第七十話
あれから、さらに2日がたった。歩いていくうちに、木々の密度は薄くなり、街道も以前よりは広くなっていく。そして、足跡や馬車の車輪跡など、人間の痕跡が道の上に残っている。
「なんというか……もうそろそろ、って感じですかね」
ミリスが周囲を見回しながら言った。
「多分、そんな感じだ」
「王都が近いんじゃろ」
そして、その時――
前方から、がたごとと木が軋む音が聞こえてきた。少しすると、荷台に木箱をたくさん積んだ、一台の馬車が見えてくる。
「商人か」
リンネが呟くと、向こうもこちらに気づいたらしく、馬車の男が軽く手を上げた。
「おう」
三人も立ち止まる。
男は馬の速度を少し緩めながら、近づいてきた。
「珍しいな。こんなところで徒歩か?」
「まあな」
リンネが答える。
男は三人を見回した。
「王都行きか?」
「ああ」
その言葉を聞いて、ミリスが少し前に出た。
「あ、あの……!」
「ん? なんだ?」
「王都まで、あとどれくらいかわかりますか?」
男は少し考えたあとに、馬車の来た方向を見て答える。
「普通なら三日くらいだな」
「三日、ですか……」
ミリスが思わず呟く。
「急いだり、馬車とかなら、二日で着くかもしれねぇ」
男は荷台を軽く叩きながら言う。
「……二日」
リンネが頭を抱えているのを見て、男が首を傾げる。
「なんだ? 急いでるのか?」
リンネはそのまま黙り込んで考える。
「……」
王都まで2、3日。徒歩や馬車の換算で、その程度。
ならば
――届く。
リンネは静かに息を吐いた。
「……そのくらいなら」
「ん?」
リンネは片手を前へ出すと、空気が揺れ、淡い光が集まり、次の瞬間――
蒼と白が混ざったが混ざったような色のバイクが地面に現れ、さっきと同じように、鈍いエンジンを空間に響かせた。
その一部始終を見た商人は、表情が固まる。
「…………は?」
数秒は誰も動かず、バイクの音だけが鳴り響いた、そして――
「てっ、鉄の魔物だぁぁぁぁっ!!」
商人が叫ぶと、馬まで驚いて後ろへ下がる。
「低い声で鳴いているぞ!?」
「違います!」
大声を聞き、ミリスも驚いて小さく飛ぶように一歩下がってから、慌てて否定する。
「それ、魔物どころか生き物でもないみたいなんです!」
「生き物じゃないって、なんなんだそれは!?」
「そ、そんなのぼくにもわかりませんよ!」
「わからんのか!?」
そんなやりとり横で聞いていたシズクが腕を組んだ。
「まあ無理はない。妾も最初は魔物かと思ったの」
「お前もかよ」
呆れたように言う。そして、商人はまだ警戒していたが、リンネは気にせず機体へ手を置く。
「乗れ」
「え?」
「王都まで行く」
「ダメなんじゃないんですか?」
「このくらいの距離なら、限界はこない」
「そうなんですか……時間は、どれくらいかかるんです?」
リンネは少し考えてから答えた。
「三十分くらいだな」
空間に風だけが吹いた。
そして、商人が瞬きをした。
「はぁ?」
「え?」
「……はっ?」
三人とも同じ反応だった。でも、リンネだけが当然のような顔をしている。
「だから乗れ」
「いやいやいや!」
ミリスが叫ぶ。
「三日が三十分になるわけないじゃないですか!」
「なる」
「ならんじゃろ」
「絶対に、なる」
リンネは真顔だった。その顔を見ていると、冗談には見えない。
ミリスとシズクは顔を見合わせ、再びバイクを見る。
得体の知れない鉄の乗り物。
だが、リンネは本気らしい。
王都まであと三日。
その距離を、たった三十分で駆け抜けるというのだから。




