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第二十三話

 ――息が、うるさい。


 レインは暗い部屋の壁にもたれたまま、荒い呼吸を押し殺していた。


「……はぁ……っ」


 手が、震えている。


 視線を落とす。

 指先は、わずかに黒ずんで見えた。


「……なんだよ、これ……」


 擦る。

 だが、消えない。

 ――思い出す。


『都合のいい部分だけ見てそれを“悪”だと思い込んでる』


 また、拳を強く握る。


「……うるせぇ」


 低く、吐き捨てる。


「俺は、間違ってない」


 あいつは悪だ。

 だから止める。


 それだけだ。

 それだけの、はずなのに――


「……っ」


 胸を押さえる。

 鼓動が、早い。


 さっきと同じ。

 あの時と同じだ。


 あの赤い光。

 あの軋むような感覚。


「……なんでだよ」


 問いに、答えはない。

 ただ一つ、残っている。

 ――あの日。


 部屋に、突然現れた影。


 名前も名乗らず、

 ただ“力”だけを残していった存在。


「……あれのせいかよ」


 吐き捨てるように呟く。

 だが、その直後――


「……違う。あれは……関係あるわけねぇ」


 言い聞かせるように、繰り返す。


「俺が選んだ。俺が使ってる……俺が、正しい」


 そう呟いた瞬間。

 首元に、針で刺されたような痛みが走った。


「……っ!?」


 触れる。


 指先に、ざらついた感触。

 見なくても分かる。


「……チッ」


 苛立ちを隠さず、手を振り払う。

 ――どうでもいい。


 そんなものは。


 視線を上げる。

 暗い部屋の中で、目だけが鋭く細まる。


「俺は……正義なんだ……」





 街には、不気味な空気が漂っている。


 人の流れが、一点で不自然に途切れている。


 誰も近づかない。

 そこだけ、空間が空いていた。


 ミリスが少し震え、口を開く。


「リンネさん……あの、真ん中の……」


 人の波が割れている。その中心。

 黒い鎧が、ただ立っていた。


「……レイン」


 思わず、声が漏れる。


 誰かを襲っているわけでもない。

 ただ、そこに“いる”だけで、空気が張り詰めていた。


 ミリスが小さく息を呑む。


「な、なにもしてない……?」


 その時だった。


 レインが、ゆっくりとこちらを向く。

 赤が、わずかに強く灯る。


「……っ」


 こちらに一歩踏み出した。

 空気が、軋む。


 次の瞬間――

 レインの脚が、地を蹴った。


「来る……!」


 だが、途中で止まる。


 拳が、わずかに震えている。

 あと一歩で届く距離で、ぴたりと動きが止まった。


「……なんでだよ」


 低く、押し殺した声。


 腕が上がる。

 だが、そこで止まる。


「……やめろよ」


 吐き捨てる。

 誰に向けた言葉か、分からない。


 ゆっくりと、拳が下りる。

 レインは、こちらを見据えたまま


「……明日の朝、六時」


 わずかに間を置く。


「……城跡だ」


 それだけ。

 だが、その一言に、逃げ場はなかった。


「来なかったら――」


 赤い光が、鋭く揺れる。


「殺す」


 そして。


 次の瞬間には、幻のように消えた。

 ざわめきだけが、遅れて戻る。


「ダメです……!」


 ミリスの声が震える。


「あんなの、絶対……」

「分かってる。でも、行く」

「な、なんで……!」

「……このままだと、あいつ……完全に、壊れる」


 静かに言う。


「だから、止める」


 ミリスは何か言いかけて、言葉を失う。

 そして――


「……怖いです。でも……わかりました」

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