この世界 ピザねぇんだよなぁ
その日の昼下がり。
俺は厨房にいた。
最近、服のことばかり考えていたが、商店街のレストランで食事をしてから、どうにも料理のことが頭から離れない。
この世界には、俺が前世で知っていた食材がかなりある。なら、料理だって工夫次第でもっと美味しくできるはずだ。
とはいえ、俺は料理人じゃない。
だから、まずは厨房の料理人たちに相談することにした。
「ちょっと作ってみたい料理があるんだけど」
料理長たちがこちらを見る。
「どのような料理でしょうか、旦那様?」
「ピザ」
「……ピザ?」
聞き慣れない名前に、料理人たちは顔を見合わせた。
「簡単に言えば、生地の上に具を乗せて焼く料理だ。チーズも使う」
そう説明しながら、俺は紙に簡単な絵を描いてみせる。
パンに近い生地を平たく伸ばし、その上に具材を乗せ、最後にチーズをたっぷりかける。
「なるほど……」
料理人たちは興味深そうに絵を覗き込んでいる。
この世界にはパンを焼く文化があるし、チーズも普通に手に入る。材料そのものは特別なものじゃない。
だったら、作れるだろ。
「それと、もう一つ」
俺は別の材料を並べた。
卵。
油。
酢。
塩。
砂糖。
「これでマヨネーズを作る」
「マヨネーズ、ですか?」
「ああ。卵黄に酢と塩を混ぜて、油を少しずつ加えながら混ぜる。最後に砂糖を少し入れる」
料理人たちは、俺の説明を聞きながらさっそく作業に取りかかった。
卵黄を取り分け、酢と塩を加え、油を少しずつ垂らしていく。最初は戸惑っていた料理人たちも、混ぜていくうちに変化していく液体を見て目を丸くしていた。
「……これは面白いですね」
「だろ?」
やがて、見慣れない白いソースが完成する。
俺は少しだけ味見をしてみた。
「うん。ちゃんとマヨネーズだ」
料理人たちも恐る恐る味見をする。
「これは……」
「パンにも合いそうです」
「肉にも使えそうですね」
さすが料理人。
俺より先に使い道を考え始めている。
「それなら、ピザにも使ってみようか」
そう言ったところで、俺はふと思いついた。
「……あ、エビ多めな」
「エビ、ですか?」
「うん。エビを多めに乗せてくれ」
俺がそう頼むと、料理人たちはさっそく材料を確認し始めた。
生地とマヨネーズを作っておけば、あとは明日の試食会で実際に焼いてみればいい。
そう考えていたところ、厨房の料理人が尋ねてきた。
「旦那様、明日の試食会では、こちらで料理を準備すればよろしいでしょうか?」
「そうだな。生地とマヨ作っといて」
「承知しました」
「ピザに乗せる具材も適当に用意しておいてくれ。肉とか野菜とか、いろいろ試してみたい」
「かしこまりました」
俺はそこで厨房を出ようとした。
だが、ふと足を止める。
「そうだ。庭で焼けるようにしたいな」
「庭で、ですか?」
「ああ。ピザって焼くときにかなり高い温度が必要だからな」
前世の記憶を思い返しながら、庭の一角を見る。
「だったら、焼く場所を作ればいい」
俺はそのまま庭へ向かった。
料理人たちが不思議そうに見送る中、俺は庭の空いている場所を確認する。
レンガ。
石。
土。
この辺りの材料なら問題なさそうだ。
「よし。作るか」
料理人たちは顔を見合わせた。
「……旦那様が、また何か始めましたね」
「いつものことです」
そんな会話が背後から聞こえたが、俺は気にせず作業を始めた。
ピザを焼くための簡単な窯なら、前世で見たものを参考にすればいい。
本格的なものを作る必要はない。
明日、みんなで食べられれば十分だ。
そうして俺は、庭に小さな焼き窯を作り始めた。
その頃、厨房では料理人たちが明日の試食会に向けて準備を進めている。
「しかし、旦那様は次から次へと思いつかれますね」
「今度は料理ですか……」
「服の次は食べ物。次はいったい何でしょうね」
そんな声を聞きながら、俺は思った。
服を作るのも面白かった。
だが、美味いものを作るのも、やっぱり楽しい。
「明日が楽しみだな」
庭に新しい窯が完成していく。
明日は、みんなで食べてみよう。
そして、美味ければ――そのまま商品にできるかもしれない。
俺はそんなことを考えながら、最後のレンガを積み上げた。




