今さら気づくとか!俺なにやってんだよ!
DCIFの新しい店も無事に軌道に乗り、近頃の屋敷は比較的平和だった。
俺は久しぶりに自分の時間を取って、図書室で冒険小説を読んでいた。
領地経営の本でもない。
魔法の研究書でもない。
ただの暇つぶしだ。
「……へえ」
読んでいると、物語の主人公が異世界から転生してきたという設定が出てきた。
「異世界からの転生か」
この世界にも、そんな物語があるらしい。
もちろん架空の話だ。
主人公は前世の知識を使って、異世界で活躍していく。
そして、自分の能力を確認するために――。
『ステータスオープン』
「…………」
俺の手が止まった。
「……そういえば」
前世で見た作品にも、こういうのはよくあった。
異世界転生。
ステータス。
スキル。
「試してみるか」
何となく口にする。
「ステータスオープン」
すると。
「うわっ!?」
目の前に、突然半透明の板が現れた。
「…………」
俺は固まった。
名前。
年齢。
職業。
能力値。
いくつかの数字が並んでいる。
「……まあ」
一通り見てみる。
「こんなもんか」
別に、とんでもない数字が並んでいるわけではない。
少し高いものもあるが、俺自身が見ても何がどの程度なのかよく分からない。
「ステータス自体は、あんまり興味ないな」
俺が気になったのは、その下だった。
**【スキル】**
「……お」
そこにはいくつかの名前が並んでいる。
**空間収納**
**鑑定**
**高魔法適性**
**器用**
「…………」
俺はしばらく眺めた。
「これ、結構いいんじゃないか?」
特に。
**空間収納。**
「試してみよう」
机の上にあったペンを手に取る。
空間収納を意識すると――。
ペンが消えた。
「……おお」
もう一度意識する。
ペンが戻ってくる。
「おおお!」
思わず立ち上がった。
これは便利だ。
かなり便利だ。
「なんで今まで気づかなかったんだ……」
買い物。
荷物。
食材。
商品の試作品。
旅行用の荷物。
全部これで持ち運べる。
「…………」
俺は頭を抱えた。
「もっと早く気づけや、俺」
そこへ、部屋の外から声がした。
「旦那様?」
「セバスチャンか」
「先ほど大きな声が聞こえましたが」
「いや、ちょっと新しい魔法が使えるようになってな」
俺は空間収納からペンを取り出して見せる。
セバスチャンは少し驚いた顔をした。
「空間収納でございますか」
「たぶんそう」
「なるほど」
思ったよりあっさりしている。
「驚かないのか?」
「旦那様は昔から魔法がお得意でしたので」
「そうなの?」
「はい」
なるほど。
この世界では、空間収納自体は珍しいものではないらしい。
ただ、俺は今まで使っていなかった。
「まあ、いいか」
俺は少し考える。
「これ、屋敷でも使えるな」
まずは倉庫から。
重い荷物を運ぶ必要がなくなる。
食材を運ぶのも楽になる。
商品の試作品を仕立て屋へ持っていくのも簡単だ。
「……便利だな」
さっそく使用人たちにも、できる範囲で空間収納の活用方法を教えることにした。
もちろん全員が使えるわけではない。
魔法適性が必要らしく、使える者だけが練習することになった。
その結果。
「旦那様、倉庫の整理が以前よりかなり楽になりました」
「だろ?」
「厨房への食材運搬も効率が上がっております」
「だろ?」
「商品の搬送も……」
「だろ?」
俺は少し得意げになった。
「便利だろ、これ」
セバスチャンが微笑む。
「はい。大変便利でございます」
その言葉を聞いて、俺は満足した。
さらに、俺はもう一つのスキルを試してみる。
「鑑定」
目の前にあった置物を見る。
すると、情報が表示された。
**【魔力灯】**
魔力を込めることで、一定時間周囲を照らす魔道具。
「……これ、照明だったのか」
屋敷の廊下に置かれている、昔から何となく置物だと思っていたものだった。
「セバスチャン」
「はい」
「これ、魔力灯らしいぞ」
「……左様でございますか?」
「うん」
俺は別のものも鑑定してみた。
**【保温石】**
一定の温度を維持する魔道具。
「これも魔道具だったのか」
厨房に置かれている石。
料理を温めるために使われているらしい。
ただ、使用人たちは使い方を知らないため、ほとんど放置されていた。
「……もったいないな」
さらに屋敷を歩いてみる。
壁際に置かれていた小さな箱。
**【防虫箱】**
中に入れた衣類や布を虫から守る魔道具。
「…………」
俺は箱を見る。
服飾関係の仕事をしていた俺としては、かなり気になる。
「これ、使えるじゃん」
さっそく衣類を保管している部屋へ持っていく。
今まで普通に虫除けを使っていた場所だった。
魔道具を適切に設置すると、使用人たちも興味津々だった。
「こんな物が屋敷にあったんですね」
「昔からあったらしいぞ」
「では、今まで使われていなかったのでしょうか?」
「たぶん」
俺自身も知らなかった。
元々のルードリッヒも、そこまで魔道具に詳しかったわけではないらしい。
「鑑定、便利だな」
今まで用途の分からなかった物が、次々と分かっていく。
「……ちょっと楽しくなってきた」
俺は屋敷の中を見回した。
「これ、全部調べてみるか?」
「旦那様」
セバスチャンが少しだけ苦笑する。
「ほどほどになさいませ」
「分かってるって」
そう言いながら、俺はまた一つの魔道具を見つけた。
古びた箱。
見た目は地味。
何に使うものなのか、俺にも分からない。
「……これも鑑定してみるか」
俺は箱に手を向ける。
「鑑定」
表示された文字を見て――。
「…………」
思わず目を見開いた。
「……へえ」
どうやらこの箱。
思っていたより、ずっと面白い物らしい。
俺は箱を持ち上げた。
「セバス」
「はい」
「これ、ちょっと調べてみよう」
「かしこまりました」
こうして俺は、ステータスから見つけた便利なスキルを使いながら、屋敷に眠っていた魔道具を一つずつ調べ始めることになった。
空間収納。
鑑定。
高い魔法適性。
器用さ。
どうやら俺は――。
思っていた以上に、便利なものを持っていたらしい。
「……これ、もっと早く知りたかったな」
俺はもう一度、古びた箱を見る。
さて。
これは一体、何に使うものなのか。
**次は、この箱から始まりそうだ。**




