王都観光来たけど なんか遅れてんなぁ ここ王都だよな?
レオニードとの発表会が終わった。
錬金術師たちへの説明も終わり、商人たちからの質問も一通り片付いた。
もっとも、レオニードはまだ何人かの錬金術師に捕まっている。
「……終わったな」
「はい。お疲れ様でございました、旦那様」
「レオニードは?」
「まだ錬金術師の方々に囲まれております」
「……まあ、頑張れ」
俺は王都の街並みを眺めた。
発表会のために来た王都だったが、せっかくここまで来たんだ。
このまま帰るのも、なんだかもったいない。
「よし」
「はい?」
「今日は普通に観光しよう」
マリアンヌが嬉しそうに顔を上げる。
「観光ですか?」
「ああ。仕事はもう終わったんだ。せっかく王都に来たんだし、少しくらい見て回ろう」
「楽しそうですね」
「だろ?」
俺はセバスを見る。
「セバスも今日は仕事を忘れていいぞ」
「もちろんでございます」
セバスは即答した。
……なんだろう。
妙に準備がいい。
「ちなみに、観光用の馬車と宿はすでに手配しております」
「……いつの間に?」
「旦那様が発表会に集中されている間に」
「…………」
さすがセバス。
俺が何も考えていないうちに、全部済ませていた。
「それから、王都の名所をいくつか回れるよう簡単な予定も組んでございます」
「お前、今日を休みにする気満々だっただろ」
「旦那様と奥様が王都へ来られたのですから、観光くらいはなさるものかと」
「……まあ、いいか」
マリアンヌが楽しそうに笑っている。
それなら文句はない。
「じゃあ、まずは街を歩いてみよう」
「はい!」
こうして俺たちは、仕事とは関係のない王都観光を始めた。
最初に向かったのは、王都でも有名な服飾街だった。
「おお……」
通りの両側に、仕立て屋や服飾店が並んでいる。
貴族向けの高級店も多い。
「素敵なお店がたくさんありますね」
マリアンヌが嬉しそうに辺りを見回す。
「ああ」
俺も店先に並んでいる服を見る。
生地は悪くない。
仕立ても、それなりにしっかりしている。
だが。
「……うーん」
「どうされました?」
「いや」
ドレスを眺める。
デザインそのものは悪くない。
ただ、どれも少し動きにくそうだ。
装飾も多い。
着る人のことより、見栄えを優先しているように感じる。
「王都でも、こんな感じなのか」
「王都では、こういうお洋服が普通だと思いますが……」
「まあ、そうなんだろうな」
異世界なんだ。
前世と同じわけがない。
そういうものだ。
「ルー様、こちらはどうでしょう?」
マリアンヌが一着のドレスを指差した。
「ん?」
「綺麗ですね」
「そうだな」
マリアンヌが気に入ったのなら、買えばいい。
「試着してみる?」
「よろしいのですか?」
「もちろん」
マリアンヌが嬉しそうに店員についていく。
その間、俺は別の服を眺めていた。
「旦那様」
「ん?」
「こちらの服も奥様にお似合いかと」
セバスが一着の服を手に取る。
「……確かに」
俺は頷いた。
「それも買おう」
「かしこまりました」
「旦那様、随分と気前がよろしいですな」
「マリアンヌが気に入るならいいだろ」
「左様でございます」
セバスの口元が少し緩んでいる。
なんだろう。
最近、こいつの笑い方が分かるようになってきた。
その後も何軒かの店を見て回った。
服。
靴。
帽子。
バッグ。
装飾品。
王都だけあって、種類は多い。
けれど。
「……やっぱり、少し遅れてるな」
思わず呟いた。
「何がですか?」
「いや、服の売り方とか、店の作りとか」
「そうでしょうか?」
「前世……じゃなくて、俺が知ってるものと比べるとな」
危ない。
今のは余計なことを言いそうになった。
「まあ、王都だからもっと進んでると思ってたんだけどな」
マリアンヌは少し首を傾げる。
「私は、十分素敵だと思いますけど」
「まあ、そうだな」
マリアンヌが楽しそうなら、それでいい。
俺たちはそのまま服飾街を歩いた。
昼を少し過ぎた頃。
「次はどうしましょうか?」
セバスが尋ねる。
「んー……」
俺は周囲を見回した。
すると、大きな建物が目に入った。
「劇場?」
