↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国なんて知ったこっちゃない、俺に大事なのは嫁だけだ  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/33

無礼講だけどさ 変な食材もってくんなよ

翌日の昼。


屋敷の使用人たちは、庭へ向かっていた。


全員集合。


しかも場所は庭。


昨日の時点で何をするのか知らされていなかったため、使用人たちは妙に落ち着かない。


「また何か思いつかれたのかしら」


「昨日は料理を作っていたそうですよ」


「料理?」


「まさか、新しい商売でも始めるんじゃ……」


そんな声があちこちから聞こえる。


セバスチャンも詳しいことは聞かされていない。


「私も、旦那様からは庭に来るようにとしか伺っておりません」


その言葉を聞いた瞬間、使用人たちはさらに不安そうな顔になった。


セバスチャンでも知らない。


それはつまり、本当に何をするのか分からないということだ。


やがて庭に到着すると、そこにはテーブルが並べられ、肉や野菜が大量に用意されていた。


炭火も起こされている。


「……あれ?」


「肉?」


「野菜もありますね」


そして庭の一角には、昨日ルードリッヒが作った焼き窯まである。


しばらく眺めていた使用人の一人が、ぽつりと呟いた。


「……バーベキュー?」


「ただのバーベキューか」


「よかった……」


何人かが明らかにほっとした。


新しい仕事を命じられるのではないかと思っていたのだ。


そこへルードリッヒがやってくる。


「お、みんな来たか」


「旦那様。本日は何を……」


「ん? バーベキューだぞ」


使用人たちの間に、さらに安堵の空気が広がった。


「よかった」


「本当にただの食事だったんですね」


その様子を見て、ルードリッヒは首を傾げる。


「……何をそんなに警戒してるんだ?」


セバスチャンは何も答えなかった。


ただ、少しだけ苦笑している。


「まあいいや。今日は食べてもらいたいものがあるんだ」


「食べてもらいたいもの?」


ルードリッヒがそう言った瞬間、使用人たちは顔を見合わせた。


「あー……」


「これですか」


「なるほど、新作料理の試食会ですね」


どうやら、みんな察したらしい。


「そうそう。昨日厨房でいろいろ作ってみたんだ」


そう言って、料理人たちが料理を運んでくる。


まずは普通のバーベキューだ。


牛肉、豚肉、鶏肉に加えて、玉ねぎやジャガイモ、キノコ、トマトなどが並ぶ。パンや焼きとうもろこしもあり、庭はすっかり食事会の雰囲気になっていた。


「好きなものを焼いて食べてくれ」


使用人たちは少し遠慮しながら肉を網に乗せていく。


やがて香ばしい匂いが庭に広がると、最初の緊張などどこかへ消えてしまった。


「美味しい!」


「これはいいですね」


「やっぱり外で食べると違いますね」


ルードリッヒも肉を一切れ食べる。


「うまっ」


思わず声が出た。


「やっぱり焼肉はいいな」


その様子を見た使用人たちも笑う。


「なんだ、いつもの旦那様じゃないか」


そんな和やかな空気が広がったところで、料理人が次の肉を運んできた。


「旦那様、こちらも焼いてみてください」


大きな皿に乗せられていた肉を見て、ルードリッヒは何気なく視線を向ける。


そして――。


「…………」


固まった。


皿の上に乗っていたのは、肉だけではない。


毛を処理した状態ではあるものの、その形を見れば何の肉なのかは一目で分かる。


大きな前歯。


細長い尻尾。


妙に見覚えのある頭部。


「……ネズミ?」


「はい。スワンプ・ラットです」


料理人は何でもないことのように答えた。


「こちらでは比較的安価で手に入りますし、焼くと鶏肉に近い味で美味しいですよ」


「…………」


ルードリッヒは一歩後ずさった。


「そんなの持ってくんなよ!」


「えっ?」


料理人のほうが驚いた。


「美味しいですよ?」


「いや、美味いとかそういう問題じゃないだろ!」


ルードリッヒは皿から目を逸らす。


前世の感覚では、どう考えても食材として受け入れられる見た目ではない。


しかも、それを今まさに網の上で焼こうとしている。


「待て待て待て。なんで普通に焼こうとしてるんだよ」


「普通に食べますから……」


「普通なの!?」


周囲の使用人たちは不思議そうな顔をしている。


