第五十九話
リンネが少しだけ笑う。
その時だった。
「いた!!」
遠くから、元気な声が飛んできた。
二人が振り向くと、小さな子供が3人、こちらへ駆けてきていた。
「まほうのひとだ!」
「火ぃ出してたって子!?」
「すげーやつなんでしょ!」
ミリスの肩がびくっと揺れる。
「えっ、あ、えっ……!?」
囲まれるように子供たちが集まってくる。
「ほのおの見せてよ!」
「きのーのやつ!」
ミリスは完全に固まっていた。
「き、昨日って……もしかしてゴブリンの時の?」
「そうそう! すごかった!」
ミリスは、困ったようにリンネを横目で見る。リンネは少しだけ子供たちを見て、それからミリスへ視線を戻した。
「……嫌なら断れ」
「……っ」
その言葉に、ミリスは少し目を瞬かせる。子供たちはまだ目を輝かせている。
「おねがい!」
「ちょっとでいいから!」
ミリスはクッキーの袋をぎゅっと持ったまま、少し俯いた。
「……ちょっとだけ、なら」
ミリスは小さく呟き、そっと手を前へ出した。
次の瞬間。オレンジ色の小さな炎が、手のひらの上に灯る。蝋燭みたいな、炎。
「おおーっ!!」
子供たちの目が、一気に輝く。
「すげー!!」
「きれー!!」
ミリスは自分で出した炎を見つめたまま、少しだけ目を丸くしていた。
その火は、戦うための火じゃない。
誰かを焼くための火でもない。
次の瞬間。一瞬だけ青く燃えた。
ミリスは、小さく息を呑む。
「……あれ?」
炎の先が、ほんの一瞬だったけれど、確かに色が変わった。
「え!? すげぇ! 青くなった!」
「今の見た!?」
「もっかいやって!!」
子供たちが興奮したように声を上げる。ミリスは慌てて炎を消した。
「ご、ごめんなさいっ、今のは、ぼくもよく……!」
手のひらを見つめる。でも、そこにはもう何も残っていない。
「……無理すんな」
「は、はい……!」
ミリスはまだ少し戸惑った顔のまま頷いた。すると、その中の一人の子供が、興奮で前のめりになって言う。
「でも、昨日よりすごかった!」
「え……?」
「昨日の火、なんか“ふわぁ!”って感じだったけど、今の、きれーだった!」
ミリスは、その言葉に少しだけ固まる。
「綺麗、ですか……」
「ねーねー! もう一回だけ!」
「次はちっちゃいドラゴンとかできない!?」
「無茶言うな」
リンネが即座に切り捨てると、子供たちは不満そうな声を出した。
そのやり取りを見て、ミリスは思わず吹き出した。
「ふふっ……」
小さい笑い声だったが、それは、自然に出た声だった。
子供たちはそのあと、少し話してから走って去っていく。ミリスはしばらく、去っていった子供たちの背中を見ていた。
その後に、クッキーの袋を胸元で抱える。
「なんか……少しだけ、嬉しかったです」
リンネは答えなかった。ただ、少しだけ口元を緩めていた。
子供たちと別れたあとも、リンネとミリスはしばらく街を歩いていた。
日は少しずつ傾き始めている。
二人の影も長くなり、露店では夕方用の仕込みが始まっている。今日の終わりが近づいているような雰囲気が、流れていた。
「今日は、なんて言うか、怖くない、普通の一日でしたね……あっ! 今日が楽しくなかったって言う意味じゃないですよ!?」
「そのくらいわかってる」
リンネの口角は、軽く上がっていた。
夕方の街の音を聞きながら、ゆっくり歩く。




