やっべぇ 何あの人 猫接待やばすぎじゃぁ?
約束の日。
俺――リチャードは、朝から妙に落ち着かなかった。
昨日、旦那様から突然告げられた。
『今日、お見合いしろ』
思い返しても、やっぱり急だ。
とはいえ、旦那様なりに気を遣ってくれたのも分かっている。
無理に結婚しろという話ではない。
まずは会って、話して、それから自分たちで決めろ。
そう言ってくれた。
「……まあ、行ってみるか」
鏡の前で髪を整える。
普段より少しだけ丁寧に。
服も、騎士服のままではまずいだろうと思って、少しだけまともなものを選んだ。
「……これでいいよな?」
誰に聞くでもなく呟く。
そもそも。
俺には女性と付き合った経験がない。
「……彼女いたこと、一回もないんだよなぁ」
だから、お見合いと言われても何をすればいいのかよく分からない。
相手のことを聞けばいいのか。
自分のことを話せばいいのか。
それとも、とりあえず飯を食べていればいいのか。
「まあ、なるようになるか」
俺は屋敷を出た。
待ち合わせ場所は、貴族専用猫カフェ。
正確には、その奥にあるVIPバーだった。
貴族同士が人目を気にせず話せるように作られた場所らしい。
「……お見合いの場所が猫カフェって」
少し笑ってしまう。
でも、旦那様らしい気もする。
猫好きの女性なら、話のきっかけにもなるのだろう。
店に到着し、受付へ向かう。
「本日、お約束がございます」
「お名前をお願いいたします」
「リチャードです」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
案内され、VIPバーへ続く廊下を歩く。
落ち着いた内装。
静かな店内。
ところどころから猫の鳴き声が聞こえる。
「……本当に猫カフェなんだな」
少し緊張していたせいか、妙に猫の鳴き声が耳に入る。
そして。
バーの入口近くまで来たところで――。
「……ん?」
妙な光景が目に入った。
同じくらいの年齢に見える女性が、一人で猫と遊んでいる。
いや。
遊んでいるという表現では足りない。
「しゅっ」
猫じゃらしが動く。
「しゅっ、しゅっ」
右。
左。
そして――。
「ほらほら、こっちよー」
猫じゃらしが高速で動く。
その瞬間。
周囲にいた猫たちが一斉に集まった。
「にゃー」
「にゃ」
「みゃー」
「……え?」
リチャードは足を止めた。
猫が多い。
いや、多すぎる。
「しゅっ!」
女性が猫じゃらしを振る。
さらに猫が集まる。
足元。
膝の上。
左右。
気づけば、十匹近い猫が彼女の周囲に集まっている。
「なんだあれ……」
思わず呟く。
まるで――。
「マタタビでも持ってるのか?」
それくらい猫が群がっている。
しかも、女性はただ猫を集めているだけではない。
「はいはい。順番ね」
右の猫を撫でる。
「あなたも」
左の猫を撫でる。
「はい、次はこっち」
膝に乗ってきた猫を撫でる。
「……」
また別の猫が寄ってくる。
女性は嫌な顔一つせず、順番に撫でていく。
しかも。
どうやら全員をちゃんと可愛がっている。
適当に一匹だけ構って終わり、というわけではない。
「……サービス精神すごいな」
猫相手に何を感心しているんだ、俺。
そう思いながらも、目が離せない。
女性は楽しそうだった。
猫たちも楽しそうだった。
「しゅっ、しゅっ」
また猫じゃらしを振る。
猫たちが一斉に飛びつく。
「はは……」
思わず笑ってしまう。
それにしても。
この人、猫が好きなのか?
いや。
好きっていうレベルじゃない気がする。
「……まさかな」
俺は女性の姿を見ながら首を傾げた。
そのとき。
女性がこちらに気づいた。
「あら?」
目が合う。
「…………」
「…………」
女性が少し首を傾げる。
俺も会釈する。
「あの……」
「はい?」
「もしかして……お見合いのお相手の方ですか?」
「え?」
女性が目を丸くする。
そして――。
「あなたがリチャード?」
「あ、はい」
「まあ!」
女性の顔がぱっと明るくなる。
「よかった! やっと来たのね!」
その瞬間。
リチャードは思った。
――この人。
たぶん。
かなり元気な人だ。
そして。
足元には、相変わらず大量の猫が群がっていた。




