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国なんて知ったこっちゃない、俺に大事なのは嫁だけだ  作者: 七風


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23/33

一般が座れる席が少ねぇなら 別で建てればいいんじゃね?

最近、近領の貴族令嬢たちのお茶会場所が、すっかり猫カフェで固定されてきた。


「本日は猫カフェですわね」


「ええ。あそこのお菓子、とても美味しいんですもの」


「それに猫も可愛いですし」


そんな会話が、近隣の貴族令嬢たちの間では当たり前になっているらしい。


もちろん、俺としても猫カフェが繁盛しているのは嬉しい。


美味しいお菓子を食べながら猫と遊べる。


そのうえ、近隣領の令嬢たちが集まることで、自然と交流も生まれている。


問題は――。


「旦那様。本日も奥のVIP席を確保してございます」


「……また?」


「はい」


セバスチャンがいつもの調子で答える。


「本日も近隣の貴族令嬢方のお茶会が予定されておりますので」


「…………」


俺は少し考えた。


VIP席自体は便利だ。


他の客から離れた場所で、ゆっくり猫と遊べる。


ただ。


「毎回、貴族の席を確保するのって面倒じゃないか?」


「私としても、予約管理が少々大変になってまいりました」


「だよな」


最近では、貴族令嬢たちの利用が増えすぎている。


普通の猫カフェなのに、奥の席だけ貴族の予約で埋まっている日も珍しくない。


しかも一般客からすれば、せっかく来たのに奥の席がいつも予約済みということになる。


「……だったら」


俺はふと思いついた。


「貴族専用の猫カフェを作ればいいんじゃないか?」


「…………」


セバスチャンが黙った。


「どうした?」


「いえ」


少しだけ遠い目をしている。


「旦那様らしいお考えだと思っただけでございます」


「そうか?」


「はい」


こうして、新しい店の計画が始まった。


今回は、今ある猫カフェの上位互換というだけではない。


**貴族が利用するための、完全に別の店**にする。


立地は商店街から少し離れた静かな場所。


馬車で来ても邪魔にならないよう、店の前には広い馬車寄せを作った。


建物も、今の猫カフェよりかなり大きい。


外観は派手すぎない。


だが、一目見れば普通の店ではないと分かる程度には立派にした。


入口へ続く道も綺麗に整えられている。


季節の花が植えられ、左右には低い生垣。


建物の正面には大きな扉があり、その上には猫をあしらったDCIFの紋章が掲げられている。


「……なんか、本当に貴族の店になったな」


俺は完成した建物を見上げた。


入口を抜けると、広々としたエントランス。


床には上質な絨毯。


壁には猫をモチーフにした装飾。


照明も明るすぎず、落ち着いた雰囲気にしてある。


ただ豪華なだけではない。


壁や柱には細かな彫刻が施され、家具にも統一された意匠が入っている。


猫の姿をそのまま大きく描くのではなく、尻尾や耳、肉球を思わせる曲線がさりげなく使われている。


天井には大きな照明が吊られている。


それも派手な金色一色ではなく、落ち着いた金属装飾と柔らかな光を組み合わせたものだ。


「かなり凝ってるな」


「貴族の皆様にご利用いただく店舗ですので」


セバスチャンは当然のように答えた。


エントランスの先には、受付がある。


そこにも一般店とは違う落ち着きがあった。


来店した客を大声で呼び込むようなことはしない。


使用人が静かに出迎え、名前を確認してから案内する。


「本日はお越しいただきありがとうございます」


「こちらこそ」


そんなやり取りをしている間にも、奥から紅茶の香りが漂ってくる。


その奥には広いホールがあり、大きなソファとテーブルが並んでいる。


ソファはゆったりとした造り。


長時間座っていても疲れにくいようにしてある。


テーブルも大きく、ティーセットと菓子を並べても余裕がある。


窓は大きく取られていて、外から柔らかな光が入ってくる。


もちろん猫たちは自由に歩き回っている。


猫が過ごすための場所も、かなり力を入れた。


壁際には大きな猫塔。


そこから棚が続き、高い場所まで登れるようになっている。


窓辺には日向ぼっこ用の台。


ソファの横には猫が隠れられる小さなスペース。


さらに奥には猫専用の庭まである。


「……猫のほうが豪華な家に住んでないか?」


