第二十三話 ロミオとジュリエット(後編)
僕的には、シェイクスピア以上の天才悲劇脚本家は居ないと思う。
それくらい演劇の一時代を築いた人であって、自身も何度も災難に見舞わされているからこその、作品一個一個の重さが染み渡りますね。
時代の荒さを捉えているからこそ、ああいった作品を生み出すことが出来るんだろうなと実感しますね。
演劇の後半戦です。
その後で演劇後の事後を描きます。
ロミオとジュリエットは、無事婚姻を結び、幸せな未来が待っている_______
と誰もが思った。
それを快く思っていなかったのが、ティボルトだった。
実はティボルトは、ジュリエットに片思いをしていた。
ティボルトは、ベンヴォーリオに問い詰め、それをマキューシオがベンヴォーリオを庇ってティボルトに殺された事が、2人の最悪の事態の始まりであった。
ロミオはこれを知り、激怒した。
ティボルトとの決闘を申し込み、ティボルトを殺してしまった。(勿論これは演劇の中で、です。)
これを知ったエスカラスは、というと……
「ロミオ……これ以上両家に禍根を残してはならん。依ってお前を追放する。」
「……………」
ロミオは何も言わずに一礼した。
そしてその場を去って行った。
ロミオの追放=ジュリエットとの婚約解消を意味していた。
家に戻されたジュリエットは酷く荒れていた。
ロミオが国を出て行くなら私も一緒に行く、といって聞かないのだ。
「落ち着いてください、お嬢様!! ロミオ様は必ずお嬢様を迎えに上がられるかと存じます!! それまで御我慢を!!」
「イヤよ!! ロミオに会わせてちょうだい!! そうでなければ私は……私は…………!!!」
パリス伯爵との結婚を嫌がるジュリエット。
それを宥める乳母の図式となっていたキャピュレット家なのであった……。
それにしても、俺はあんな和吹の声は初めて聴いた。
あんなに甲高く叫べるんだ、と。
一方、ロミオは。
ロレンス神父(俺)の教会にいた。
礼拝堂の椅子に座り、酷く落ち込んでいた。
親友のマキューシオをティボルトに殺されたとはいえ、義憤に駆られてティボルトを自らが殺めてしまったのだから。
「……ロミオ殿、大公様からの御達しだ。……追放以上の刑は与えないそうだ。」
ロレンスは、ロミオにそう声を掛ける。
「そう……ですか……」
ロミオの声は窶れている。
まあ、俺がそう演技させたんだけど、期間内全てを掛けて。
「ロミオ殿……どうする気だ。このままウジウジしていても……何も始まらない。黙ってそこにおる気か?」
「……そういうわけには参りませんが……ただ……行くアテもございませんので……」
と、そこに、入り口のドアを強くノックする音が聞こえてきた。
「入りなさい!」
ドアを開かれると、乳母がいた。
ロミオの様子を見にきたのだという。
「ああ……なんと……お嬢様と同じではありませぬか……酷く窶れてしまって……」
「婆やさん……落ち込むのも無理はないだろう……俺は……愛する女性を……自らの手で放棄してしまったのだぞ……俺のせいで……」
ロミオの目には涙が。
これも俺が死ぬ気で仕込んだ演技だ。
「お嬢様は……ジュリエット様は、貴方様が迎えに来られる事を待っています、待っておられるのですが……」
「パリス伯爵との婚約が間近に迫っている、と……」
「その通りでございます……! ロレンス神父、なんとかなりませぬか!? お二人の、幸せな未来のために、どうにか!!」
ロレンス神父はアゴに手を当てて、暫し考える。
演じているのは俺なんだけど、まあクセでよく、アゴの下を触っているので手慣れたものだ。
「ロミオ殿、心配なさるな。婆様も、だ。私に作戦がある。まずロミオ殿は……マントヴァに逃げてくれ。私の部下に屋敷を用意してもらうが故。いずれ遣いを出す予定でいる。婆様、貴女には……明日、ジュリエット様をここに連れてきて欲しい。」
