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第232話 有志貴族連合 上

 翌日。


 朝食をとったあとしばらくした頃、アリスが迎えに来た。


 執事頭のフレッド氏の先導で別邸の玄関まで出てみれば、御者が2人、4頭立ての豪華な馬車がロータリーに横づけされていた。


 客車はかなり大きく、豪華だ。


 おそらく8人掛けだろう。


「やあ兄さま、カミラ殿、おはよう。いい朝だね」


「おはよう、アリス。……ずいぶんと立派な馬車だな?」


「兄さまたちを迎えきたのだから当然さ。……というのは本音で、建前は『他の貴族たちと相乗りになるから』だよ」


「それ、本音と建前が逆じゃないのか……?」


 ときどきアリスは冗談とも本音ともつかないことを言う。


 こういう時の彼女は、少し緊張している。


 剣を初めて握ったころからの付き合いだから、なんとなく分かるのだ。


 それにしても、昔ならともかく今の彼女でも緊張する場面があるらしい。


 まさか俺たちを迎えに来ることでカチコチになるとも思えないので、これから始まる『有志連合会議』のホストとしての重責からだろう。


 何しろこの貴族有志の寄合はアリスが発起人だそうだからな。



 まあ、この場で指摘するわけにはいかないので、それとなく目配せをして『大丈夫か』と聞いてみる。


 アリスはなぜか頬を染めつつウィンクを返してきたので、俺の意図が正確に伝わったかどうかについては疑義が残る反応である。


 もっともその後は少しばかり動きが自然になったので、緊張は解けたようではあるが。


 代わりにカミラの目つきが鋭くなった気がするが……これは必要な代償……だと思う。



 客車に乗り込んで最初に目についたのは、部屋の真ん中に鎮座する(オーク)製の重厚なテーブルと椅子だ。


 しっかり磨き抜かれた褐色の天板には、黒革製の敷物がそれぞれの席に整然と並べられている。


 さらには筆記用具や書類なども整えられ、壁面には棚も設置されている。


 客車の内部は完全に会議室として改装されていた。


 もちろん壁面にもしっかりと壁紙が貼られ、採光用の窓も広く取られており、内部は開放感のある空間だ。


 おまけに馬車の後方にはトイレすら設置されているようだ。


 さすがに寝室やキッチンまではなさそうだが、丸一日くらいなら、馬車内でも快適に過ごせるように造られているらしい。



 そして……アリスの馬車に相応しく、随所に結界魔術と思しき仕掛けが施されているのが分かった。


 空調系の魔術に防音魔術。耐衝撃系の防護魔術は道中の振動を抑えるとともに、万が一外部からの攻撃があった場合の備えだろうか。


 これから行われる『会議』の重要さがうかがい知れる。



 俺たちが席につくと、すぐに馬車が動き出した。


 揺れはほとんど感じない。


 窓から見える景色が動き出したので、どうやら出発したのだと分かったくらいだ。


 おそらくは慣性も緩和してあるらしい。


 相当に高度な魔導技術が使われている。


「ふふ……驚いたかい? この馬車に施された魔術系統は、魔術師ギルドのマスター謹製なんだよ。今回、彼女はいろいろな事情から僕たちの支援だけだけどね」


「そういえば、アリスはマーリンさんとも知り合いだったか」


「ふぅん……あの気難しい女狐がねぇ」


 カミラが改めて客車の内部を眺めまわし、唸った。


 彼女の性格のことはよく知らないが、アリスの馬車を仕立てるということは、彼女も『穏健派』ということなのだろう。


 もっともアリスの口ぶりからするとマリーン女史はあくまで後方支援だけのようであるが。


「さて、兄さまもカミラ殿もすでに気づいていると思うけど、今日の顔合わせや会議はこの馬車の中で行うことになるよ。これから屋敷街を巡って有志の皆を拾っていくから、しばらくの間寛いでほしい」