「猫カフェでございますから」


「いや、そうなんだけど」


猫が高い場所からこちらを見下ろしている。


別の猫はクッションの上で丸くなっている。


さらに別の猫は庭を歩いている。


貴族向けの豪華な空間なのに、猫たちはいつも通りだ。


その組み合わせが、妙に面白い。


さらに奥には個室。


二人から四人程度で使える小さな部屋。


六人程度のお茶会にちょうどいい部屋。


そして十人以上でも利用できる大きな部屋まで用意した。


個室ごとに内装も少しずつ違う。


落ち着いた色調の部屋。


明るい雰囲気の部屋。


女性同士のお茶会を意識した華やかな部屋。


窓から庭を眺められる部屋。


そして、それぞれの部屋にも猫が入れるようになっている。


「これなら、毎回VIP席を予約する必要もないな」


「はい」


セバスチャンが満足そうに頷く。


「こちらの店舗そのものが、貴族向けのVIP空間となります」


「それでいい」


そして、この店にはもう一つ目的がある。


「DCIFの商品も置こう」


店内の一角には、専用の展示スペースを作った。


そこにはDCIFの商品が並べられている。


バッグ。


財布。


スカーフ。


ハンカチ。


ブローチ。


髪飾り。


ネクタイ。


そして、猫用の首輪やリード。


猫用ベッド。


毛布。


玩具。


食器。


ペット用の服。


ただし、ここに並べるのは一般店で扱うものとは少し違う。


素材も上質。


装飾も細かい。


猫や犬の意匠も、派手に描くのではなく、刺繍や金具などにさりげなく入れている。


展示棚そのものも高級感のある造りにした。


商品をぎっしり並べるのではなく、一つ一つの間隔を広く取っている。


「こういうのなら、貴族が持っていても変じゃないだろ」


「上品にまとまっておりますな」


バッグには細かな刺繍。


財布には小さな金属飾り。


スカーフには猫や犬を思わせる繊細な模様。


ブローチも、大きな動物の形ではなく、耳や尻尾を思わせるデザインになっている。


一見すれば普通の高級品。


だが、よく見るとDCIFだと分かる。


さらに、店内で実際に使うものまでDCIF仕様にした。


カップ。


ソーサー。


ティーポット。


ケーキ皿。


スプーン。


それぞれに猫や犬を思わせる意匠が入っている。


しかも、来客用の食器だからといって派手にはしていない。


白を基調とした上品な器に、細い金の縁取り。


そこへ小さな猫の足跡や犬の横顔を思わせる模様が入っている。


「これ、気に入ったら買えるようにしておこう」


「使用しているものそのものを販売するのでございますか?」


「うん。実際に使ったほうが良さが分かるだろ」


紅茶を飲みながら、


「このカップ素敵ですわ」


となれば、そのまま注文できる。


菓子を食べながら、


「このお皿も欲しいですわね」


となれば、それも注文できる。


さらに奥には、オーダーメイド用の相談室も作った。


自分の飼っている猫をモデルにした刺繍。


毛色や模様を再現したブローチ。


飼い主と猫でお揃いのデザイン。


娘と母親と猫で同じ意匠を使った品。


「うちの子専用」という商品も、ここなら注文できる。


そして、ついに。


貴族専用猫カフェの開店日がやってきた。


ただの開店ではない。


今回は近隣領の貴族たちを招いた**開店式典**も行うことになった。


朝から店の前には、次々と馬車が到着していく。


家紋の入った馬車。


それぞれの家の使用人を伴った令嬢たち。


中には夫人や当主本人の姿もある。


「随分と賑やかだな」


「近隣の主要な貴族家には、ご案内を差し上げております」


「そんなに呼んだのか?」


「新しい商業施設のお披露目でございますので」


セバスチャンは当然のように答えた。


「それに、DCIFの共同事業であることも皆様に知っていただく良い機会かと」


「なるほど」


俺たちは入口で来賓を迎えることになった。


俺は正直、こういう式典は苦手だ。


だが、マリアンヌが隣にいる。


それだけで少し気が楽だった。


「本日はお越しいただき、ありがとうございます」


「こちらこそ、お招きいただき光栄ですわ」


貴族令嬢たちが次々と挨拶をしていく。


「以前の猫カフェも素晴らしかったですが、こちらはまた随分と立派ですわね」


「ありがとうございます。皆さんにゆっくり楽しんでもらえるように作りました」


俺がそう答えると、マリアンヌが隣で嬉しそうに微笑む。


そのとき。


「おお! ルードリッヒ!」


