表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/34

34、ハッピーエンド

「ロン?!」

 一同は見回すと、ベラダが指を差した。

「あそこに!」

 ベラダの指の先には、天井近くに浮かび上がったロンの姿がある。

「ロン!」

 サーがそう言うと、ロンの体はふわふわと、サーのもとへ下りてきた。

 そして、ロンはサーの腕の中で、パチリと目を開ける。

「ロン……」

 サーの呼びかけに、ロンの目から涙が溢れ出た。

 それを見て、サーは優しく微笑む。

「ロン……ロンだね?」

 優しいサーの呼びかけに、ロンはゆっくりと、サーに抱きついた。

「ごめんなさい。サー様……」

 それを聞いて、サーはロンをきつく抱きしめた。

「間に合ってよかった……」

 サーの言葉に、一同もホッとした。

 そして、一番にフェマスが口を開く。

「ロン。僕を覚えているかい?」

「ええ……フェマス」

 まだ表情は固いが、ロンは静かにそう呼んだ。

「おう、やった!」

「わ、私は……?」

 今度は恐る恐る、ベラダが尋ねる。

「もちろんよ、ベラダ。それに、ビーン団長」

「よかった。今度は私たちのこと、忘れちゃうのかと思った。でももう、なんて呼んだらいいのかわからないわ……」

「いいわよ、マリンで」

 サーの腕から離れ、ロンはベラダの手を取って答える。

 ベラダは微笑みながらも、首を振る。

「ううん、ロンにするわ。でも、信じられない。マリンが……いや、ロンが王様の恋人だったなんて! あ、ごめんなさい。失礼を……」

「いいのよ。私だって信じられないもの。でも、みんな懐かしいわ。フローラも……」

 その時、ロンの目にフローラの姿が映る。

「フローラ!」

 ロンがそう叫んだ時には、すでにフローラは側にあった果物ナイフで、サーの背中を刺していた。

「サー様!」

「渡さないわ。王様は、私のものよ!」

 そう言うとフローラは、今度は自分の腹を刺した。

 サーをロンが、そしてフローラをフェマスが抱き止める。

「サー様!」

 顔面蒼白で、ロンはサーを見つめる。

「大丈夫だ……」

 そう言うものの、サーはロンに寄り掛かった。

 やがてサーの体重に支えきれなくなったロンが、サーとともに床へと倒れ込んだ。

 ロンの手には、サーから流れた血がべっとりとついている。

「サー様! しっかりしてください!」

 その時、テオーがロンからサーを離した。

「伯父様!」

「抱いていても血は止まらない。王家の者は大したことじゃ死なないとは言っても、痛みもあるし、例外もある」

 テオーはそう言うと、サーを床に寝かせ、シャツの袖を破って止血をする。

 ロンは放心状態で、床へと座り込んだ。自分を責めずにはいられない。

 その時、ロンの手に、砕けたペンダントの粉がついた。

「ペンダント……」

 無意識に、ロンは粉のついた自分の手を見つめる。

 すると、手についたサーの血が、みるみる消えていくのがわかった。

 ロンはそのまま、手の平をサーの傷口に当てる。するとサーの傷口も、みるみる消えていった。

「うっ……」

 呻き声を漏らしながら、サーはゆっくりと目を開けた。その表情は痛みに歪みながらも、顔色も良く、汗も引いている。

「ロン……」

 優しく微笑み、サーはロンの頬に触れた。

「サー様……」

「もう大丈夫だ……」

「サー様!」

 思わず、ロンはサーに抱きついた。

 サーもロンの温もりを感じながら、きつく抱きしめる。

「もう離さないよ」

「サー様……」

 静かにサーが起き上がるのを見届けて、ロンはフローラの側に駆け寄った。

 フローラの傷は浅く、涙を流して泣いている。

「今まで何のために頑張ってきたと思っているの? 王様と結婚できないなら、死んだほうがマシよ!」

「駄目よ。死なせないわ!」

 ロンはそう言うと、フローラの傷口に手を当てる。

 すると、サーの時と同じく、傷口は何事もなかったかのように消えていった。

「どうして……どうして死なせてくれないの! 一生牢獄で生きていけと言うの? 王様も、何もかも失くして……」

 フローラが、座り込んで泣きじゃくる。

 そんなフローラの肩を、サーが抱き寄せた。

「……牢獄などには入れない。罰せもしない。私も悪いからね」

「王様……」

「だが、私はあげられない……ロンが戻った今、私はロンのものだからだ」

 そう言って、サーはフローラから離れ、そして今度はロンの肩を抱く。

 もうフローラは、何も言わなかった。

 放心状態のフローラに、今度はロンが抱きついた。

「フローラ、ごめんなさい。あなたを苦しめて……だけど私も、サー様だけは譲れない。あなたの気持ちは痛いほどわかるけど、これだけは駄目なの……許してもらえないなら、一生をかけてあなたに償うわ」

 ロンの言葉に、フローラは涙を流した。

「敵うはずなかったのね……」

 そう悟ったフローラの心は、完全に浄化されていた。


 次の日。予定通り、華やかな結婚式が行われた。

 しかし、花嫁はロンである。だが国民にとっては、花嫁が誰かよりも国の将来を考えていたため、急な花嫁の違いはそれほどまでになかったのかもしれない。なにより、幸せそうなサーとロンの顔が、人々の心を魅了した。

