第三十五話 美智瑠と沢城、ときどき夏菜と。
夏菜とデートをしてからだいぶ気が楽になった俺は、この日は久しぶりに寝付けた。
約2ヶ月ぶりのこの感覚、顔色も不思議と明るかった。
まあ、鏡越しだから実際にはわからねえけど。
この日はデートの予定は無いので、意気揚々とバイトに集中できるのである。
「おー、沢城くん。今日は顔色良いねえ!」
……桐ヶ谷さんはなんでいっつも、こういうテンションで俺に絡むのだろうか。
まあ、悪い気はしねえけど。
「……お陰様で。」
悪い先輩じゃないし、むしろなんで俺なんかにこう絡むのかは別として、とりあえず俺は社交辞令だけは言っておく。
「なーんか、良いことあった雰囲気してるけど……何があったんだい?」
「まあ……夏菜に励まされてね……ちょっと気が楽になったんすよ。」
「ほえー、夏菜が、か。珍しいことがあるもんだねぇ!」
こうやって喋りながら作業をする時でも桐ヶ谷さんはマジで作業が早い。
俺も半年は経ったけど、まだ桐ヶ谷さんのレベルには遠く及ばない。
……何故か今月からレジを任されるようになったし……。
店長にはアレだけイヤだと言ったのに、桐ヶ谷さんが付きっきりで作業をするから、まだなんとかは熟せてはいるけれども。
「……夏菜はさ、大人しいけど、本当に優しい子なんだよ。それでいて明るくも振る舞えるし、ね。でも自己主張が苦手な子だったから……それこそ意外だな、って思ったよ。それが君のためになったって言うならさ、夏菜も成長したなー……って、私はそう思う。」
「……俺もまさかね……相談に乗るなんてアイツに言われるとは思ってなかったんで……本当に、いい彼女を持ったな、って思いますよ。」
「アッハハハハ!! 凄い関係になっちゃったね!! もう私じゃ、君には手が届かないなぁ!」
……わざとらしい、白々しい感じだけど、俺に好意を持ってくれているということだけは分かる。
「……ところで桐ヶ谷さん……受験生っすよね?」
「うん、そうだよ?」
「……どこ受験るんすか?」
「北大だよ、北大。法学部に行きたいからね。……司法書士、なりたいから。」
「……いや、北大だったら尚更勉強しないとダメじゃねーんすか?? あそこ頭いい国立だし……」
「それがね、不思議なことにさ……私は追い込んだら成績が落ちちゃうタイプでさ? こうやってバイトで息抜きしてるのさ。だからバイトから帰ったらちょくちょくやっている。」
「……それで成績が取れるのが羨ましいっすよ……新陽は勉強簡単なんで、アレっすけどね……」
「オンとオフがしっかりすればいいからね。私は質タイプみたいだし、特にね。」
なるほど、テスト勉強とか受験勉強にも色んなタイプがあるんだな、と俺は感じた。
俺なんて典型的な追い込み型だから参考になる。
まあ、そんなこんなで話もはずんで時間も流れていくのだが……ここで意外な奴が。
「あれ? かっちゃん?? ここでバイトしてたんだ!」
「お、オイ……なんで夏菜がここにいんだよ……」
まさか夏菜がウチの店に来るなんて予想だにしていなかったので、俺は内心動揺していた。
スーパーのポロシャツの上に紅いエプロンの姿なんて初めて見られたから。
「お母さんに買い物頼まれちゃってさ? それで来てたんだよ?」
「買い物か……まあ、いいけどよ、あんまり言うなよ? 渡辺とかには。」
「分かってるって〜……って、ああ、それとさ。みっちゃんとどういう関係??」
「み、みっちゃん??? って、桐ヶ谷さんのことか!?」
「そそ。幼馴染なの、昔からの。」
「……まあ、いい先輩だよ。誰にでも分け隔てのねえ人だから……俺も色々頼ってる。」
「ふ〜〜……ん?? 妬いちゃうなあ……?」
「バカヤロウ、そういう関係じゃねえよ、あの人とは。とにかく、俺は仕事あるからお前も買い物済ませちまえよ?」
俺は作業に戻っていった。
桐ヶ谷さんとは今のままでいい、今の感じで俺が万が一浮気しないように細心の注意を払わないと……と、俺は今一度、自分を戒めたのだった。
次回は学校パート。




