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国なんて知ったこっちゃない、俺に大事なのは嫁だけだ  作者: 七風


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デザイン捗るわー 最高のモデルいるもん

下着の改良が一段落した翌日。


俺は朝から机に向かっていた。


目の前には紙と鉛筆、それから何種類かの布地が並んでいる。


「……うーん」


描いては消し、また描く。


頭の中では、マリアンヌが着た姿を想像している。


普段着なら、あまり堅苦しくないほうがいい。動きやすさも欲しいし、かといって貴族の妻として外に出るなら、ある程度の華やかさも必要になる。


「こっちかな……いや、違うな」


俺はまた線を引き直した。


前世でアパレル関係の仕事をしていたとはいえ、俺はデザイナーだったわけじゃない。だから専門的なデザインを一から生み出せるほどの知識があるわけではない。


それでも、どういう服が綺麗に見えるか、どういう形なら着やすいかという感覚は残っている。


そして今の俺には、最高のモデルがいる。


「マリアンヌ」


「はい?」


向かいで本を読んでいた彼女が顔を上げる。


「ちょっと立ってみて」


「こうですか?」


「うん。そのまま少し横を向いて」


マリアンヌが言われた通りに身体の向きを変える。


俺はそれを見ながら紙に線を引いていく。


「……やっぱり、こっちのほうがいいな」


「何を考えていらっしゃるんですか?」


「服のデザイン」


「私がモデルなんですね」


「そりゃそうだろ」


俺は当然のように答えた。


「マリアンヌが着るんだから、マリアンヌに似合う服を考えたほうがいい」


「……そうですか」


彼女は嬉しそうに微笑んだ。


それからしばらく、俺は服のことばかり考えていた。


襟の形を変え、袖の長さを変え、腰回りのラインを調整する。


同じデザインでも布地を変えれば印象が変わる。


「この生地なら春向きだな」


「こちらは少し厚手ですから、秋冬でしょうか」


「そうだな。じゃあこれは普段着向けで……」


気がつけば、机の上には大量のデザイン画が並んでいた。


「旦那様」


「ん?」


いつの間にか部屋に入ってきていたセバスチャンが、机の上を見る。


「こちらはすべて、本日お考えになったもので?」


「うん」


「……かなりの量でございますな」


「まだ全然だぞ」


セバスチャンが少しだけ黙った。


「そうでございますか」


それ以上は何も言わない。


俺はまた紙に向かう。


「マリアンヌ、もう一度こっち向いて」


「はい」


「髪を少し後ろにまとめてもらえる?」


「こうでしょうか?」


「うん。……これなら襟はこっちだな」


「ルー様」


「ん?」


「朝からずっと服のことを考えていませんか?」


「そうだな」


時計を見る。


「……もう昼か」


「はい」


「早いな」


マリアンヌが小さく笑う。


「とても楽しそうですよ」


「楽しいな」


自分でも驚くくらい夢中になっている。


前世でも服について考えることは多かったが、今は自分の妻が実際に着る服を考えている。


こうしたらもっと綺麗に見える。


この色ならマリアンヌの雰囲気に合う。


この形なら動きやすい。


考え始めると、いくらでも出てくる。


「よし、午後は実際に試作品を作ってみよう」


「午後もですか?」


「もちろん」


マリアンヌは困ったように笑ったが、嫌そうではない。


「では、お付き合いしますね」


「ありがとう」


こうして午後からは、仕立て職人を交えて試作品作りが始まった。


「ここはもう少し細く」


「かしこまりました」


「袖はあと少し長く。いや、長すぎるな……一度戻して」


「承知しました」


「マリアンヌ、これ着てみて」


「はい」


着替えて戻ってきたマリアンヌを見て、俺はしばらく黙り込んだ。


「……うん」


「どうでしょう?」


「似合ってる」


「本当ですか?」


「うん。すごく綺麗だ」


マリアンヌが嬉しそうに笑う。


それを見て、俺はまた新しいデザインを思いついた。


「……待てよ。今のを少し変えたら、もっと良くなるな」


「ルー様?」


俺はすぐに紙を取った。


「ごめん、もう一回着てもらっていい?」


「ふふっ。はい」


セバスチャンはその様子を少し離れたところから見ていた。


旦那様は完全に夢中になっている。


昔から考え込むことの多い方ではあったが、最近はこうして何かに夢中になっている姿をよく見る。


そして、その中心にいるのはいつも奥様だ。


「旦那様」


「ん?」


「夕食のお時間もございますので、ほどほどになさいませ」


「分かった」


そう答えた直後、俺はまた布を手に取った。


「……これ、色を変えたらどうなるかな」


セバスチャンは静かにため息をついた。


「ほどほど、という言葉の意味をもう少し広く解釈していただきたいものですな」


マリアンヌが笑う。


「ルー様、夕食まであと少しですよ」


「じゃあ、それまでにあと二つ」


「二つもですか?」


「二つ」


「ふふっ。分かりました」


こうして俺は、その日一日をほとんど服のデザインに費やした。


そして翌日も、その次の日も。


気づけば俺の机には、マリアンヌをモデルにした服のデザイン画がどんどん増えていった。


普段着。


外出着。


少し改まった服。


季節ごとの服。


色違い。


生地違い。


「……まだ足りないな」


俺が呟くと、マリアンヌが横から覗き込む。


「これだけあってもですか?」


「服は何着あっても困らないだろ」


「そうですね」


マリアンヌは笑った。


そして俺は今日も、新しい服のデザインを考える。


この世界の服をもっと良くしたい。


もちろん、それもある。


でも一番の理由は単純だった。


**マリアンヌが、もっと綺麗に見える服を作りたい。**


それだけだった。


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