「……分かりました。神父様、ジュリエットが来る、というだけでも……それだけでも気持ちの保ちようが違います。ありがとう、私は先へマントヴァへと行って参ります。」
「私からも……お嬢様にお伝えしておきます。」
ロミオはマントヴァへ、乳母はジュリエットの部屋へと戻っていった。
キャピュレット家では。
ジュリエットに婚姻を申し込んでいたパリス伯爵が訪れていた。
キャピュレット家当主と夫人がパリス伯爵と会話をしている。
乳母はそれを他所に、ジュリエットの部屋へと駆けて行った。
「……お帰り、ばあや。」
ジュリエットは生気のない顔で話しかける。
「お嬢様……パリス伯爵は何と?」
「……明日彼と婚姻を契るとのことよ。……ねえ、ばあや……私、この運命を……受け入れるしかないのかな……?」
いつもは勝気なジュリエットが弱気になっている。
それくらい、追い詰められていたのだった。
「お嬢様、まだ諦めてはなりません、ロレンス神父がおります!!」
「ロレンス様が……?」
「2人きりになって、お会いするのです!」
「は……はあ……。」
「ささ、行きましょう、ジュリエット様!」
と、いうことで、下に降りたジュリエット。
パリス伯爵と会ってしまった。
「おお、ジュリエット……私の妻よ、なんと美しい……この美しさが私のものになると考えるだけでも昂ってくるッ………!!」
……まあ、友川にこういう風に仕込ませたのも俺なんだが、正直言って我ながら腹が立つ。
何せ最後に語尾を上げて言わせるので、ウザさが満載なキャラに仕上げたのだから。
「……お父様、お母様……私は……パリス伯爵との婚姻をお受けいたします……ですがその前に……ロレンス神父の元を訪れてもよろしいでしょうか……」
「ああ。構わん。私の妻となるのであれば、何でも良い。」
「では、これにて。」
ジュリエットは足早に教会へと走って行った。
「ジュリエット様、お待ちしておりました。ですが、想定より早かったようで……」
俺は驚いた表情で、和吹演じるジュリエットの方を見た。
「……パリス伯爵と明日……婚姻を結ぶことになりまして……その前に、ばあやからロレンス神父の元を訪れるように、と……」
「左様で御座いますか。では、とっておきの策を……授けましょう。」
「ハイ……」
そうして神父は、液体の入った瓶を手渡す。
「この薬は仮死薬となっております。効力は42時間。その間は……呼吸も心臓も全てが止まり、体温も冷たくなります。無論、意識も、です。」
「よ……42時間も死ぬのですか……!? でもその後は……」
「ロミオ殿を私の遣いが呼んで、丁度42時間後に到着する仕組みになっております。そしてジュリエットは死んだ、そう思わせておいて、2人で駆け落ちするのです。」
「いい案ね……分かったわ。やりましょう! ロミオの為にも!!」
和吹はロレンスの方を見ながら左手をグッと握りしめ、屋敷に戻って行った。
そして作戦決行当日。
ジュリエットはパリス伯爵が入ってくる30分前に、ロレンスからもらった薬をグイッと飲み干した。(ちなみに中身はただの水道水。演技なので。)
一瞬の内に呼吸が止まり、ジュリエットはベッドに倒れ伏せた。
パリス伯爵は、ジュリエットの冷たくなった体温を見て青ざめた。
「大変だーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
従者たちがこぞって駆けつけると、ジュリエットは息を眠るように引き取っていたのだった。
ここまでで、仮死から約30分。
まだ41時間半もある。
その間、ジュリエットの遺体は棺に入れられて、霊廟に置かれたのだった。
だが、この41時間半が誤算だった。
最悪の悲劇を招いたのだから。
ロミオの従者、バルサザーが、マントヴァにいるロミオの元を訪れた。
それも、ロレンスの従者よりも早く、迅速に。
「ロミオ様!!! ご報告があります!!!!」
青ざめた顔をして、雨が降り頻る中、ロミオに跪いたバルサザーが報告した。
「……バルサザー……どうした?」