 フローラは、国王を殺そうとしたものの、咎めもなく許された。だが城からは出て、地方で暮らすこととなっている。

「ロン様!」

 花嫁衣裳のロンに、ベラダが声をかける。

「ベラダ」

「おめでとうございます、ロン様」

「やめて、ロン様だなんて……私たちは、ずっと友達よ」

 そう言ったロンに、ベラダは嬉しそうに微笑む。

「本当に?」

「もちろんだ。ロンに友達がいなくなっては困るよ」

 ロンが答える前に、サーが言った。

「もう、サー様ったら」

「すまない。だが、本当のことだ」

「ありがとうございます、王様。ロン、これからもお友達よ」

 ベラダの言葉に頷きながら、ロンはその手を取る。

「ええ、ベラダ。約束よ。どこへ行っても、私のことを忘れないでね」

「もちろん。ロンもよ」

「ええ」

「じゃあ、もう行かなくちゃ……」

 残念そうに、ベラダが言った。

 大人気のサーカス団は、すでに次の公演場所が決まっていて、すぐにでも出発せねばならない。

「そう……気をつけてね」

 名残惜しそうに、ロンは答える。

 ベラダも無理に微笑み、頷いた。

「ええ」

「また来てね」

「ええ」

「みんなによろしくね」

「もう、ロン。そんなんじゃ、いつまで経っても行けやしないわ」

 そう言ったベラダに、ロンは俯く。

「ごめんね。でも、寂しくて……」

「私もよ、ロン。でも、あなたは本来の自分を取り戻して、幸せを掴んだんだわ」

 二人は頷き合い、そして抱き合った。

「ベラダも幸せにね」

「もちろんよ。よし、じゃあもう行くわ」

 区切りをつけるように息を吐いて、ベラダはロンから離れる。

「ええ。本当に気をつけて……さようなら。元気で……」

 手を振りながら去っていくベラダとサーカス団のみんなに、ロンは大きく手を振って返す。

 そんなロンの肩を抱きながら、サーも見送り、手を振った。

「行ってしまった……」

 やがて、見えなくなったサーカス団の姿に、寂しそうにロンが言った。

 サーは優しく微笑み、ロンの肩を抱く手を強める。

「寂しいか?」

「……い、いいえ」

「強がらなくていいよ」

 そっと涙を零すロンに、サーはロンを抱きしめた。

「これからは、どんな時でも、私がそばにいることを忘れないで」

「サー様……」

 二人は、そのままキスをした。

「やあ。ハッピーエンドかい?」

 そこにフェマスが声をかけたので、二人は驚いて離れる。

「フェマス」

「僕もそろそろ行くよ。最後まで、どんでん返しがあってよかったな。僕も一安心……というか、幸せにな」

「ありがとう、フェマス」

 ロンとサーが同時に言ったので、フェマスも笑った。

「さて……僕はまた、旅に出るとするよ。だから、重々しく見送るのはやめてくれよな」

「わかったよ……でも、ありがとう」

 サーが、フェマスと握手をしてそう言う。

 そんなサーの手を、フェマスは強く握り返した。

「頑張れよ、サー。ロンも幸せにな。もう幸せを離すなよ」

「ええ、フェマス。あなたもね」

 固く友情で結ばれた二人を見つめ、ロンもそう返す。

「やられたな。じゃあ、もう行くよ。また会おう」

 フェマスはそのまま、振り向かずに去っていった。

「ハッピーエンドか……」

 するとそこに、テオーがやって来た。

「伯父様」

「おめでとう、ロン。どうなることかと思ったよ」

 テオーの言葉に、ロンは頭を下げる。

「心配かけてごめんなさい。それに、ペンダント、壊しちゃって……」

「いいんだよ。あれはもともと、おまえの物だ。おまえを守ってくれる、父親の形見だろう?」

「ええ。最後まで私を守ってくれたわ。でももう、粉々に壊れてしまった……」

 残念そうに俯くロンに、テオーは優しい顔を向ける。

「あるさ。形はなくても、あのペンダントの力は、おまえ自身になったのだ。おまえの父親も、そして母親も、もはやおまえ自身なのだ」

「伯父様……」

 それを聞いて、ロンは涙ぐんだ。

「その通りかもしれないね……ロンはこれから、私の妻であり、この国の母であり、キキを超えた大魔女になったのだから」

 サーが言った。

 プレッシャーをかけられたように、ロンは眉を顰める。

「なんだか大変ね……」

「ハハハ。そうだね……だが、ロンはそのままでいい。自然体のロンが、今までも人々を救ってきた。いくつかの行き違いはあったけれど、見てみろ。これほど幸せな日はあるのだろうか……これこそハッピーエンド、そして、新しい幕開けに相応しいではないか」

 城の外には、美しい夕焼けが染まっていた。


 数ヵ月後。

 毎日のように行われるパーティーの中で、ロンは突然の体調不良で床についた。

「ロンが体調不良? 何かあったのか!」

 そんな知らせを受け、サーは心配そうにそう言った。

 今までもロンは元気な様子だったため、不安がよぎる。

 だが、その後に受けた医者からの言葉で、サーは一目散にロンのもとへと駆けつけた。

「ロン! ああ、君はなんて素晴らしい女性なんだ!」

 それだけを言って、サーはベッドに横になっていたロンを抱きしめる。

 ロン、懐妊のニュースだった。

「あなたも素晴らしいわ、サー!」

 嬉しさに涙して、ロンもサーに抱きついた。

「今度こそ、大事にしてもらわないとな……」

「ええ……」

「これからは、何があっても私が守る。だから、安心して生まれておいで」

 優しい瞳で、サーはロンの腹をそっとさすった。


 数ヵ月後、サーとロンの子供が無事に生まれた。男の子と女の子の双子であった。

「必ず幸せにするわ」

「もちろんだ」

 幾度の難を越え、二人の愛は更に固く結ばれ、二人はますます国を繁栄させていくことだろう――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