かぼちゃパンツ んなだせぇの俺が変える!
昼食を終えたあと、俺はマリアンヌと庭を散歩していた。
こうして並んで歩いていると、自然と彼女の服装が目に入る。貴族の女性らしい上品なドレスで、生地も仕立ても悪くない。少なくとも、今の俺が伯爵として暮らしていく分には何の問題もないだろう。
ただ、前世でアパレル関係の仕事をしていた俺からすると、どうしても気になるところがあった。
「……この世界、服飾関係は結構遅れてるな」
「そうなんですか?」
「うん。ドレスそのものもそうだけど、もっと身近なところから変えられそうだ」
そう言いながら、俺は少し考える。
せっかくなら、まずは下着からだ。
今の下着は布をただ身体に合わせているようなもので、着心地や動きやすさについてはあまり考えられていない。それに、前世の感覚からすると見た目もかなり野暮ったい。
特に女性用は、いわゆるかぼちゃパンツのような形だ。
「……マリアンヌ」
「はい?」
「今の下着って、着ていて不便じゃない?」
「不便、ですか?」
「動きにくいとか、締め付けが気になるとか」
マリアンヌは少し考えてから首を横に振った。
「特に気にしたことはありませんね。こういうものだと思っていましたから」
「そっか……」
こういうものだと思っているなら、なおさら改善の余地がある。
別に奇抜なものを作りたいわけじゃない。肌に触れるものだからこそ、もっと着心地が良くて、動きやすくて、見た目も可愛いものにできる。
そして何より。
俺はマリアンヌを見る。
せっかくこんなに綺麗な女性なんだから、身につけるものだってもっと綺麗にしてあげたい。
「もう少し、おしゃれにしてみない?」
「おしゃれに、ですか?」
「うん。着心地も良くして、見た目も可愛くする」
「……ルー様は、本当に私を綺麗にするのがお好きですね」
マリアンヌが少し照れたように笑う。
「だって、マリアンヌは綺麗だからな」
「もう……」
頬を赤くする彼女を見て、俺はますますやる気になった。
よし。
まずは下着から変えよう。
屋敷に戻ると、俺はセバスチャンを呼んだ。
「お呼びでしょうか、旦那様」
「うん。ちょっと仕立て職人を頼みたいんだけど」
「どのようなものをお作りに?」
「下着」
「……下着でございますか」
セバスチャンの眉がほんの少しだけ動いた。
「そう。もっと動きやすくて、肌触りも良くて、おしゃれなものを作りたい」
「女性用でしょうか?」
「まずはマリアンヌ用だな。サイズを測って、試作品を作ってもらおう」
「かしこまりました」
さすがセバスチャンだ。
俺が変なことを言い出しても、いちいち理由を聞いたりせず、必要なことを淡々と進めてくれる。
「旦那様は、どうしてそのようなことを思いつかれるのでしょうな」
「ん?」
「いえ、独り言でございます」
「なんか思いついたんだよ」
「なるほど」
セバスチャンはそれだけ言って一礼した。
……納得したのか?
まあいいか。
それから数日後、試作品が完成した。
マリアンヌが身につけてみると、以前のものより身体に合わせて作られているため、動きやすく、布地も柔らかい。デザインもシンプルながら可愛らしく、本人が鏡を見て嬉しそうにしている。
「どう?」
「とても楽です。それに……」
マリアンヌは少し恥ずかしそうに笑った。
「可愛いですね」
「だろ?」
俺も満足する。
やっぱり、こういうところから変えていくのは悪くない。
ただ、そこでふと思った。
「……待てよ」
「どうされました?」
「男物も変えられるな」
「男性用も、でございますか?」
「ああ」
自分の下着について考えてみる。
前世でいうところのブリーフに近い形だ。別に使えないわけじゃないが、もう少し布を増やしてゆったりさせたほうが、普段使いなら楽だろう。
「これ、トランクスみたいな形にできないかな」
「とらんくす、でございますか?」
「うん。もっとゆったりした形のやつ」
説明しながら簡単な絵を描いてみる。
「こんな感じで、足回りに余裕を持たせる。これなら動きやすいし、座っても窮屈じゃない」
「なるほど。男性用も試作いたしましょう」
「頼む」
こちらもすぐに試作品が完成した。
実際に履いてみる。
「……おお」
思わず声が出た。
「楽だな、これ」
歩いてみても、座ってみても窮屈さがない。
前世で当たり前に使っていたものだから忘れていたが、改めて履いてみると、このくらいの余裕があるほうがずっと快適だ。
「これなら普段使いにいいな」
「旦那様ご自身で試されるとは、さすがでございます」
「自分で使うものなんだから、自分で確かめたほうがいいだろ」
「ごもっともでございます」
セバスチャンはいつものように穏やかに頷いた。
こうして、女性用は着心地と可愛らしさを重視し、男性用は動きやすさと快適さを重視して、フェルネ領の下着が少しずつ改良されていくことになった。
ただ、俺の中では優先順位がある。
男物は快適になれば十分。
女物は快適で、なおかつ可愛くしたい。
もちろん、まずはマリアンヌだ。
「さて……次は普段着かな」
俺が呟くと、セバスチャンが静かにこちらを見る。
「次、でございますか?」
「ああ。せっかく下着を変えたんだから、その上に着る服ももう少し何とかしたい」
「かしこまりました」
セバスチャンは一礼する。
その顔はいつも通り落ち着いていた。
ただ、俺にはなんとなく分かる。
――また仕事が増えたな、と思っている。
まあ、仕方ない。
俺がマリアンヌをもっと綺麗にしたいと思ってしまったのだから。
「なんか思いついた」と言えば、それでいい。
俺の中にある知識がどこから来たのかなんて、今さら考える必要もない。
今はただ、目の前にいる妻が笑ってくれるものを作ればいい。
そうして俺の服改革は、意外にも下着から始まった。