 そういえば、馬車で迎えにくるとは聞いていたが行き先を聞いていなかった。


 おそらく事前情報が洩れることを防止する名目だったのだろうが……馬車内ですべてを完結させるつもりだったとはな。


「ああ、そうさせてもらうよ」


 もっとも、どこで顔合わせをするかを決めるのはアリスだ。


 俺としてはどこでも構わない。



 しばらくの間、馬車は王都内を滑るように進んでゆき……上屋敷街にある、とある邸宅の前で停車した。


 乗り込んできたのは、アソ氏とドウジ氏だった。


 二人は王国貴族ではないものの、祖国では王族のような立場だったな、と思い出す。


「アソさん、ドウジさん、久しぶりだな。『(ナギ)』の調子はどうだ?」


「お久しぶりです、ブラッド殿、カミラ殿。ナギはこの通り、私に力を貸してくれておりますよ」


 アソ氏が微笑を湛えながら、腰に帯びた小さな曲刀――『凪』にそっと手を触れる。


 ちなみにドウジ氏は『凪』の5、6倍は長さのある『大太刀』を背負っている。


 二人が武装しているのは、今回の『会議』はアリスの主催らしく、武器の所持が条件となっているからだ。


 もちろん俺もセパとレインを装備済みだ。


 カミラは……魔導鞄(マジック・バッグ)の中にいつも使っている魔術杖が入っているんだったかな。


『ブラッド殿、お久しゅうございまする』


 アソ氏が俺にお辞儀をした直後、彼女の右肩に『ナギ』が座したままの状態で実体化し、俺に向けた深く頭を下げてきた。


 セパやレインと違ってとてもよくできた人造精霊である。


「ナギも久しぶりだな。これからもアソさんをよろしく頼むぞ」


『はっ。いざとなれば、我が身命を賭してでも』


「うふふ、ナギったら……いつもそこまで畏まらなくて良いと言っているのに」


 アソ氏もナギの生真面目さをおかしく思っているのか、クスクスと笑みをこぼしている。


 会話の内容はさておき、二人の距離感を見るにどうやらうまくやっていけているようだ。


 その事実に内心ホッと胸をなでおろす。


「それにしても、アリス殿がおっしゃっていた新しい参加者はお二方のことだったのだな」


 俺とアソ氏の会話に参加してきたのはドウジ氏だ。


 どうやら二人は俺たちが参加することは知らされていなかったらしい。


 まあ、俺もアソ氏とドウジ氏が参加することは知らされていなかったから、お互い様だが。


「俺たちもアリスから頼まれてな。微力ながら協力させてもらう」


「とんでもない、お二人も参加するのなら、これほど心強いことはない。どうかよろしく頼む」


 ドウジ氏が嬉しそうにそう言って、俺の手を強く握りしめた。



 その後はさらに上屋敷街、下屋敷街など邸宅を巡り、二人の貴族らしき男女が乗り込んできた。


 どちらも知らない顔だ。



 男性は三十代半ばと思しき、武人然とした人物。


 聞けば王国軍の将校だそうで、名前はイロイ・フォン・ブイヨン男爵と名乗った。


 主な任務は後方支援関連(正確な所属はぼやかしていた)とのことだったので、おそらくは魔術工兵などに関わりのある御仁なのだろう。


 腰には王国兵正式装備のサーベルを帯びている。


 女性は豪華なドレスに身を包んだ二十代後半と思しき夫人だ。


 名前はエメラダ・フォン・カリシュ。称号は子爵。王都魔道具師ギルドの幹部だそうだ。


 ちなみに既婚であり、彼女はカリシュ家に嫁いだ元商家の娘とのことだった。


 彼女は目立った武装をしていなかったが、代わりに両手の指にはいくつもの指輪をはめていた。


 エメラダ氏は魔道具師だ。つまり、あれらが武装なのだろう。



 ちなみにイロイ氏の方はどうやら俺を知っているらしく『噂はかねがね』と言っていたが、まったく心当たりがなかった。


 顧客としても顔を合わせた記憶がないから、おそらくはアリスからいろいろ尾ひれのついた話を聞いていたクチだろう。



 一方エメラダ氏は独特の妖艶な雰囲気を醸し出しているご婦人で、俺やアソ氏、ドウジ氏らを値踏みするような目つきで見てきたが、なぜかカミラを前にすると顔を真っ赤にして十代の少女のように握手をせがんでいた。


 カミラも困惑していたが、どうやら彼女は彼女で王都でも結構な有名人らしい。


 まあ、魔道具師としての腕は一流だからな。



「さて、これで全員そろったね。早速だけど、これから始まる会議に関する一切の件は口外無用で頼むよ。最近は()の組織もずいぶんと色々な場所に根を伸ばしていてね」


「当然だ。王国軍も連中には手を焼いていてな。このような場を設けて頂いたアステル殿……いや、この場ではアリス殿とお呼びすべきか。とにかく、貴殿には感謝している」


「ふふ……私どものギルドからも行方不明者が多数出ておりますわ。名前を出すのも汚らわしい彼の組織は、完膚なきまでに叩き潰して差し上げましょう」


 どうやら二人ともやる気は十分のようだ。


 まあ、アリスと志を同じくする連中が腑抜けのわけがないが。

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