どうやら、本当にこちらでは珍しい食べ物ではないらしい。


「旦那様、スワンプ・ラットは庶民の間ではよく食べられているものですよ」


セバスチャンまで淡々と説明する。


「セバスチャンまで!?」


「安価で手に入り、味も悪くございませんので」


「そういう問題じゃないんだって……」


ルードリッヒはしばらくスワンプ・ラットを警戒するように眺めていた。


だが、料理人は本当に美味しいのだと言って聞かない。


「せっかくですから、少しだけ召し上がってみてはいかがでしょう?」


「……絶対に嫌だ」


即答だった。


その様子を見て、使用人たちは笑い始める。


「旦那様、意外と苦手なものがあるんですね」


「あるに決まってるだろ!」


「でも、本当に美味しいですよ」


「……だからってネズミは無理!」


結局、スワンプ・ラットは料理人たちと一部の使用人だけで食べることになった。


しばらくして、


「ほら、旦那様。本当に美味しいですよ」


「見せるな!」


そんなやり取りが続いたあと、ルードリッヒはようやく別の料理へ意識を戻した。


そして料理人が次の皿を運んでくる。


大きな皿の上に、焼き上がったピザが乗っている。


「おお、できたか!」


ルードリッヒが嬉しそうに近づく。


焼きたての生地から香ばしい匂いが漂い、とろりと溶けたチーズが乗っている。


さっきまでの警戒が嘘のように、今度は嬉しそうな顔をしている。


「切ってみよう」


一切れを取り分け、ルードリッヒが口に運ぶ。


「……うまっ」


チーズと具材、香ばしい生地がよく合っている。


「いけんじゃねぇか!」


料理人たちも嬉しそうに頷いた。


「これは店で出せそうですね」


「具材を変えれば種類も増やせます」


「肉を乗せてもいいですし、野菜だけでもよさそうです」


使用人たちも次々に意見を出し始める。


ルードリッヒはピザをもう一口食べながら頷いた。


「それ採用!」


料理人たちが嬉しそうに顔を見合わせる。


続いて、昨日作ったマヨネーズが出てきた。


「こちらは、旦那様が作られたソースです」


「そのまま食べるより、何かにつけたほうがいいな」


ルードリッヒは焼いた肉に少しつけてみる。


「うん。合う」


別の使用人がパンにつけてみる。


「これも美味しいですね」


さらに野菜につける者もいれば、ピザに乗せてみる者もいる。


「これ、ピザにも合いますよ」


「本当だ」


「エビにも合いそうですね」


「エビ多めにしたのも正解だったな」


ルードリッヒは満足そうに頷いた。


すると、セバスチャンが少し離れたところでメモを取っていることに気づく。


「セバスチャン、何してるんだ?」


「今後の商品化について、必要な事項を整理しております」


「もうそこまで考えてるのか」


「旦那様が『美味しければ商品に』と仰いましたので」


「なるほど」


ルードリッヒは少し考えたあと、ピザをもう一切れ取った。


「これ、店で売ったら人気出るんじゃないか?」


「十分可能性はあるかと」


「じゃあ試してみよう」


セバスチャンは静かに頷いた。


仕事が増えた。


間違いなく増えた。


それでも、その表情には少しだけ楽しそうなものが浮かんでいる。


新しい料理が生まれ、それが新しい商売になる。


服のときもそうだった。


最初は旦那様の思いつきだったものが、周りの人間の手によって形になっていく。


それを見ているのは、悪くない。


使用人たちは、その後も肉を焼き、ピザを食べ、マヨネーズをいろいろな料理に合わせながら楽しんだ。


そして誰かがふと口にする。


「旦那様、これも商品化できるんじゃないでしょうか?」


「どれ?」


「このマヨネーズです。瓶に詰めて売れば、料理にも使えますし」


「なるほど」


ルードリッヒは少し考えた。


そして――。


「それ採用!」


「はい!」


使用人たちは笑った。


新しい仕事が増えることは分かっている。


けれど、不思議と嫌ではない。


昨日まで存在しなかった料理が、今こうして目の前にある。


それをみんなで食べて、美味しいと言い合い、さらに新しい使い道まで考えている。


ルードリッヒも楽しそうに笑っていた。


「いやあ、こういうのもいいな」


セバスチャンはそんな主人を見ながら、静かに頷く。


「ええ。大変結構なことでございます」


もちろん、その手元のメモはすでにかなりの枚数になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。