↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/3

2. 夜の足音

 ミルクティーのいい香りと、甘くて口の中でとろけるチョコの味、そして、風通しのいい、気持ちのいい部屋。

 魔法の力がなくたって、そんな場所に招かれてしまったのです。さすがの隼桐(はやと)も、一時、休戦をしないわけにはゆきません。


 ふんわりと過ぎてゆく、白魔女と子供たちの午後のひと時。


 ところが、

「ふん、何を楽しげに! 本当に馬鹿げてる」

 窓辺でその様子を眺めていた猫が、黒い吐息をだしました。


 うるさくて、わがままで、何を考えてるかさっぱりわからない厄介(やっかい)な連中。おまけに頭が悪いくせに、変に敏感。


 漆黒のその猫には、人間の子供ほど、勘にさわるものはありませんでした。


 とっとと、夜がくればいい。そしたら、あいつらを根こそぎ飲み込んでやれるのに……


 不満げに、白い洋館のリビングを見下ろした時、黒い猫は突然、笑いのようなかすれた声をだしました。

 白い洋館の壁が少しずつ、ずれ始めている事に、黒猫は気づいてしまったのです。とろけるように崩れてゆく、窓枠と柱。あまりにも微妙なその動きは、ナメクジが草の上を這うように、ゆっくりとした速度でしたが。


「あの一番チビの子供。なかなか、おもしろい事をする」


 そして、漆黒の猫はそそくさと窓辺から、外に向かって飛び降りるのでした。


* *


「だめよ! その紙をはがしてはっ!」


 いつ、そこに潜りこんだのでしょう? ”白の呪文”を書いた護符を手に持った隼桐(はやと)をテーブルの下に見つけると、白い魔女は大慌てで彼を自分の方へ引き寄せました。


 護符に書かれているのは魔方陣を作るための呪文。それを剥がしてしまっては、この洋館を形作っている魔力の効力が消えてしまうわ。


 よくよく見てみると、隼桐(はやと)の手には、同じような護符が何枚も握られていました。


「この家、変だよ。あっちこっちの壁に、この気色の悪い字を書いた紙が、貼られてるんだ」


「だから、全部、剥がしたっていうの? 絶対に止めて! それは、この屋敷のお守りなんだから」


 普通の子供には見えるはずがない魔方陣の護符。それをよくも、見極めたものだと、白い魔女はため息をもらしてしまいました。


その時、時計が午後4時の鐘を鳴らしました。


仕方がないわ。子供たちに気づかれないように外からもう一度、魔方陣を作り直しましょう。でも、術を完成するには、時間がかかるのよ。


けれども、楽しげな子供たちを、帰すにはまだ、少し早いような気がして白魔女は、


「私はちょっと用事があって出かけるけど、4時半になったら、あなたたちは帰りなさい。すぐに帰るから鍵は開けておくし、閉める必要もないから」


 すっかり満腹で林子とトランプを始めていた風太は、ちょっと困った顔をしていいました。


「それで、大丈夫なの? 勝手にここで遊んでいてもまだ、いいの?」


「ええ。ただ、4時半には帰るのよ。時間は”絶対に”守ってね。私は途中で用事を抜けれないから、声をかけてあげる事ができないの」


 一旦、魔法陣を組みだすと、白い魔女には外界の音も様子も何もかもが聞こえなくなります。それほど、その術には集中力が必要なのです。


 多少無理をして、笑みを作ると、白い魔女は大急ぎで館から出てゆきました。


「あと、30分か。俺、さっきから、このでかくて、ふわふわのソファでごろんってなりたかったんだ!」


「私もっ。ちょっと遠慮してたけど、今、やっちゃおう!」


 風太と林子は、リビングのソファに飛び込むように、転がり込みました。


「あっ、僕も僕も!」


 隼桐(はやと)も二人の中に割り込みました。三人は子猫のようにじゃれ合って、ソファの中ではねたり、飛んだり、転がったり。お互いの暖かさとソファのふわふわ感が、心地よくてたまりません。


 けれども、午後6時。

 白い洋館の前にある街灯に明かりが灯る頃、


 4時半になったら、”絶対に”帰るのよ”


 風太、林子、隼桐(はやと)の3人の子供は、白魔女のその言いつけを守る事などすっかり忘れて、疲れ果て……

 洋館のソファの中で、ぐっすりと眠り込んでしまったのです。


* *


 まだ、肌寒い5月の夜が足音をひそめながら、白い洋館に近づいてきました。なぜだか、今日はいつもより日暮れが早いようで、外は午後6時にしては、暗すぎるように思えました。


空には月も星も出ていません。ただ、目を凝らして見ていると、洋館にそびえたつ桐の枝の間をぬって、レースの黒いショールを大きく広げながら空を横切る、黒魔女の姿がおぼろげに浮かんでくるのです。


“さあ、夜の時間。甘ったるいおしゃべりや、我慢できない馴れ合いを、全部闇に流してしまおう。ああ、それを考えるだけで、私は嬉しくてたまらない”


黒魔女は、氷のような微笑を浮かべると、ショールをつぼめて白い洋館の窓辺に降り立ちました。



                   ~ 続く ~



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。