貴族のパーティ?めんどくせぇけど嫁自慢しよ
その日の午後。
セバスチャンが一通の招待状を持ってきた。
「旦那様、奥様宛てに貴族主催のパーティーへの招待状が届いております」
「パーティー?」
俺が顔を上げると、セバスチャンはマリアンヌへ招待状を差し出した。
「まあ……」
マリアンヌは封を開け、中身に目を通していく。
「久しぶりのパーティーですね」
そう言いながらも、以前ほど不安そうな顔はしていなかった。
以前のマリアンヌなら、貴族の集まりと聞いただけで緊張していたと思う。
夫人としてどう振る舞えばいいのか。
周囲の令嬢たちとどう話せばいいのか。
自分の服装はおかしくないか。
そんなことを色々と気にしていた。
けれど、今は違う。
マリアンヌは自分のドレスを見下ろした。
先日、二人で選んだドレス。
彼女の好きな色を使い、体型に合わせて仕立ててもらったものだ。派手すぎないのに華やかで、動きやすさもある。
さらに最近仕上がったアクセサリーを合わせれば、全体の印象は以前とはまるで違っていた。
マリアンヌは鏡の前に立ち、自分の姿を眺める。
「……似合ってるかな」
「もちろん」
俺は即答した。
「すごく似合ってる」
「本当ですか?」
「ああ。というか……」
俺は改めて彼女を見る。
「やっぱり綺麗だな」
マリアンヌの頬が少し赤くなった。
「……ありがとうございます」
それでも以前のように目を逸らすことはない。
むしろ鏡に映った自分をもう一度見て、少し嬉しそうに微笑んだ。
「ルー様と一緒に選んだドレスですから、余計に嬉しいです」
「そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ」
マリアンヌは招待状を見つめる。
「……行ってみようかな」
その言葉に、俺は少し驚いた。
「行きたいのか?」
「はい」
マリアンヌは頷く。
「昔は少し緊張していましたけど、今は……ルー様と一緒なら、楽しめそうな気がします」
その笑顔を見て、俺は思った。
だったら、行くしかないだろ。
こんなに綺麗になったマリアンヌを連れていかないなんて、もったいなさすぎる。
そもそも俺は、貴族同士の付き合いがあまり得意じゃない。
前の俺――いや、元々の僕の頃から、こういう場では少しコミュ障気味だった。
最低限の礼儀はできる。
相手の身分を考えて話すこともできる。
だが、何人もの貴族と笑顔で談笑しながら社交を続けるなんて、できれば避けたい。
「……パーティーかあ」
俺が微妙な顔をしていると、マリアンヌがこちらを見る。
「ルー様、あまり行きたくないですか?」
「まあ、正直に言えばな」
「ふふ」
マリアンヌが笑った。
「でも、私はルー様と一緒に行きたいです」
「……」
その一言で、俺の中ではもう決まった。
「よし。行こう」
「本当ですか?」
「ああ」
俺はマリアンヌを見る。
「せっかくなんだ。今日は思いっきり自慢してやろう」
「……自慢?」
「俺の嫁が一番綺麗だって」
「もう……」
マリアンヌは恥ずかしそうに笑った。
その顔を見て、俺も笑う。
ただ、一つ問題がある。
「……貴族のマナー、覚えてるかな」
俺が呟くと、頭の中から声が返ってきた。
『大丈夫だよ』
「お前か」
『うん』
最近は必要なときなら、こうして頭の中で話ができる。
とはいえ、普段から雑談されるのは困る。
マリアンヌに怪しまれるからだ。
「なあ、僕の記憶には貴族の社交についてもあるよな?」
『もちろん。小さい頃から教えられてきたからね』
「じゃあ、技能だけ俺に入れられないか?」
『技能だけ?』
「ああ。礼儀作法とか、ダンスとか、貴族同士の会話の仕方とか。そういうのが分かれば助かる」
『たぶんできると思うよ。僕たちはもう混ざってるんだから』
「……そうだな」
俺は少し考えてから、頼むことにした。
「じゃあ、お願いする」
『分かった』
その瞬間、頭の中に今まで自分では意識していなかった知識が流れ込んできた。
貴族同士の挨拶から、身分に応じた言葉遣い、会話の距離感、ダンスの基本、パーティーでの振る舞いまで、まるで以前から知っていたことを思い出すように理解できる。
「……すげぇな」
『僕にとっては普通のことだからね』
「いや、俺には普通じゃない」
『でも、今は君のものでもあるよ』
その言葉に、俺は少しだけ笑った。
確かにそうだ。
俺たちはもう別々じゃない。
僕の記憶も、俺の記憶も、全部まとめてルードリッヒのものだ。
「助かった」
『ううん。それに……』
「ん?」
『僕も楽しみなんだ』
「何が?」
『マリアンヌが、みんなの前で綺麗に着飾っているところを見るのが』
俺はマリアンヌを見る。
ちょうど彼女は、鏡の前で新しいアクセサリーを合わせていた。
「……なるほど」
それなら俺も同じだ。
せっかくここまで綺麗になったんだ。
今日は思いっきり嫁自慢をしてやろう。
「マリアンヌ」
「はい?」
「当日は俺の隣にいてくれよ」
「もちろんです」
マリアンヌは嬉しそうに頷いた。
「私も、ルー様の隣が一番落ち着きますから」




