じょ 上司に呼び出されたら いきなりお見合いしろってぇ
翌朝。
俺は執務室で、一人の騎士を待っていた。
マリアンヌの姉、ルーシー。
昨日会ったばかりだが、あの姉に合いそうな男を考えたとき、最初に思い浮かんだのがこいつだった。
「失礼します」
扉が開く。
「お呼びでしょうか、旦那様」
「ああ。入ってくれ」
入ってきたのは、二十七歳の騎士、リチャードだった。
少しぽっちゃりした体型に、柔らかい顔立ち。いつもにこにこしていて、見た目だけなら少しぽやっとしている。
ただ、仕事ぶりは堅実だ。
人の話をよく聞くし、部下から相談を受けても急かさず最後まで聞く。
俺自身、何度か話したことがあるが、こいつと話していると妙に落ち着く。
「まあ、座ってくれ」
「はい」
リチャードが椅子に座る。
俺も向かいに座った。
「リチャード」
「はい?」
「お前、彼女は?」
「……え?」
リチャードが目を丸くする。
「彼女ですか?」
「ああ」
「い、いないっすけどぉ……」
妙に間延びした返事だった。
「そうか」
「……なんですかぁ?」
リチャードが不思議そうに首を傾げる。
俺は少し考えた。
回りくどく話すのは苦手だ。
だから、いつものように結論から言おうとした。
「お前、今日お見合いしろ」
「…………」
リチャードが固まった。
「え?」
「今日」
「今日?!」
「そう」
「いきなりっすね!?」
「まあ……そうだな」
「なんでですか!?」
リチャードが慌てている。
俺はそこで、ふと気づいた。
これ。
俺が伯爵として命令したら、こいつは断れないんじゃないか?
「……悪い」
「え?」
「今の言い方だと、命令にしか聞こえないな」
「……まあ、そうですね」
「俺は、お前を無理やり結婚させたいわけじゃない」
「はい」
「ただ、昨日マリアンヌの姉と会ってな」
「奥様のお姉様ですか?」
「ああ」
俺は少し考えながら続けた。
「二十七歳。猫が好きで、かなり元気な人だ」
「……元気」
「遠慮もない」
「…………」
リチャードの笑顔が少し引きつった。
「それ、大丈夫なんですか?」
「俺もまだ分からん」
「分からないんですかぁ!?」
思わず笑う。
「でも、お前なら話を聞いてやれると思った」
「俺が?」
「ああ」
俺はリチャードを見る。
「お前、人の話を聞くの上手いだろ」
「……そうですかね」
「俺はそう思ってる」
リチャードが少し照れたように笑った。
「それで、紹介してみようと思った」
「なるほど……」
「だから、まず会ってみてほしい」
そこで俺は言葉を選ぶ。
「ただ、俺から紹介された以上、断りづらいだろ?」
「……はい」
「だから先に言っておく。俺に気を遣う必要はない」
リチャードが顔を上げる。
「向こうが気に入らなければ断っていい。お前が合わないと思っても断っていい」
「はい」
「俺は二人が結婚することを望んでるわけじゃない」
「…………」
「二人が話してみて、こいつとなら一緒に暮らせそうだと思ったなら、そのとき考えればいい」
リチャードは黙って俺の話を聞いている。
「何度か会ってみろ。食事でも散歩でもいい。話してみて、性格が合うか。結婚したあと後悔しないか。そこは二人で決めてくれ」
「……分かりました」
「それに」
俺は少し笑った。
「俺自身も、昨日初めて会ったばかりだからな」
「え?」
「ルーシーがどういう人なのか、俺もまだ全部分かってない」
「そうなんですか」
「ああ。だから、お前が自分で見て判断してくれ」
リチャードはしばらく考えていた。
やがて、いつもの穏やかな笑顔になる。
「じゃあ……会ってみます」
「そうしてくれ」
「ありがとうございます」
「礼はいらない」
俺はそう言ってから、少し考える。
「……いや、違うな」
「?」
「俺が勝手に話を持ってきたんだ。だったら、ちゃんと説明するのも俺の仕事だろ」
リチャードが少し驚いた顔をした。
「旦那様……」
「何だ?」
「やっぱり優しいですね」
「……それはやめてくれ」
「すみません」
リチャードが笑う。
俺も少し笑った。
「じゃあ、今日のところは顔合わせだ」
「はい」
「いきなり結婚とかは考えるなよ」
「もちろんです」
「……よし」
俺は頷いた。
これなら大丈夫だろう。
俺から紹介した以上、二人が自由に判断できるようにしておく。
それだけはちゃんとしておきたい。
リチャードが立ち上がる。
「では、行ってきます」
「ああ」
扉へ向かうリチャードを見送る。
そして俺は、一人になった執務室で小さく息を吐いた。
「……まあ、実質命令なんだけどな」
自分で言ってしまってから、少し苦笑する。
だからこそ。
せめて、こっちからちゃんと話すくらいはしないとな。
俺は椅子に座り直した。
「……さて」
もし本当に二人が上手くいったら。
俺の部下が、義兄になる。
「……それはそれで、面倒だな」
そんなことを考えながら、俺は次の仕事に取りかかった。




