第七十八話
翌朝。ミリスは、外から聞こえてくる物音で目を覚ました。
「……ん」
まだ少し眠い目を擦りながら、ベッドの上で体を起こす。
あの後、3人は宿を探し、一つの部屋をとり、ここに着くとすぐに寝てしまった。
朝の光が差し込んでおり、隣を見ると、シズクとリンネはまだ寝ている。
「……?」
窓の外から、人の声が聞こえる。王都なのだから人の声自体は昨日だって、たくさん聞こえていた。
だが、今日は違う。昨日のような楽しく賑やかな声ではなく、何か慌ただしいような声だった。
「なんでしょうか……」
ミリスは窓へ近付き、少しだけ外を見る。石畳の道を兵士たちが何人も走っていて、人々も2、3人で集まりつつ、何かを話している。
「朝から何を見ておる」
「ひゃっ!?」
いきなり声が聞こえて振り返ると、いつの間にかシズクが起きていた。
「お、おはようございます……」
「うむ」
シズクは欠伸をしながら窓の外を見る。
「……ほう」
「なんだか騒がしくないですか?」
「確かに騒がしいの」
だが、シズクはそれ以上気にした様子もない。
「まあ、王都じゃからな。毎日何かしら起きておるんじゃろ」
「そういうものなんですかね……」
そして、その時――
「起きたか」
リンネがベッドの上で上半身だけ起こし、話しかけてきた。
「リンネさん……おはようございます」
「ああ」
「起きていきなりなんですけど、外が騒がしいんです」
「わかった」
リンネはそれだけ言う。予想通りの反応だった。
「気にならないんですか?」
「王都なんて、そんなもんじゃないか?」
「それは……そうかもです」
ミリスは少しだけ苦笑する。
結局、三人はそのまま宿を出ることにした。
外へ出ると、昨日よりも人の数が多い気がした。だが、その空気は活気とは少し違った。
「聞いたか?」
「西の方の村だろ?」
そんな会話が聞こえてきて、ミリスは思わず足を止める。
「何かあったんでしょうか」
近くを歩いていた男たちは続ける。
「村人が全員消えたらしい」
「全員って本当か?」
「でも今朝から兵士が動いてるって話だぞ」
ミリスの表情が少し強張る。
「村人が……全員?」
昨日聞いた噂とは少し違う。あんな曖昧な話ではない。
村が一つ。消えた。
そこだけは、街の人の会話に必ず出てきていた。
「……」
そんなことを考えながら、ふと隣を見る。
あの会話をリンネも聞いていたはずだ。
「リンネさん」
「……確かに騒がしい。それに……気になるな」
昨日までの噂とは違う。と、リンネも感じているらしい。
そして、その時――
「いたぞ! あいつが昨日のだ!」
突然、遠くから大声が響く。声の方向を見てみると、人混みの向こうから誰かがこちらへ向かって走ってきていた。
兵士ではない。だが、それは見覚えのある人物だった。
「あっ……!」
ミリスは思い出した。
昨日、あの異変報告場にいた職員だった。その男は人混みをかき分けながら一直線にこちらへ向かってくる。
息を切らして、額には汗を浮かべ、何かに追われているかのように。
「リンネ!」
昨日とはまるで違う声だった。報告に慣れていて全く動揺しなかった男が、今日は必死な顔をしている。
周囲の人々も何事かと視線を向ける。リンネは立ち止まり、その男を見た。
「昨日の件か?」
男は数秒息を整え。
そして低い声で言った。
「……西の村で起きた異変について、お前の話と一部分一致している。話を聞く。同行しろ」
職員の顔色は、昨日とは別人のようだった。言葉を聞いた瞬間
――ミリスの背中に、嫌な予感が走った。




