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国なんて知ったこっちゃない、俺に大事なのは嫁だけだ  作者: 七風


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12/33

瞬殺って やべぇ執事じゃん

休日の昼。


今日は領内にある牧場へ来ていた。


きっかけは、マリアンヌが「牧場を見てみたいです」と言ったことだった。


俺としても、特に予定があるわけじゃない。だったら二人で出かけるのも悪くないと思い、セバスチャンに頼んで案内してもらうことにした。


牧場に到着すると、さっそく羊の群れが目に入った。


「羊だ……」


思わず足を止める。


「はい。こちらでは羊毛を取るほか、食用としても飼育しております」


「へえ……」


前世では珍しくもなかった光景なのかもしれないが、異世界に来てから見ると妙に感動する。


羊がいる。


牛もいる。


そして――。


「牛乳も取れるんだよな?」


「もちろんでございます」


「チーズも?」


「はい。牧場で製造しているものもございます」


「マジか」


俺のテンションが一気に上がった。


牛乳。


チーズ。


どちらも普通に存在する。


しかも牧場で作っているなら、加工次第でまだまだ色々できそうだ。


「……アイスも作れるな」


「アイス、ですか?」


マリアンヌが首を傾げる。


「牛乳と砂糖があれば、たぶん作れる」


「そんなものまで作れるのですか?」


「魔法を使えば、もっと簡単だろ」


俺はそう言って、牧場の一角で試してみることにした。


牛乳に砂糖を混ぜ、少しだけ生クリームを加える。あとは冷やせばいい。


この世界では魔法がある。


だったら、冷やすことくらいできるだろう。


魔法を使って温度を下げていくと、液体だったものが少しずつ固まっていく。


「……おお」


「まあ……!」


マリアンヌが目を輝かせる。


「できた」


匙ですくって口に入れる。


「……うまっ」


牛乳の濃厚な味と砂糖の甘さ。


それだけなのに、妙に嬉しい。


「マリアンヌも食べてみろよ」


「はい」


彼女も一口食べる。


「……美味しいです」


「だろ?」


嬉しそうに笑うマリアンヌを見て、俺も自然と笑った。


その後は、牧場の景色を眺めながら昼食を取ることにした。


持ってきたサンドイッチや果物を広げ、簡単なピクニックにする。


「こういうのもいいな」


「はい。とても楽しいです」


マリアンヌは芝生に座りながら、嬉しそうに牧場を眺めている。


普段は屋敷や街の中で過ごすことが多いから、こうして二人で外で食事をするだけでも新鮮だった。


「また来ようか」


「本当ですか?」


「もちろん。今度はアイスの味も増やそう」


「ふふ。楽しみです」


そんな話をしていた、そのときだった。


少し離れたところから、牧場の人間が慌てた声を上げた。


「魔物だ!」


「え?」


振り向く。


牧場の柵の向こうから、見慣れない獣がこちらへ向かって走ってきていた。


俺は立ち上がった。


「……魔物?」


転生してから、戦闘らしい戦闘なんて一度も経験していない。


だから、俺は完全に固まっていた。


どうする?


逃げる?


マリアンヌを連れて屋敷に戻る?


そんなことを考えている間に、セバスチャンがすっと前へ出た。


「旦那様、奥様。こちらへ」


「セバス、どうするんだ?」


「問題ございません」


そう言った次の瞬間。


セバスチャンが一歩踏み出した。


その動きが、俺には見えなかった。


気づいたときには、魔物が地面に倒れている。


「…………」


俺は絶句した。


セバスチャンは何事もなかったかのように服の乱れを整えている。


「もう大丈夫でございます」


「…………」


マリアンヌを見る。


彼女は驚いてはいるものの、そこまで動揺していない。


牧場の人たちも、


「助かりました!」


「さすがセバスチャンさん!」


と、普通に喜んでいる。


「…………いや、待て」


俺はセバスチャンを見る。


白髪混じりの髪。


整えられた髭。


いつも通りの執事服。


そして、さっき一瞬で魔物を倒した男。


「セバスチャン」


「はい、旦那様」


「……お前、何者?」


「何者、と申されましても……」


セバスチャンは少し困ったように首を傾げた。


「旦那様のお側に仕える、ただの執事でございます」


「ただの執事が、あんな動きするか!?」


思わず声が大きくなる。


セバスチャンは少しだけ笑った。


「昔から旦那様のお側におりますので、多少は腕に覚えがございます」


「多少!?」


どう考えても多少じゃない。


俺は改めてセバスチャンを見る。


転生してから、戦闘なんて一度もしていない。


だから余計に分からない。


魔物って、あんな簡単に倒せるものなのか?


「……セバス、怖くないの?」


思わず聞いてしまった。


「何がでしょうか?」


「いや、その……魔物」


「慣れておりますので」


さらっと返された。


「…………」


俺はマリアンヌの隣に座り直した。


そして、小声で彼女に聞く。


「なあ、マリアンヌ」


「はい?」


「セバスって、昔からあんな感じなのか?」


「はい。とても頼りになる方ですよ?」


「……そうか」


俺はもう一度セバスチャンを見る。


「やべぇ……」


思わず呟いた。


「うちの執事、やべぇ奴じゃん……」


「旦那様、何か仰いましたか?」


「いや、何でもない!」


セバスチャンは不思議そうな顔をしたが、すぐにいつもの穏やかな表情へ戻った。


その後、何事もなかったかのようにピクニックは再開された。


マリアンヌは残ったアイスを美味しそうに食べている。


俺も食べる。


「……うまい」


牧場で飲む牛乳。


出来たてのチーズ。


そして魔法で作ったアイス。


最高だ。


ただ一つだけ、今日新しく分かったことがある。


俺の執事――セバスチャン。


あいつ、たぶん俺が思っていたよりずっと強い。


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