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節分、豆まきアルバイト、三回目、上

二回目描いてないけど。

 朱里の呼吸が限りなく荒い。

 当たり前だ。彼女は今、丘の上にある神楽神社の階段を一息に駆け上ってきたのだから。

 朱里の目は限りなく血走っている。

 当たり前だ。

「当たり前だーーーーー!!!!!!」

「あら朱里、どしたの。いきなり大声上げて……」

「いきなりじゃ、なぁぁぁぁぁぁい!!!!」

 私服姿の朱里が、息が切れて酸素も足りないままに、叫び散らした。

「櫻花さんですよね!? アレやったの!!!!」

「うん。だって朱里、来ないんだもん。心配になっちゃった」

「だからって市内放送しないでくださいぃぃーーーーーーーーー!!!!!」


 さかのぼること十五分前。

 朱里は少し落ち着かない様子で、それでも表面上はそんなそぶりを見せずに、自宅のリビングでルイボスティを口にしていた。

 部屋の隅にはカレンダーがかかっており、かわいいポメラニアンの写真の下には二月の日付がされている。今日は三日。節分だ。

 ……こたつが暖かい。大学は一月までのため、もう春休みだし、外は寒いし、ミカンはおいしい。

 ふわふわクッションは気持ちいいし、座椅子はいい角度でリラックスをくれているし、こたつの向こうにあるテレビは軽い笑いを耳に届けてくれるし。

 こんな幸せはない。この幸せを断固手放すものか。今日は何があってもこたつから出ない。節分とか言われても、豆まきなんて断固しない!!

 ピンポンパンポーーーン

 居座りを決めた朱里の耳に、はるか遠くからゆったりした声が聞こえてきた。

『○○市役所から、行方不明者の情報をお知らせいたします。今日午前九時ごろから、萌葱もえぎ朱里さんが、行方不明に、なりました。萌葱朱里さんの特徴は……』

「うきーーーーーーー!!!!!」

 朱里はこたつから飛び上がって、音速で着替えを敢行。魔女っ子も驚く変身速度で家を飛び出した……というわけだ。

「よかった。とりあえず市役所に連絡しておくね」

 櫻花が玄関にいる朱里を置いて、部屋に引っ込んだ。すると先ほどの『ピンポンパンポーン』が街に響く。

『萌葱朱里さんは、無事保護されました』

「やめーーーーーーーー!!!!!!!」

「だって、市役所の人が心配するでしょ」

「おかげで町中の友達が心配してます!!!」

 携帯メールの着信音がいつまでたっても鳴り止まない。

「だって、朱里が来てくれないんだもん……」

「当たり前です!!!!」

 節分……神楽神社にとっての節分は、日本という国を守る為の、人知れぬ死闘の場であった。以前も節分のエピソードがあったので詳しくはそちらを参照だが、季節の切れ目である節分はあの世とこの世の位置関係があやふやになり、冥界の鬼たちが日本各地にある黄泉比良坂より抜け出て土地を荒らそうとする。

 時の権力者たちはあの世との連絡口であるその場所に社を置き、結界を張ってできる限り一つ所に閉じ込め、これを撃退し被害を最小限に食い止める努力を古来から行ってきた。

 つまり節分に神楽神社に巫女としてスタンバるということは、包囲された城に立て篭もって勇戦する武士になるのと同じような意味合いがある。

 朱里は、普通の大学生だ。中学は手芸部、高校は散歩部という、戦いとはおおよそ無関係な人生を送ってきている。小学校四年生の頃に幼稚園の子供に泣かされたこともある彼女が鬼と向かうこと自体、不適材不適所もいいところだろう。

