第八十一話
「……捜索するぞ」
沈黙を破ったのは職員だった。
「村の周辺を調べろ! 森も畑も全部だ!」
「はっ!」
皆が一斉に動き出し、リンネたちもそのまま捜索へ加わった。
村を囲む森は静かだった。昼だというのに妙に薄暗く、風が葉を揺らす音だけが聞こえる。
「いたか?」
「い、いません……」
遠くで声が響く。結果は同じだった。
誰もいない。
感染者も死体も村人も。
何も、見つからない。
「……おかしいです」
ミリスが小さく呟くと、リンネが反応する。
「……何がおかしいんだ?」
「数十人も村から歩いて出て行ったら、少なくとも何か残るはずでは……?」
その言葉でもう一度地面をよく見てみると、足跡はおろか、村の中とは違い、痕跡すらなかった。
「確かにの」
シズクがしゃがみ込み、地面を見つめる。
数十人がどこかへ行ったなら、痕跡は村の外へ続いているはずなのに――
「……」
その時だった。ミリスの脳裏に、ある光景が浮かぶ。
黒い菌。
黒い斑点。
「っ……」
ミリスが思わず足を止めると、リンネが振り返る。
「……どうしたんだ?」
「やっぱり、ヘヴィクムです」
「なんじゃ?」
シズクも近づいて話を聞こうとする。
「だいぶ前に会った時、最後……ヘヴィクムが、霧みたいになって消えませんでした?」
その言葉でシズクの目が細くなる。
「……そうじゃな」
ミリスは、嫌な想像を口にする。
「もし、ヘヴィクムがあれを使ったんなら……」
数十人の村人。
消えた痕跡。
残っていない足跡。
――全てが、一つの答えに繋がってしまう。
その時。いきなり空から鋭い鳴き声が響く。
「上だ!」
職員の一人が叫ぶと、全員が空を見上げる。そこでは、一羽の鳥型魔物が高速で降下してきていた。
「王都からの伝令です!」
その声を聞き、職員たちは少し安心したような声を出す。それは魔物の雄叫びではなく、あの時のテイマーの声だった。
鳥は地面へ降り立つ。そして、何かを思い出したかのように職員たちの顔が険しくなる。
「……それを使うと言うことは、何かあったのか?」
テイマーは頷いた。
「……緊急報告です」
その声には明らかな焦りが混じっていた。
「王都周辺の複数地域から、新たな目撃情報が届いています」
「どんな内容だ」
「また、黒い人型魔物についてです」
その場の空気が凍る。
「しかも、その目撃数は一件ではありません」
テイマーは凍った空気の中、続けた。
「今来てるのは、街道沿いの村。北部の集落。南の交易路です」
職員の顔色が変わった。
「特徴は?」
「先程言った見た目の他に理性がないように見え、目撃後に消えた、などです」
嫌な沈黙が落ちる。
「……おい」
職員の一人が震えた声を出す。
「それって」
誰も続きを言わない。言わなくても分かっていた。リンネは森の奥を見つめたまま呟く。
「始まったな」
その場にいた全員が理解していた。これはもう、一つの村だけの問題ではない。
ヘヴィクムは確実に、動き始めていた。




