やっぱ成功したわ つか人集まりすぎだろ
ある日のこと。
エリザベスを膝に乗せているマリアンヌを見ながら、俺はふと思った。
「……猫、増やすか?」
「え?」
マリアンヌが顔を上げる。
「エリザベスだけじゃなくてさ。領内には野良猫も結構いるんだろ?」
「そうですね。街でもよく見かけます」
「じゃあ、全部集めて保護しよう」
「全部ですか?」
「うん。で、猫カフェを開く」
マリアンヌの目が輝いた。
「猫カフェ……!」
どうやら気に入ったらしい。
俺はセバスを見る。
「領内の野良猫、集められるか?」
「可能ではございますが……」
セバスは少し考える。
「猫を保護するだけではなく、店舗まで作るのでございますね?」
「そうなるな」
「……かしこまりました」
また仕事が増えた。
そんな顔をしている。
でも、セバスは止めなかった。
数日後。
領内では、野良猫の保護が始まった。
怪我をしている猫。
子猫。
人に慣れている猫。
様々な猫が集められていく。
そして、猫たちが安心して暮らせる場所として、屋敷から少し離れた場所に店を作ることになった。
俺も設計にはかなり口を出した。
「ここ、もっと広くできないか?」
「こちらでございますか?」
「ああ。猫が走り回れるようにしたい」
「承知いたしました」
「あと、ここには棚を」
「棚でございますか?」
「いや、キャットタワーだ」
「……なるほど」
気づけば、普通の猫カフェとは思えないほど立派なものになっていた。
階段。
棚。
隠れ家。
猫用の寝床。
高いところから店内を見渡せる場所まで作った。
「旦那様……」
セバスが完成したキャットタワーを見上げる。
「はい?」
「少々、立派すぎるのでは?」
「猫が喜ぶだろ?」
「……左様でございますね」
セバスは何も言わなくなった。
たぶん諦めたのだろう。
店員には、領内で仕事を探していた若い娘たちを雇った。
猫が好きな子も多かったし、接客を覚えてもらえばいい。
「猫の世話も仕事ですから、きちんと覚えてくださいね」
「はい!」
「頑張ります!」
みんな楽しそうだった。
料理人には、俺が知っているデザートをいくつか教えた。
ロールケーキ。
シュークリーム。
マカロン。
それに紅茶。
「この領地でしか食べられないものにしたい」
そう言って、作り方を教える。
料理人たちは何度も試作し、ようやく店で出せるものに仕上げていった。
そして。
猫カフェが開店した。
「……結構、人が来るな」
初日は領民が中心だった。
猫を見て。
撫でて。
デザートを食べて。
みんな楽しそうだ。
エリザベスもマリアンヌに連れられてやって来ていた。
「エリザベス、今日はたくさん猫ちゃんがいますよ」
「にゃー」
私はマリーちゃんの腕の中。
周りを見る。
猫がいっぱい。
(……多い)
前に参加した猫会議より多い。
(ここ、便利)
近所の猫たちともすぐ会える。
私は満足した。
一方で、店の評判は少しずつ領地の外へ広がっていった。
理由は猫だけではない。
デザートだ。
「このお菓子、本当に美味しいですわ!」
「こんなもの、初めていただきました」
「また来たいですわね」
しかも、料理人たちに教えたレシピは、俺が簡単に外へ渡すつもりはなかった。
知り合いの貴族令嬢から頼まれれば、
「まあ、知り合いだし別にいいぞ」
くらいの感覚で教えることはある。
だが。
そもそも俺には、そんなにたくさん知り合いがいない。
結果として、レシピはほとんど外へ流れなかった。
他領の料理人が味を再現しようとしても、材料を調べるだけでは難しい。
生地の状態。
焼き加減。
クリームの配合。
混ぜ方。
細かいところまで、舌と経験で探っていくしかない。
「一体どうやって作っているんだ……」
そんな料理人たちの苦労など、俺は知らない。
俺はマリアンヌと一緒に猫を撫でていた。
「マリーちゃん、どの子が気に入った?」
「みんな可愛いです」
「全部は無理だぞ」
「……分かっています」
そう言いながら、マリアンヌは次の猫を撫でる。
まあ。
楽しそうだからいいか。
そして。
貴族たちも店に来るようになった。
さすがに一般席では落ち着かないだろうということで、店の奥には貴族向けのVIP席も用意した。
そこでは、令嬢たちが優雅に紅茶を飲みながら猫を膝に乗せている。
「まあ……この子、可愛いですわ」
「こちらのケーキも素晴らしいですわね」
「こんなに可愛い猫たちと過ごせるなんて……」
中には猫を気に入り、そのまま里親になる令嬢まで現れた。
「この子、うちで飼ってもよろしくて?」
「もちろんです」
そんなやり取りも増えていった。
そして、その中には見覚えのある顔もあった。
「まあ、マリアンヌ!」
「クラリッサ!」
猫好きのクラリッサだった。
「ここ、本当に素敵ですわね!」
「でしょう?」
二人は楽しそうに猫を撫でている。
俺はその様子を少し離れたところから眺めた。
「……作ってよかったな」
「はい」
マリアンヌが笑う。
その笑顔を見て、俺も満足する。
……まあ。
ここまで大きくなるとは思ってなかったけど。
そして。
店の隅ではセバスが猫を撫でていた。
「セバス?」
「はい?」
「お前、また来てるな」
「旦那様の思い付きも困ったものでございます」
そう言いながら、セバスは猫を撫で続けている。
「……気に入ったのか?」
「猫は可愛いものですから」
そう言って、セバスは次の猫に手を伸ばした。
どう見ても常連だった。
俺は苦笑する。
こうして。
領内に新しい名所が一つ増えた。
猫がいて。
美味しいデザートがあって。
貴族も領民も楽しめる。
そして猫たちは、いつの間にかそこで仲間を増やしていた。
エリザベスも、マリアンヌに連れられてよく店へ行くようになった。
以前の小規模な猫会議より、ずっと効率がいいらしい。
(猫、いっぱい)
(ここに来れば会える)
(便利)
今日もエリザベスは、マリーちゃんの膝の上で周囲を眺めていた。
その少し離れた場所では、別の猫が別の猫に近づいている。
どうやら。
猫たちの間でも、新しい出会いが始まっているらしい。
俺はそんなことを知らず、マリアンヌと一緒にデザートを食べていた。
「ルー様、このケーキ美味しいですね」
「ああ。料理人たちも上手くなったな」
「また来ましょうね」
「もちろん」
……猫カフェ。
思いつきで始めたにしては、悪くない。
むしろ。
マリアンヌがこんなに楽しそうなら、作った甲斐があった。
その頃。
エリザベスはマリーちゃんの膝の上で目を細めていた。
(……ここ、好き)
そして。
(にゃーるもあるし)
今日も平和だった。