「ほら!! ナレーションもそう言ってます!!」

「そういう、いかにも戦いに向かない主人公が、"あい"と"ゆーき"と"きぼう"を味方にして、見事困難を成し遂げるなんて、よくある話でしょ?」

「どこに愛と勇気と希望があるんですか!!!」

「それはあなたの心の中にあるのよ、朱里」

「もっともらしい事、言わないでくださいーーー!!!」

 目をキラキラさせて朱里を抱きしめる櫻花だが朱里には通じない。もてあました櫻花は「しかたない」といった顔をした。

「分かった。貸してあげるから」

「え? なにを?」

 櫻花は懐から青、緑、赤……三つの勾玉が繋いであるペンダントを取り出した。

「愛と勇気と希望でしょ? ちょうど三人いるし」

 目をつむる櫻花。紅い唇が言葉を発さずに、しかしなにかの言葉を紡ぐ。

 勾玉の輪郭が揺らいだ。やがてそれぞれ石の色の煙が朱里と櫻花の中間に立ち昇る。それは徐々に小さな子供のような姿に変わっていった。

 空気よりも軽い風船のようにふよふよと浮いている着物姿の三人が、ツバメの子のように我先にとさえずりだす。

「茂平でちーー」

「喜助でちゅー」

「勘八でしゅーー」

「はいはい。……でも今日から、お前たちの名前は右から、愛、勇気、希望ね」

「えええええええええーーーーーー!!!」

 登場から三十秒で変名を余儀なくされた三人はわめいた。

「強引でちーーー!!」

「横暴でちゅーー!!」

「断固反対でしゅーー!!」

「というわけで朱里。愛と勇気と希望よ!!」

「いやがってるじゃないですかぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 すると櫻花は三人を見た。

「恨むなら、愛と勇気と希望がないと戦えないとか言ってる朱里を恨みなさい」

「えええええええーーーーーーーー!!!」

「恨むでちーー」

「呪うでちゅー」

「人権侵害でしゅーー」

 櫻花は朱里にペンダントを手渡した。それで三人は一度消える。

「呼べば出てくるから」

「怖くて呼べないです!!!」

 あんな得体の知れない者たちをヘタに呼んだら本当に呪い殺されそうである。


「まぁ、今回は大丈夫だよ」

 ウィンクする櫻花。このウィンクを見た日は大抵ひどい目にあっているのだが。

「朱里に危険が及ぶことは99,99%ない」

「え……?」

「こっちにはとっておきの新兵器があるのよ」

 御覧なさい!……調子づく櫻花が拝殿の方を指差すと、拝殿の手前に、白く聳え立つ、鎧を着た巨人のような何かが在る。

「なんですか!? あれ!」

 っていうか、あんなにあからさまなのに、今まで気づかなかった朱里が好き……と前置きした櫻花は大きく息を吸って一息に言い放った。

「今世界で大注目! 兵器の次世代を担う邀撃用人型兵器、その名もグリフィス!!」

 って、カタログに書いてあった。と添えて、「まぁ、鉄人28号みたいなもんよ」と結ぶ。

「鉄人28号?」

「知らないの? これだから平成世代は……」

 櫻花はそこから、昭和臭漂う説明を長々としてくれたが、つまり一言でまとめれば、アレが戦ってくれるらしい。

 二十メートルはあろうかというその巨躯の両肩にガトリング式の砲身を備える回転砲塔がそれぞれ一基ずつ、腰の両脇、太ももなどには三連装のバルカン砲、硬い装甲に覆われた胸部が開くと大型の光学兵器が射出できる仕組みになっており、硬く握られた巨大な両手には、人の体重を軽く超える量の豆が握られているそうだ。

