弄びながら、真守の手元をじっと覗き込んできた。
「すごいね……。木下くん、その指先についているオモチャみたいなものは何?空中に文字が浮かぶなんて、すごく面白いシステム。どういう原理で動いているのか、私に教えてくれない?」
どこか育ちのいい女の子を思わせる、知的好奇心を隠そうともしない丁寧なタメ口。目の前のピンチよりも技術に興味を向ける彼女に、真守はキーボードを叩いたまま鋭い一瞥をくれた。
「……吉良。悪いが今はそれどころじゃない。見ての通り、俺たちの相棒が潰されかけてるんでね」「あ、そっか。ごめんね」
彗香は小さく肩をすくめてカメラを構える。レンズの陰に隠れた彼女の指先が、裏でハッキング端末を冷酷に操作していることなど、真守は知る由もない。だが、そんな二人のやり取りの横で、勇樹の胸の「正義感」はすでに限界突破していた。画面の向こうで、相棒が必死に耐えている。
「――吉良さん、ここで待ってて!」
勇樹は叫ぶと同時に、学校のフェンスを鮮やかに乗り越えた。
「おう、早く行ってこい相棒!」
「あそこに俺が行かなきゃ、ユナイトは勝てないんだよッ!」
泥臭く、けれど一直線に、勇樹は中央高架橋へ向けて全力で走り出す。
「あれれ、行っちゃった…」
あのなぁ、と言いたくなる言動だが今はこっちに集中だ。
「チッ、調子狂うなぁ……!勇樹、そのまま直進しろ!三つ目の角を右だ、そこが建設現場への最短ルートになる!」
真守はハックサックを激しく操作し、ホログラムモニターに街の構造データと勇樹の現在地を重ね合わせた。
「あと5秒で左側から怪獣の衝撃波による破片が降ってくる!せーのっ!で右側の路地に飛び込め! 5、4、3……今だッ!」
「うおおおおおッ!」
真守の精密な音声ナビゲーションに従い、勇樹はステップを踏むように瓦礫を回避し、最短ルートをトップスピードで駆け抜けていく。
押しは弱くても、目の前で誰かが傷つくのを放っておけない。その熱い「勇気」が、勇樹の胸の奥のシンクロ率を爆発的に跳ね上げていく。
ドゴォォォン!!
ユナイトの目の前に怪獣の鉄球が叩きつけられ、激しい衝撃波が荒れ狂う。
万事休す。そう思われた瞬間、バグノイズを引き裂いて、一人の少年が赤黒い重力空間の中へと滑り込んできた。
「ハァ……ハァ……間に合った……! ユナイト!」
『勇樹……!待ってたぞ! 生身でこんな重力に飛び込んでくるなんて――ッ流石だ!』
「当たり前だろ……! 俺たちは二人で一人だ!」
勇樹の瞳が、エメラルドグリーンに激しく明滅する。
両手を胸の前でX字にクロスし、一気に天へと右手をまっすぐに伸ばす。
全霊の叫びが、破壊される建設現場に響き渡った。
「コード:ユナイトッ!!!!」
ドゴォン!
エメラルドグリーンの光の柱が天を突き刺す。
二人の心が完全に重なり合い、空間の質量を力技で跳ね除けて、銀の装甲を纏った絆の戦士ユナイトが、大地へと力強く立ち上がった。
第5話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
育ちのいい雰囲気の裏で不気味にハックサックを探る彗香が、これからどう物語をかき乱していくのか。
そして、怪獣アンキローダーの圧倒的な質量増加能力に、勇樹の熱い正義感が再び合体を果たしました!最高の引きで幕を閉じましたが、ユナイトはここからどう立ち向かうのか。
次回第6話、待望の新形態『ユナイト・アグレッシブ』がついに覚醒します。
「早く新フォーム見たい!」「彗香ちゃん可愛い!」と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価(☆マーク)】での応援をよろしくお願いいたします!