「はい。王都でも有名な劇場でございます」
「へえ」
マリアンヌが目を輝かせる。
「観てみたいです」
「じゃあ、行ってみるか」
「はい!」
セバスがすぐに動く。
「では、席を手配いたします」
「……本当に準備がいいな」
「旦那様がそうおっしゃると思っておりましたので」
「俺より俺のこと分かってないか?」
「長年お仕えしておりますので」
そんなやり取りをしながら、俺たちは劇場へ入った。
演目は、勇者と魔王を題材にした喜劇だった。
「まあ、分かりやすそうだな」
「楽しそうですね」
「そうだな」
席につき、しばらくすると幕が上がった。
勇者役の男が舞台中央に立つ。
「我が名は――!」
そこで大きく腕を広げる。
「漆黒の運命を背負いし選ばれた戦士! 闇夜を裂く光の刃をその身に宿し――!」
「…………」
長い。
観客から笑い声が漏れる。
すると仲間役の男が横から口を挟んだ。
「名前だけ言えばいいんじゃないか?」
「何!?」
「自己紹介で日が暮れるぞ」
客席から笑いが起こる。
マリアンヌも口元を押さえて笑っている。
「ふふっ……」
俺も思わず笑った。
「こういうのもあるんだな」
その後も、勇者は何かにつけて大げさな言い回しをする。
「この右腕に眠る力が目覚める時、世界の運命は――!」
「また右腕か」
「何!?」
「さっきから右腕ばかり気にしているだろう」
観客がまた笑う。
さらに別の場面。
魔王が腕を組み、意味ありげな顔で言う。
「我が真の力を解放すれば、この世界は――」
「また長い話が始まるぞ」
「まだ何も言っていない!」
劇場中が笑いに包まれた。
俺は腕を組みながら舞台を見る。
……これ。
なんというか。
妙に懐かしい。
前世で見たような、見ていないような。
いや。
たぶん、こういうノリは昔からあったんだろう。
ただ。
この世界の劇として見ると、かなり面白い。
「ルー様」
「ん?」
「面白いですね」
マリアンヌが小さく笑っている。
「ああ」
俺も笑った。
そして舞台では、勇者が再び腕を押さえていた。
「くっ……静まれ……!」
「どうした!?」
「俺の右腕が……!」
「またか!」
「くっ……!」
「包帯がほどけてるだけだぞ」
「…………」
客席から大きな笑い声が起こる。
マリアンヌも肩を震わせている。
「ふふふっ……」
俺はそれを見て、なんとなく嬉しくなった。
「楽しそうだな」
「はい。とても」
それなら来てよかった。
舞台が終わる頃には、俺たちはすっかり楽しんでいた。
「面白かったですね」
「ああ」
劇場を出る。
俺はふと考えた。
「しかし、あれ誰が考えたんだろうな」
「昔の劇作家ではないでしょうか?」
「そうだろうな」
俺は少しだけ笑う。
たぶん、昔の誰かがこういうものを流行らせたんだろう。
まあ。
面白いなら、それでいい。
そこまで深く考えることでもない。
「では、そろそろ宿へ向かいましょうか」
セバスが声をかける。
「ああ」
俺たちは用意されていた高級宿へ向かった。
王都でも有名な宿らしく、建物そのものがかなり立派だった。
中へ入ると、広いロビー。
丁寧な接客。
上質な調度品。
部屋もかなり広い。
「おお……」
俺は部屋を見回した。
「これはなかなかいいな」
「気に入られましたか?」
「ああ」
俺は満足して頷いた。
「王都、遅れてるところも多いけど……」
部屋をもう一度見回す。
「少しはまともじゃないか」
「ふふっ」
マリアンヌが笑った。
「王都なのですから、当然ではありませんか?」
「いや、今日一日見てきた感じだと、もっとこう……」
「遅れている、と?」
「……まあ、そんな感じだ」
「ふふふ」
マリアンヌは楽しそうに笑っている。
俺も笑った。
今日は色々見て回った。
服も買った。
劇も楽しんだ。
マリアンヌも喜んでくれた。
「明日はどうしましょうか?」
マリアンヌが尋ねる。
「明日は……」
俺は少し考えた。
「また適当に街を歩いてみるか」
「はい!」
こうして。
俺たちの王都観光、一日目が終わった。
仕事もない。
面倒な話もない。
今日はただ、妻と一緒に王都を楽しんだ。
……たまには、こういう日も悪くない。




