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国なんて知ったこっちゃない、俺に大事なのは嫁だけだ  作者: 七風


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32/33

じょ 上司に呼び出されたら いきなりお見合いしろってぇ

 翌朝。


 俺は執務室で、一人の騎士を待っていた。


 マリアンヌの姉、ルーシー。


 昨日会ったばかりだが、あの姉に合いそうな男を考えたとき、最初に思い浮かんだのがこいつだった。


「失礼します」


 扉が開く。


「お呼びでしょうか、旦那様」


「ああ。入ってくれ」


 入ってきたのは、二十七歳の騎士、リチャードだった。


 少しぽっちゃりした体型に、柔らかい顔立ち。いつもにこにこしていて、見た目だけなら少しぽやっとしている。


 ただ、仕事ぶりは堅実だ。


 人の話をよく聞くし、部下から相談を受けても急かさず最後まで聞く。


 俺自身、何度か話したことがあるが、こいつと話していると妙に落ち着く。


「まあ、座ってくれ」


「はい」


 リチャードが椅子に座る。


 俺も向かいに座った。


「リチャード」


「はい?」


「お前、彼女は?」


「……え?」


 リチャードが目を丸くする。


「彼女ですか?」


「ああ」


「い、いないっすけどぉ……」


 妙に間延びした返事だった。


「そうか」


「……なんですかぁ?」


 リチャードが不思議そうに首を傾げる。


 俺は少し考えた。


 回りくどく話すのは苦手だ。


 だから、いつものように結論から言おうとした。


「お前、今日お見合いしろ」


「…………」


 リチャードが固まった。


「え?」


「今日」


「今日?!」


「そう」


「いきなりっすね!?」


「まあ……そうだな」


「なんでですか!?」


 リチャードが慌てている。


 俺はそこで、ふと気づいた。


 これ。


 俺が伯爵として命令したら、こいつは断れないんじゃないか?


「……悪い」


「え?」


「今の言い方だと、命令にしか聞こえないな」


「……まあ、そうですね」


「俺は、お前を無理やり結婚させたいわけじゃない」


「はい」


「ただ、昨日マリアンヌの姉と会ってな」


「奥様のお姉様ですか?」


「ああ」


 俺は少し考えながら続けた。


「二十七歳。猫が好きで、かなり元気な人だ」


「……元気」


「遠慮もない」


「…………」


 リチャードの笑顔が少し引きつった。


「それ、大丈夫なんですか?」


「俺もまだ分からん」


「分からないんですかぁ!?」


 思わず笑う。


「でも、お前なら話を聞いてやれると思った」


「俺が?」


「ああ」


 俺はリチャードを見る。


「お前、人の話を聞くの上手いだろ」


「……そうですかね」


「俺はそう思ってる」


 リチャードが少し照れたように笑った。


「それで、紹介してみようと思った」


「なるほど……」


「だから、まず会ってみてほしい」


 そこで俺は言葉を選ぶ。


「ただ、俺から紹介された以上、断りづらいだろ?」


「……はい」


「だから先に言っておく。俺に気を遣う必要はない」


 リチャードが顔を上げる。


「向こうが気に入らなければ断っていい。お前が合わないと思っても断っていい」


「はい」


「俺は二人が結婚することを望んでるわけじゃない」


「…………」


「二人が話してみて、こいつとなら一緒に暮らせそうだと思ったなら、そのとき考えればいい」


 リチャードは黙って俺の話を聞いている。


「何度か会ってみろ。食事でも散歩でもいい。話してみて、性格が合うか。結婚したあと後悔しないか。そこは二人で決めてくれ」


「……分かりました」


「それに」


 俺は少し笑った。


「俺自身も、昨日初めて会ったばかりだからな」


「え?」


「ルーシーがどういう人なのか、俺もまだ全部分かってない」


「そうなんですか」


「ああ。だから、お前が自分で見て判断してくれ」


 リチャードはしばらく考えていた。


 やがて、いつもの穏やかな笑顔になる。


「じゃあ……会ってみます」


「そうしてくれ」


「ありがとうございます」


「礼はいらない」


 俺はそう言ってから、少し考える。


「……いや、違うな」


「?」


「俺が勝手に話を持ってきたんだ。だったら、ちゃんと説明するのも俺の仕事だろ」


 リチャードが少し驚いた顔をした。


「旦那様……」


「何だ?」


「やっぱり優しいですね」


「……それはやめてくれ」


「すみません」


 リチャードが笑う。


 俺も少し笑った。


「じゃあ、今日のところは顔合わせだ」


「はい」


「いきなり結婚とかは考えるなよ」


「もちろんです」


「……よし」


 俺は頷いた。


 これなら大丈夫だろう。


 俺から紹介した以上、二人が自由に判断できるようにしておく。


 それだけはちゃんとしておきたい。


 リチャードが立ち上がる。


「では、行ってきます」


「ああ」


 扉へ向かうリチャードを見送る。


 そして俺は、一人になった執務室で小さく息を吐いた。


「……まあ、実質命令なんだけどな」


 自分で言ってしまってから、少し苦笑する。


 だからこそ。


 せめて、こっちからちゃんと話すくらいはしないとな。


 俺は椅子に座り直した。


「……さて」


 もし本当に二人が上手くいったら。


 俺の部下が、義兄になる。


「……それはそれで、面倒だな」


 そんなことを考えながら、俺は次の仕事に取りかかった。


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