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第七十三話

「…………」


 また、静寂が落ちた。

 ついさっきまでそこにあった鉄の塊はいつの間にか、跡形もなく消えていた。


「……え?」


 誰かが呟くと、それを合図にしたように周囲が一気にざわつき始める。


「消えたんだよな!?」

「今の見たか!?」

「魔法じゃないって、じゃあ何なんだよ!」


 門番たちも完全に固まっていたが、リンネは何事もなかったように門へ向かう。


「これで、問題はないはずだろ」

「いや、問題……というか、まず消えたからって解決する話じゃなくなったんだが……」

「これなら持ち込んだことにはならないだろ」

「まあ、理屈としてはそうで……前例もないのだが……」


 門番は深くため息を吐いてから、数秒悩み、肩を落とした。


「……俺からは、もういい」

「大丈夫なんだな?」

「……まだ、聞きたいことは山ほどあるに決まっているだろ」


 即答だった。


「だが、情報としてはこれで問題ないからな。これ以上聞くことは業務として、できない」

「そうか。わかった」


 そうリンネが呟き、そのまま歩き出そうとした、その瞬間――


「待て」


 門の奥から別の声がし、一人の男が現れる。すると、周囲の門番たちが慌てて姿勢を正した。


「隊長!」


 どうやら責任者らしい男は、リンネたちと、周囲のざわめく人々も見回した。


「騒ぎは聞いていたが……なるほど、お前がその中心か」

「別に悪いことはしてないんだが」

「そうは言っても、騒ぎは起きている。別に、私は怒ろうとはしていない」


 隊長は疲れた顔で言った。ミリスが少しだけ同情したような顔になる。


「大変そうですね……」

「ああ、今日は特にな」


 隊長は、一息置いてから言う。


「入門は許可する。ただし一つだけ聞く……お前たちは、何のために王都へ来た」


 リンネは考えなくともすぐに答える。

 観光ではない。買い物でもない。目的は最初から一つだ。


「報告だ」

「……報告?」

「菌の……化物についてだ」


 その言葉を聞いた瞬間。隊長の表情がわずかに変わった。


「……菌に、化け物?」

「ああ。そいつは、放っておくと世界を滅ぼす」


 リンネは頷く。だが、隊長はしばらく黙った後、小さく息を吐く。


「……また、その手の話か」


 その言葉を聞き、リンネは尋ねる。


「こっちまで、情報は来てるのか?」

「最近、似たような報告がいくつも来ている」


 隊長は面倒そうに答える。


「井戸が呪われて黒く染まった。無敵の黒い魔物が現れた。黒い神が人類を進化させる。他にも報告はあるが、全部話が違う」


 リンネの目が細くなる。隊長は続けた。


「だから今の段階では、どれも信用できん」


 その言葉に、ミリスとシズクが顔を見合わせる。


「じゃあ、リンネさんの話も……?」

「現状では同じだ……上に伝える価値があるかどうかも分からん」


 隊長がはっきりと言うと、リンネは黙ったが、怒りはしない。


「……でも、とりあえず報告できる場所だけ教えてくれ」


 リンネがそう言うと、隊長は少しだけ考え、


「王都中央区にある、異変報告場だ。普通は報告申請が出てから下層部が判断して聞く。でも今は俺が許可する。だから、詳しくはそこで話せ」

「……ああ、分かった」


 隊長は最後に三人を見る。


「ただし期待はするな。お前が初めてじゃない」


 リンネたちは顔を見合わせる。巨大な門の向こうでは、人で溢れる王都の街並みが広がっていた。

 だがその賑わいの裏で、誰も真相を知らない不穏な噂が、静かに広がり始めていた。

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