結構いい奴じゃん 一緒に仕事してみるか
ある日の朝。
セバスチャンが一通の手紙を持ってきた。
「旦那様、カマーセ様からでございます」
「カマーセから?」
封を切って中を見る。
『近いうちに、そちらへ伺いたい。犬の施設についても相談したいことがある。都合の良い日を教えてほしい』
相変わらず熱いな。
俺は少し笑った。
「じゃあ、明後日でいいんじゃないか?」
「承知いたしました」
セバスチャンが手紙を預かる。
「最近、カマーセ様からのお手紙が増えておりますな」
「まあ、向こうも色々話したいんだろ」
「左様でございますか」
セバスチャンは穏やかに微笑んでいた。
最近の俺は、カマーセと話すことが嫌ではなくなっている。
最初は暑苦しい奴だと思っていた。
だが、話してみれば真面目だし、領地のこともちゃんと考えている。
犬のことになると妙に熱いが、それも悪くない。
むしろ、話していて楽しい。
「明後日か……」
俺はふと思った。
だったら、こっちからも何か見せてみるか。
せっかく向こうから熱心に交流してきているんだ。
こちらも何か返してみてもいいだろう。
「セバスチャン」
「はい」
「少し作りたいものがある」
「……かしこまりました」
返事が早い。
俺は机の上に紙を広げた。
「猫と犬をテーマにした商品を作ってみたい」
「猫と犬、でございますか」
「ああ」
服だけじゃない。
シャツ。
ネクタイ。
スカーフ。
バッグ。
財布。
ハンカチ。
ブローチ。
髪飾り。
子供向けなら猫耳や犬耳の帽子なんかも面白い。
そしてペット用品。
首輪。
リード。
ベッド。
毛布。
おもちゃ。
食器。
ブラシ。
「飼い主とペットでお揃いにできる商品もいいな」
「お揃い、ですか?」
「例えば、飼い主の服に入れた刺繍と同じものを犬の首輪につけるとか」
「なるほど」
「猫でも同じことができる」
さらに思いつく。
「それから、オーダーメイドもやりたい」
「オーダーメイドですか」
「その家の犬や猫をモデルにして、刺繍や装飾品を作るんだ」
「それは人気が出そうですな」
「だろ?」
特に貴族なら、自分の愛犬や愛猫をモデルにした一点物なんて喜びそうだ。
「よし。まずはサンプルを作ろう」
こうして試作品作りが始まった。
俺が大まかなデザインを考え、仕立て職人たちに形にしてもらう。
服だけではなく、小物も作る。
犬用の首輪には丈夫さを重視した。
猫用は動きやすさを優先する。
ペットベッドも犬用と猫用で形を変える。
人間用の商品には、猫と犬をそれぞれ意匠として使った。
数日後。
机の上には、かなりの数のサンプルが並んでいた。
「……結構できたな」
「はい」
セバスチャンが並んだ商品を見る。
「旦那様、こちらは?」
「犬用の首輪。こっちは猫用」
「こちらは?」
「飼い主用のスカーフ。犬用の首輪と同じ柄にしてある」
「なるほど」
さらにシャツを手に取る。
「こちらは犬の刺繍ですか」
「ああ。猫版もある」
バッグや財布、ハンカチ、ブローチまで並べていく。
最後に、オーダーメイド用の見本も用意した。
「これは実際の犬や猫に合わせて、刺繍を変える」
「かなり本格的ですな」
「せっかくなら、ちゃんとしたものにしたいからな」
そこへ。
「ルードリッヒ!」
元気な声が聞こえてきた。
「来たか」
カマーセが部屋に入ってくる。
「今日は何の話――」
そして、机の上を見た。
「…………」
固まった。
「これ、全部……?」
「ああ。ちょっと試しに作ってみた」
カマーセは犬の刺繍が入ったシャツを手に取った。
「犬だ……」
「犬だな」
「この首輪は?」
「犬用」
「このベッドは?」
「犬用」
「この玩具は?」
「犬用」
カマーセの目が輝いていく。
「……素晴らしい」
「そんなに?」
「素晴らしい!」
完全に食いついた。
「犬を飼っている者なら、こういうものは欲しくなる!」
「そう思うか?」
「思うとも!」
カマーセは犬用の首輪を眺める。
「しかし、見た目だけではなく丈夫さも考えられているな」
「ああ。犬は結構動くからな」
「こちらのベッドもいい。犬が休める」
「実際に犬の施設で使ってみて、問題があれば改良すればいい」
「なるほど……」
カマーセが顔を上げる。
「ルードリッヒ」
「ん?」
「これは、事業にできるぞ」
「やっぱりそう思う?」
「ああ!」
カマーセはすっかり乗り気だった。
「私の領地には犬を飼っている者も多い。まず試作品を使ってもらい、意見を集めよう」
「助かる」
「それに、犬用品だけではないのだろう?」
「ああ」
俺は猫用の商品を見せる。
「猫用品も作る。人間向けの服や装飾品も一緒に扱う」
