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第231話 別邸にて

 彼女は自ら俺たちを食堂まで案内し、皆が席に着くと同時に話題を切り出した。


「……やあ兄さま、カミラ殿。今日は大変だったみたいだね」


「その口ぶりだと、いろいろ聞いてみるみたいだな」


「……けれども、あまりいい報告でもなさそうだね?」


 カミラがアリスにそう問いかける。


 俺はあえて訊ねなかったが、アリスは珍しく深刻そうな表情をしている。


 別邸に持ってきたのはどうやらいいニュースではないらしい。


 同席してるセパとレインも、彼女のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか神妙な様子だ。


 もっとも二人とも、料理が運ばれてきた瞬間に顔は神妙なままパクパク料理を口に詰め込んでいたが。



 一方アリスは料理には手を付けず、『アレイスターから情報共有の許可は得ている』と断りを入れたうえで、さらに続ける。


「実はね、兄さま。兄さまにとって、もしかすると少しばかり残念な報告になるかもしれないんだ」


「とりあえず聞かなければ評価もしようがない。……とにかく、話してくれ」


「……そうだね」


 アリスは苦笑してから、意を決したように頷いた。


「実は、兄さまの古巣の主……ザルツ・フォン・ゲスティブルグ男爵が組織の幹部に収まっているらしいという情報が、今回兄さまたちが捕縛した男から判明したんだ」


「あいつ……何やってんだ」


 さすがにその報告には頭を抱えざるを得なかった。


 食事に手を付ける前に聞いてよかった。


 そうでなければ口に含んだものを勢いよく噴き出していたところだ。



 聖剣工房が潰れてしまっていたのはまあ、当然といえなくもない。


 ヤツの放蕩経営ではゆくゆく立ち行かなくなることは、なんとなく予想していたしな。


 だが、ザルツの野郎は腐っても貴族だろうに。


 しかも元役人だ。


 そんな恵まれた立場だったヤツが、なんでまたテロ組織のような集団に取り込まれてしまったのか。


 正直、もうヤツに思うところはないが、いくらなんでも落ちぶれすぎだろ……


「それで……ザルツは今、何をやっているんだ」


「彼の工房が潰れたうえ、聖剣ギルドから追放されたのはすでに兄さまも聞いているよね。その後彼は反王国派の魔族が率いる組織に聖剣錬成のノウハウを流出させ、魔剣錬成に転用する手助けをしたらしいんだ」


「なんということを……」


 隣のカミラが飲みかけたワインをテーブルに置き、ドン引きした声を漏らした。


 彼女もテーブルのワインを口に含む寸前で助かったようだ。


「もちろん、組織に取り込まれたのは彼だけじゃないよ。何人もの貴族の子弟や冒険者に傭兵、それに腕の立つ武器職人や魔道具師が何人も行方不明になっている。今回捕縛した『ルドラ』を始め、王国軍を除隊した者たちも数十人単位で参加しているとの情報もある。相手は狡猾で、かなり大規模な組織だよ」


「……ザルツは職人ではないが、聖剣ギルドのギルド長を務めていたこともあった。聖剣錬成の技術はともかく、工房運営のノウハウもそれなりに持っているはずだ。以前は徴税役人も務めていたから、犯罪組織が喉から手が出るほど欲しい情報をたんまり持っている。もしかしたら、かなり前から目を付けられていたのかもしれんな」


「さすが兄さまは慧眼だね。彼のことを少し調べたら、周辺をうろついていた(・・・・・・・)怪しい人物が何人も出てきたよ。もちろん反王国派魔族の息のかかった連中だ」


 アリスが頷く。


 つまるところ今の状況は、おそらくその情報が『分かる奴』に渡ってしまった……ということだろう。


 もちろん、ザルツ一人が聖剣の錬成ノウハウを組織に提供したところでせいぜい普通の魔剣ができるだけだ。


 だが奴のもたらした情報をもとに、組織に取り込まれた魔道具師や武器職人たちが本気で研究を重ねれば……


 実際、魔剣を持った輩が王国内のあちこちでやらかしている。


 まったくとんでもないことをしでかしてくれたものだ。


「……もちろん魔族を敵視する者ばかりじゃない。僕もその中の一人だしね。けれどもそれは、将来的に王国のためになると信じてのことだ。一方で、彼の所業は……悪い連中に(たぶらか)かされたとしても、許されざる行為だ」