「強いんですか?」

「だってアンタ。アレにいくらかかったと思うの?」

 どうも購入のために国家予算が組み込まれているらしい。前回の大陸間弾道豆もそうだが、節分の鬼の撃退は、国の中枢にも認められた"国防"の一種のようだ。

「100万円くらいですか?」

「18兆円よ」

「じゅ!!!!!!」

 朱里硬直。

「も、もうちょっとマシな税金の使い方はないんですか……?」

「ホントだよね」

 ま、とにかく……と、櫻花は言う。

「そんな高価な兵器だもん。あたしたちはお茶飲んでるだけでいいに決まってるわ」

 道理だろう。でなければ10億円で買える大陸間弾道豆を連発してくれた方がいい。

 まぁしかし、朱里にとっても18兆円は充分な説得力だったらしい。結局彼女も鬼の襲来まで神社にとどまることになった。

 納得したのだ。今回はいるだけでお給料がもらえる簡単な仕事なのだと。


 ドロドロドロドロ……。

 この音は毎回、何の音なんだろうと思う。日が暮れて黄泉比良坂が開き始める時、この音を合図に鬼の襲撃が始まる。

 電球の入った雪洞ぼんぼりが境内を一定間隔で照らし、雰囲気だけは夜祭のようだ。二月の風は刺すようで、夏に開催される夜祭のようなほっこりとしたやわらかさはまるでないのだが。 

 ちなみに、鬼との戦いに戦略などはない。

 結界が神社境内に張り巡らされるため、普段は広く感じても、戦場となるとひどく狭い。それぞれ持ち寄った火力の最大で、ペースを考えない全力の正面衝突による短期決戦がセオリーだ。鬼も大概重火器で境内を混乱に陥れてから一気に突撃してくるから、第一斉射目が自然、一番激しい。

 その攻撃をすべてひっくり返し、そのまま黄泉へ追い返してしまおうというのが今回注目の人型兵器、グリフィスである。機体に装着された無数の発射台が、その難事をも容易に実現せんと大空を仰いでいる。

 操縦するのも巫女の一人。神奈川県寒川神社からの応援で名を雪乃ゆきのという。彼女はこの日のために辞書よりも数倍は厚いグリフィスの取扱説明書を熟読してきている。

 とはいえ初めて触れるコクピットに戸惑いながら、迎撃体勢を整えていった。

「熱探知開始。出力レベル105%、ノイズオフ」

 巨体から発せられる電気自動車のようなモーター音。

 やがて、夜空が「切れ」る。同時に降ってきたものを見て、朱里は思わず叫んだ、

「星ーーーーーー!!!!」

 どうやったのかは理解できないが、星のつぶてと見紛う隕石群が一斉に神楽神社に降り注いでくる。雨粒がすべて一メートル代の岩になって降ってくると言ったらその恐怖も伝わろうか。

 配置についていた巫女たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、グリフィスはゆっくりと動き出す。