聞き覚えのある声が響いた。


「ん?」


入口を見る。


そこにいたのは――。


「カマーセ?」


「久しぶりだな!」


イヌール領主、カマーセ・イヌールだった。


立派な礼装に身を包み、堂々と歩いてくる。


「よく来たな」


「当然だろう!」


カマーセは胸を張った。


「DCIFは我がイヌール領との共同事業なのだからな!」


「ああ、そうだったな」


俺が普通に答えると、カマーセは少し拍子抜けしたような顔をした。


「……もっと驚いてくれてもいいのだぞ?」


「なんで?」


「いや……共同事業の相手が式典に来るのだぞ?」


「そりゃ来るだろ」


「…………」


カマーセが少し黙る。


そして、嬉しそうに笑った。


「ふっ。そうか」


どうやら俺とカマーセの関係を、本人はかなり気に入っているらしい。


「では、こちらの皆様にもご挨拶を」


カマーセは近隣貴族たちへ向き直った。


「イヌール領主、カマーセ・イヌールです。このたび、フェルネ伯爵と共同でDCIFを立ち上げました」


堂々と宣言する。


「犬用品を中心に、様々な商品を開発しております。我が領では犬の飼育施設を中心に、実際の商品試験も行っております」


「まあ、あのドッグランですわね」


「ええ!」


カマーセの顔が明るくなる。


「そちらもぜひ一度お越しください!」


完全に宣伝している。


俺は思わず苦笑した。


「……ちゃっかりしてるな」


「共同事業だからな!」


「まあ、いいけど」


そのやり取りを見ていたマリアンヌが、小さく笑った。


「お二人とも、とても仲がよろしいですね」


「そうかな?」


「はい」


カマーセも満足そうに頷く。


「もちろんだ!」


「お前が言うと妙に暑苦しいな」


「何だと!?」


周囲から小さな笑いが起こった。


こうして、開店式典は和やかな雰囲気で始まった。


来賓たちは店内へ案内される。


「まあ……!」


「素敵……」


広々としたホール。


上質な家具。


落ち着いた照明。


そして、その中を自由に歩く猫たち。


「猫がこんなに優雅に過ごしているなんて」


「こちらにもいますわ」


一匹の猫が令嬢の足元へ寄っていく。


「まあ、この子……可愛い」


すぐに撫で始める。


その横では紅茶が運ばれていく。


「こちらのカップもDCIFの商品でございます」


「まあ!」


「販売もしております」


「本当に?」


次々と商品に興味を持つ来賓たち。


バッグ。


髪飾り。


ブローチ。


猫用の首輪。


そして、高級仕様の食器。


「こちらはイヌール領との共同商品ですの?」


「はい」


俺が答える。


「猫用の商品だけでなく、犬用の商品も扱っています」


「まあ。犬を飼っている家には嬉しいですわね」


そこへカマーセが割って入る。


「犬用品なら、ぜひ我が領の施設でも実物をご覧ください!」


「カマーセ、宣伝しすぎじゃないか?」


「何を言う! 共同事業なのだから当然だ!」


また周囲から笑いが起こる。


どうやら、今日の式典はかなり賑やかになりそうだった。


その後も来賓たちは個室や展示スペースを見て回り、紅茶と菓子を楽しんだ。


「次のお茶会も、ここでお願いしたいですわ」


「私もです」


「個室を予約しておきましょう」


そんな声があちこちから聞こえてくる。


俺は店内を見回した。


猫がいる。


紅茶がある。


菓子もある。


DCIFの商品も並んでいる。


そして貴族たちも楽しそうだ。


「……うん」


これなら、もう毎回VIP席を確保する必要はない。


当初の目的は、無事に達成できた。


「ルー様」


マリアンヌが隣に立つ。


「どうでした?」


「大成功じゃないか?」


「はい」


マリアンヌが嬉しそうに笑う。


その向こうでは、カマーセが別の貴族にドッグランの説明をしていた。


「……あいつ、本当に宣伝好きだな」


「でも、楽しそうですよ」


「まあな」


俺も笑った。


最初は、ただ毎回VIP席を確保するのが面倒だっただけだ。


それが今では。


貴族専用猫カフェ。


DCIFの高級展示・販売店。


そして、フェルネ領とイヌール領の共同事業を広める場所になった。


「まあ、悪くないな」


俺は猫を撫でながら呟いた。


その日から。


近隣貴族たちの新しいお茶会場所は、正式にこの店へと移っていくことになった。


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