 さしものアリスも、ほとほと困った様子で言葉を絞り出している。


「というか国家反逆罪ものだろ、それ……」


「君の元上司はまったく何をやっているんだか……」


 放蕩経営とはレベルの違うやらかしに、さすがのカミラもあきれ果てた様子でそう呟いた。


「この一件が徐々に明るみになるにつれ、王国貴族の中でも僕たち穏健派と魔族排斥派の溝が深くなってきている。今はまだ穏健派が優位だけど、もし王都で大規模なテロや武装蜂起があれば……王国貴族だけでなく、国全体が排斥派に傾いてしまう」


 アリスは眉根を寄せながら首を振り、さらに続ける。


「そうなれば、また時代が逆戻りだ。ふたたび大きな戦争が起きるかどうかは分からないけれども、少なくとも国王陛下や魔界諸国を統治する魔王たち、それに僕たちが苦労して築いてきた平和は水泡に帰してしまうだろうね。もっとも、連中はそれこそが望みなのだろうけど」


「…………それは困るな」


 聖剣錬成師をやっている以上、聖剣が武器であることは誰よりも自覚している。


 運用次第では、戦争でも大きく役に立つはずだ。


 とくに儀礼用の聖剣ではなく武器としての実用性を追い求めた俺だからこそ、そう断言できる。


 だが今は、魔物を狩るための振るうのならともかく魔族を斬るために運用されるのは御免被る。


 感傷的な問題もないこともないが……今や魔族も俺の顧客なのだ。


 もちろん、双方に武器を売るのは武器職人として当然の論理である。


 だが互いが殺し合えば、将来の客が減るのもまた道理だ。


 今の俺は……仕事は順調だとはいえ、工房主としてはまだまだ駆け出しだ。


 そんな中で、見込み客がどんどん減るような世の中は困る。


 

「……そこで、兄さまとカミラ殿にお願いがあるんだけど」


 アリスは言いづらそうにそう切り出してきた。


 何をお願いしたいのかは分かっている。


「すでにアレイスター氏から打診が行っていると思う。兄さまとカミラ殿には、僕たち貴族有志と行動を共にして欲しいんだ。……いいかな?」


「もちろんだ」


 俺は即答した。


 他でもない妹分の頼みだ。断るはずもない。


 それに聖剣の技術が魔剣に転用されているのはうすうす察していたが、そうであるならばいろいろと対策のしようがあるからな。


 俺やカミラからアドバイスできることもあるだろう。


 それにザルツについては……正直関わりたくないが、元身内の恥とも言えなくもない。


 後顧の憂いを断つためにも、しっかり引導を渡してやる必要があるだろう。

 

「もちろん私も構わないよ」


 すぐにカミラもアリスに向かって頷く。


 そんな俺たちを見て、アリスはホッとしたように顔をほころばせた。


「ありがとう、兄さま、カミラ殿。二人がいてくれれば百人力……いや、一騎当千が二人だから、二千人力かな」


「一騎当千どころか、カミラが本気を出せば一個大隊くらいは殲滅できそうだけどな」


「私を戦術兵器扱いするのはやめてくれないかな?」


 心外そうな顔でカミラが抗議してくるが、土の精霊に働きかけて建物を倒壊させている時点で兵器並みの戦力だろ。


 それを言えば、俺も準備が大変だが聖剣錬成陣を用いた大量の聖剣錬成による広範囲制圧もできなくはないが……多分カミラほどではないだろう。多分。


「ははは……二人とも頼もしい限りだよ。さあ、食事が冷める前に食べてしまおう」

 

「そうだな。おっ、この肉美味いな」


 何となく話も落ち着くべきところに落ち着いたので、俺はまず目の前の料理を片付けることにした。


 今日のメニューはローストビーフが中心か。


 ステーキかと思うくらい分厚く切り分けられた肉は、しかし噛みしめるとしっとりと柔らかく、噛めば噛むほど肉汁が口の中に溢れ出てくる。


「おいブラッド、ローストビーフの前に私の評価を訂正する方が先じゃないかな!?」


「分かってる分かってるって。カミラ、お前は王国一の精霊魔術師だ」


「その適当な返事は絶対に分かっていない方の奴だろう!?」


「まあまあ二人とも。僕からすれば二人とも十分兵器級だと思うよ」


「それを言えばアリス、お前は王国最高戦力の一角だろ……」


 ちなみに彼女の『(とき)斬り』は俺の錬成した聖剣の中でも反則級の性能なわけで、アリスの身体能力と剣技が合わさり戦場ではおそらく向かうところ敵無しとなるはずだ。


 正直、彼女のもとで行動を共にするならば俺たちの出番なんてない気がするのだが……


 それは言わぬが花だろう。

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