「AAオートモード接続! ガトリング豆、撃ちます!!」

 刹那、雪野の声が溶けて、まるで息を吸い込むようなエネルギーの充填音がした。機体の上半身が一瞬で硝煙に包まれ、その硝煙を突き破るように撃ち放たれる無数の豆。

 一瞬で数キロの飛距離を飛んだ豆は隕石群を次々と破壊し、飛び散った破片までを破壊して場を静寂に戻す。

「すごい……」

 地上から見上げる巫女たちは、スケールの違いにただただ唖然と口を開いてみるばかりだ。しかしその平静が、またすぐに阿鼻叫喚の図へと戻る。

 グリフィスが一歩踏み込もうとしたのだ。機体の足元一面に陣取っている粒のような巫女たちはたまらない。

「こらーーーーー!!! 歩くなーーーーーー!!!」

 クレームを飛ばす櫻花。そういう声をスピーカーで拾えるシステムになっているコクピット上の雪乃はビクとふるえ、その挙動をとめる。

「危ないでしょーーー!!!」

「直立じゃ豆が投げられないよぉ!!」

「知らないわよ!! あたしたち優先にして」

 確かにそれはそうだ。守る為の兵器で、よりピンチにしてはいけない。

 というか冷静に考えて、このような巨大兵器の射程範囲内で生身の人間が配置されていること自体がおかしいのではないだろうか。

 と、作者のほのかなツッコミに、容赦ない豆の一撃を加えた櫻花は叫んだ。

「動かないで攻撃はできないの!?」

「グリフィスの意味ないジャン……」

 嘆く雪乃。動かないなら固定型の砲台を置いておけばよかったのではないだろうか。

「しかたないか。いきなりクライマックス兵器になっちゃうけど……」

 やや目と目の距離が離れているのが特徴の巫女はいくつかのスイッチをONにする。

 第二波のミサイルが飛来するのを、先ほどと同じ飽和攻撃でしのいだ雪乃はその後の複雑な操作から、胸部の装甲板をずらして50センチはあろうかという巨大な砲身を晒した。

「拡散メガ粒子豆発射機充電!!」

 砲身が鮮やかに光を放つ。それはまるで星や月の光をすべて吸い込んでいるのかという勢いで光量を増やしてうなり始めた。朱里が半分口を開けたまま見上げている。

「すごそう……」

「っていうか、『豆まきアルバイト850円』ってこんな漫画だったっけ」

「まず漫画じゃないです」

 胸の砲身を中心に凝縮されていく光。あるところから巫女たちはそこを直視できなくなった。光量が強すぎて目が潰れてしまいそうだ。

「装填90%!! 発射10秒前!!」

 遠距離同士のやりとりのため、鬼たちもまだ姿を現さない。ミサイルも自動追尾のガトリング銃に撃ち落される中で、一つの障害もなく装填作業は行われていく。

「9、8、7、6……」

 行われるカウントダウン。ほんと、こんな漫画だったけ?だ。

「5、4、3、2……」

 しかし、異変はそこで起きた。


 バチンという、大きな音がした。

 刹那、グリフィスの胸から光が消える。

 いや、それどころか、神社に灯されていたすべての光が消え去った。叫ぶ櫻花。

「あーーーーー!!! 神社のブレーカーが落ちたーーーーー!!!」

「えええええええええええええーーーーーーー!!!」

 真っ暗となった辺り一帯に朱里の声が響く。

「あれ、電気で動いてるんですかぁぁぁ!?」

「当たり前でしょ。他、何で動くのよ」

「えええええーーー!! だって、あれ、じゃあ、コンセント付きですか!?」

「そうだけど」

「そんなんで戦えるんですかぁぁぁぁぁ!!!!」

 いや、日本政府も当然、初めは核燃料の使用を考えたらしい。

 しかし原発廃止が叫ばれる中、原子力を無理に推進すると選挙に負けるとのことで、クリーンな動力である電気を採用。これなら二酸化炭素も排出せずに安心して扱うことができる。

「確かにそうですけど!!!!」

 大事な優先順位が何か間違ってる気しかしない。

「おっかしいな。説明しに来たお役人は、ブレーカーは耐えるはずだって言ってたんだけどなぁ」

「櫻花さん、さっき『豆まき終わったらご飯食べようね』って言って、炊飯器を予約してませんでした?」

「したけど」

「馬鹿ですかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 例えば電子レンジと炊飯器など、使用電力の大きなものを併用してはブレーカーが落ちる。

「そうなの!?」

「落ちたことないんですか!?」

「ないよ」

 ……思えばこんな巨大ロボットを運用できる程の電力量が神楽神社には来ているのだ。電子レンジと炊飯器くらいではブレーカーが落ちるわけもなく、櫻花は本当にブレーカーを落としたことがないのかもしれない。

「っていうか炊飯器を一緒に使っちゃいけないなら教えてよ!!」

「あれが電気で動いてるとは思いませんでした!!」

 というか、そういう次元の話なんだろうか。

 よく分からないまま、ピクリとも身動きの取れなくなったグリフィスにミサイルと隕石の集中砲火が注がれる。

 国の威信をかけた巨大新兵器の、あまりにあっけない最期だった。

「18兆円がーーーーー!!!!」

「中の人の心配をしてあげてください!!!!」

 崩れ落ちるグリフィスの下敷きになるまいと阿鼻叫喚しながら右往左往する巫女たちの混乱を突いて、鬼たちは悠々と展開を開始した。


 戦わなければならない。

 あまりに冗談のようなメカ戦だったが、巫女たちの有り様は決して冗談ではない。鬼は容赦なく巫女を殺すし、食らうし、犯してゆく。

 この行事が現代にも残る生け贄の儀式を兼ねていることは以前別項でも述べた。鬼が全国に散らばって日本全体を混乱に陥れないよう神社境内で気を引くために、迎撃隊は女ばかりで編制されている。

