第二十一話
次の日、朝から街を歩いていた。
「……今日は、まだなのか」
いつのまにか、俺は“それ“を求めていた。
――なんのためにやってるんだ?
ふとした時に、一瞬よぎる。
まるで、二人いるかのように心は争う。
――なにが正解かなんてわからない。
その時、ざわめきの中に混じった乾いた笑い声が聞こえる。
「だって、あいつさ――」
子供だった。
路地の端。数人で固まって、誰かの悪口を言っている。
内容は、取るに足らない。
ただの陰口だ。
「……」
レインは立ち止まる。
「……やめろ」
子供たちが振り返る。
「は? なんだよお前」
笑いが混じる。
「……悪いことだ」
ゆっくりと、一歩近づく。
「だから、やめろ」
「は? 誰だよ? 別にいいだろ、こんくらい」
子供たちは肩をすくめる。
その軽さが、やけに耳に残る。
拳を強く握る。
「……変身」
口は、勝手に言う。
黒に覆われ、深い赤が漏れる。
核が小さく脈打つ。
「え?」
次の瞬間。
レインの手が伸びていた。胸ぐらを掴み、そのまま地面に叩きつける。
「がっ……!」
鈍い音。
周囲が静まる。
「や、やめろよ……!」
別の子供が声を上げる。
だが、その体は動かない。
レインは、見下ろす。
倒れた子供を。
震えて、目に涙が浮かんでいる。
「……」
一瞬だけ。
胸の奥が、わずかに軋む。
――おれは、なにをやってるんだ。
ほんの一瞬。
だが――
「……違う、よな。これは、正しい」
ゆっくりと、手を離す。
そして、立たせる。
次の瞬間。
腹を殴る。
「っ!?」
乾いた音。
体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「やめろって言ったのに」
もう一撃。
「なんで分からないんだよ」
さらに――
「お前は悪だ」
回数が増える。
一発一発は重くない。
だが、確実に。
逃がさないように。
「や、やめ……」
声にならない声が響く。
周囲が、引いている。
誰も止めない。
止められない。
レインは、手を止める。
呼吸が、少し荒い。
視界に、黒い点がいくつか現れる。
視界の中で、動き回る。
「……」
見下ろす。
もう、抵抗はない。
震えているだけだ。
「……終わりだ」
その言葉と同時に。
剣が、現れる。
「……っ」
また、手が止まる。
心の”何か“が邪魔をする。
なのに――
「悪は、ころすべき……だろ」
剣を、振り下ろす。
鈍い音。
「……」
レインは、ゆっくりと剣を下ろす。
周囲を見る。
誰も近づかない。
目を逸らし、距離を取る。
ただ、沈黙だけがある。
「……俺は、間違ってない……はずだ」
それだけ言って、レインは背を向けた。
誰も、呼び止めなかった。
ただ、その背中を
恐れるように、見ていた。
――視線が、ゆっくりと周囲に向く。
逸らされる目。
後ずさる足。
怯えた空気。
剣を、わずかに持ち上げる。
「どこまで……悪だ?」