「猫と犬を一つのブランドにするのか」
「そう」
「それなら、私の領地だけでなく、お前の領地でも売れるな」
「もちろん」
俺は紙に簡単な案を書いた。
「まず、フェルネ領でデザインと製造をまとめる」
「うむ」
「イヌール領では犬用品の試用と改良。それから販売にも協力してもらう」
「分かった」
「猫用品はうちの猫カフェでも実際に使ってみる」
「なるほど」
「評判が良かったものから正式に商品化する」
カマーセが頷く。
「いいな」
さらに俺は続けた。
「ブランドとしては、猫だけ、犬だけじゃなくて両方を扱う」
「人間用の商品もだな」
「ああ。猫の刺繍が入った服、犬の刺繍が入った服。ネクタイやスカーフ、バッグなんかも作る」
「貴族向けにも売れるだろうな」
「そこを狙いたい」
「ならば、贈答品にもできる」
「それもいいな」
話がどんどん広がっていく。
カマーセは犬用品について意見を出し、俺は服や小物について説明する。
お互いの得意分野が違うからこそ、話が早かった。
「オーダーメイドも面白いぞ」
俺が言う。
「自分の犬や猫をモデルにして、刺繍やブローチを作る」
「それは欲しがる者が多そうだ」
「飼い主とペットのお揃いも作る」
「私なら欲しい」
「お前は犬好きだからな」
「違う。これは事業としてだ」
「はいはい」
カマーセが少しむっとする。
「本当に事業だぞ!」
「分かったって」
俺は笑った。
「そういえば」
俺は机の上に並んだサンプルを眺めながら言った。
「ブランド名も決めないとな」
「ブランド名?」
「ああ。猫と犬の商品をまとめて売るなら、名前があったほうがいいだろ」
カマーセも腕を組んで考える。
「確かにな。何か良い名前はあるのか?」
「……そうだな」
俺は少し考えた。
「DCIFでいいんじゃないか?」
「DCIF?」
「ドッグとキャット。それからイヌールとフェルネ。それぞれの頭文字だ」
「なるほど……」
カマーセが何度か口の中で繰り返す。
「DCIF……」
「分かりやすいだろ?」
「実に分かりやすい!」
カマーセは気に入ったらしい。
「よし! 我々二領の共同事業、その名はDCIFだ!」
「そこまで大げさに言わなくてもいいだろ」
「何を言う! 名前は大事だぞ!」
「まあ、好きにしてくれ」
俺は苦笑する。
セバスチャンは少し離れたところで、そのやり取りを眺めていた。
(旦那様が、ご友人とブランド名まで……)
なんだか妙に嬉しい。
昔の旦那様からは、とても想像できなかった光景だ。
「では、DCIFの第一弾として、このサンプルから――」
カマーセが再び真剣な顔になる。
「犬用品をもっと増やそう!」
「いや、まずは猫用品もだ」
「そうだった!」
二人で商品について話し始める。
猫と犬。
人とペット。
そして、イヌールとフェルネ。
こうして――。
カマーセと俺が、真剣に事業の話をしている。
しかも、二人とも楽しそうだ。
(旦那様が……)
セバスチャンは静かに目を細める。
(こんなふうに、ご友人と仕事の話をされるようになるとは)
昔の旦那様なら考えられなかった。
人付き合いを嫌っていたわけではない。
ただ、自分から踏み込むことが少なかった。
それが今では、隣領の当主と笑いながら話している。
(奥様にも、お伝えしておきませんとな)
セバスチャンは少し嬉しくなった。
まるで我が子に初めて友達ができたのを喜ぶ親のような気持ちだった。
「セバスチャン?」
「はい、旦那様」
「どう思う?」
「大変良いお話かと存じます」
「だよな」
「はい」
セバスチャンは微笑む。
「何より、旦那様が楽しそうでございます」
「……そうか?」
「ええ」
俺は少しだけ照れた。
まあ、確かに。
カマーセとこうして話すのは、悪くない。
最初は暑苦しい奴だと思った。
でも、領地のことを真面目に考えている。
犬も本気で大切にしている。
俺の話もちゃんと聞いてくれる。
「……中々いい奴じゃん」
「何か仰いましたか?」
「いや」
俺はカマーセを見る。
「これからも付き合っていいかもな」
「もちろんだ!」
聞き逃さなかったらしい。
カマーセが満面の笑みを浮かべた。
「これからも隣領同士、仲良くやっていこうではないか!」
「ああ」
俺も頷く。
こうして俺たちは、猫と犬をきっかけに新しい共同事業を始めることになった。
服だけじゃない。
ペット用品だけでもない。
人と動物が一緒に楽しめるものを作る。
それなら、結構面白いことになりそうだ。
そして――。
俺はまだ知らない。
この共同事業が、思っていた以上に大きなブランドへ成長していくことを。