「みんな落ち着いて!! くるわよ!!」

 鬼たちが神社の結界を破って外へと狩場を増やすためには、本殿の一室にある封印を解かなければならず、そのため彼らは手練手管を用いて侵攻してくる。迷彩柄の戦闘服を着て、一様にマシンガンを持ち、匍匐ほふくしながら迫る鬼たちは、決して絵本にでてくる野蛮人のようではない。

 対する巫女たちの武器は豆だ。詳しくは以前も述べたので省略するが、鬼たちに対しては銃弾よりも強力な破魔の武具であった。

 櫻花を初めとする中央の勢力は崩れ落ちたグリフィスをバリケードの代わりにして応戦している。顔を出しては豆を投げ、突風のような銃弾のつぶてが来るたびに、深く潜るように身を隠した。

 鬼は大きなもので2m半ほどだろうか。サイのような、みるからに頑強そうな骨格と、なにをも受け付けそうにもない魁偉な容貌で、覆いかぶさるように迫ってくる。非力な巫女でも豆を命中させるだけで退けることができるので、体格差の不利はないのだが、なにせ相手は人間じゃない。その目に射竦いすくめられたら逃げることもままならない。

 おまけに、予想もしていなかった事前グリフィスの混乱で連携の取れた攻撃ができず、劣勢は明らかであった。

 ちなみに、すでに電力は復帰している。雪洞が、境内と、単なる障害物でしかなくなったグリフィスを怪しく照らしながら、鬼との戦いを見守っていた。

「これはやばいな……」

 銃弾の吹きすさぶ中を、一人、弁慶のように前線に立ちはだかり、それこそ鬼神のような働きで侵攻を食い止めている櫻花が呟く。

 ここにいるだけなら自分自身は負ける気はしないが、一切の身動きが取れない。すべて倒しきれるわけではない以上、こぼれて侵攻していく鬼たちを、(グリフィスに)バリケードを破壊された今の中央方面の防御網ではこらえきれず、中央が割られては右翼左翼は戦力的にも不利だ。

 今回、あの巨大メカの力に期待しすぎて他神社からの応援に有力な者が少ないため、中央が割られることは敗北を意味していた。

 昭和の巫女が振り返る。恨みがましそうな表情の平成巫女がグリフィスの影から顔だけ出していた。

「なにその顔」

「99,99%安全だって言ってたじゃないですか……」

「天才は1%の才能と99%の努力って言うでしょ」

「何の関係があるんですかぁぁ……」

「つまり、99%努力しても1%の才能がなければ意味がないってことよ」

「アレってそんな意味だったんですか!?」

「たとえ1%だとしても実はその1%が大事。転じて、0,01%でもしっかり見据えなきゃいけないって事よ!」

「えええええーーーーーー!!!!」

「とにかく、今回このままじゃやられるわ。あたしちょっと相手の背中つつきに行くけど、朱里も行く?」

「絶対に嫌です!!」

「じゃあ残ってて」

「それもいやですーーー!!」

 心細くて死ぬ。

「わがまま言わないの。どっちにする? 鬼に食われる時にあたしがいるかいないかの差だけよ」

「……」

 朱里は、無言で櫻花の脇に寄り添った。鬼の恐ろしさと、櫻花の心強さはよく知っている。

「よし、死ぬ気でついてきなさいよ」

「ホントは帰りたいですーー!!」

「アンタってどんな時も、言いたいことだけはキッチリ言うよね……」

 たとえゴジラが目の前にいてもそうだろう。そう思うたび、実はこの娘は自分よりも肝が据わっているんじゃないかと思う櫻花である。

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