「ジュリエット様が……亡くなられました!! 服毒自殺とのことです!!」
「なん………だと…………!?」
ロミオは絶望した。
ジュリエットが死んだという事実に。
ジュリエットが仮死してから、5時間しか経過していない。
その謎は明白だった。
モンタギュー家がキャピュレット家に内通者を忍び込ませていたが故、ロレンスの従者が到着するよりも早く来てしまったのが答えだった。
「ジュリエットは……?」
「教会の霊廟に収められているとのことで……」
「……すぐ向かう。馬を出せ……」
「ハッ。」
ロミオとバルサザーは、道中で薬屋と工具屋に立ち寄り、ジュリエットが眠る霊廟へと向かって行ったのだった。
ロミオが予定よりも早く、霊廟に現れたということは、ロレンスの元にも伝わった。
これを聴いた瞬間、ロレンスの身の毛がよだった。
「……分かった。すぐに向かう。」
ロレンスも霊廟へと向かって行った。
「ジュリエット……ジュリエットォォォォォォォォ!!!!!」
ロミオはハンマーとツルハシを使って、ジュリエットの入っている棺をこじ開けた。
そこには、まるで寝ているかのような顔で横たわっているジュリエットの姿が。
「あ……ああ…………どうして………こんな……こと………に………」
この様子を見ていたパリスがロミオの前に現れた。
「貴様……私の妻の墓を荒らすとは……身の程知らずの罰当たりめ……」
剣を抜いている。
が、ロミオはもう、目が据わっていた。
そばにいるバルサザーに、直筆の手紙を渡した。
「……これを父上に……」
「……ハッ………」
バルサザーは退場して行った。
ロミオも剣を抜く。
「ジュリエットは……俺の女だ……テメエ如きに……汚させてなるものか……!!」
その表情は、怒りというよりも悲しみに近かった。
「追放された犯罪者風情が……ジュリエットを語るな!!」
そこから決闘になった。
お互いの剣がぶつかり合う。
本格的な殺陣に、会場全体が息を呑む。
暫く鍔迫り合いが続いた後、お互いに咆哮を挙げる。
「「ああああああああああああ!!!!!」」
お互いの剣が、身体を貫いた。
だが、先に沈んだのはパリスだった。
剣をロミオが引き抜くと、パリスはうつ伏せに倒れて息絶えた。(勿論これも演技)
「……ジュリエット……俺は……君がいない世界なんて……生きている意味がない……」
ロミオは買った毒薬を服用した。
ロミオは悶え苦しむ。
数秒後、ロミオは床に倒れ、息を引き取ったのだった。
10時間後、ロレンスが到着した。
「これは一体……」
ロレンスが見た光景は、ジュリエットの棺の前で倒れ伏せているパリスとロミオの姿だった。
しかも2人とも既に息はない。
「なんということだ……バルサザーの従者が私の従者よりも先に着いていたことは知っていたのだが……」
と、ここで、ジュリエットが目を覚ました。
そして見てしまった。
最悪の光景を。
「ろ……ロミオ……? ロミオ!? しっかりして、ロミオ……!!」
ロレンスはガックリと膝を突いている。
「ねえ……! 神父様……!! どういうことなの……!?」
ジュリエットは涙ながらに詰め寄る。
「申し訳……ございません!!! 私めの手違いで………!!! バルサザー様の従者の方が先に……到着していた模様でございまして……!!!」
俺は迫真の演技で土下座をジュリエット(和吹)に繰り返す。
と、ここで騒ぎを聞きつけた群衆が来る。
「……!! 人が来てしまうわ……!! ロレンス神父、先に行って……!」
「……承知、致しました……」
ロレンスは霊廟を立ち去った。
1人残されたジュリエットは、ロミオの剣を拾い上げた。
「ロミオ……私も死んで……貴方と一つになるわ……」
涙声でロミオの遺骸に問いかけるジュリエット。
そして。
自身の心臓に剣を突き立て、本当の意味でジュリエットは息絶えたのだった……。
悲恋を連想させる音楽と共に、俺のナレーションが入る。
《人というのは失敗を犯すもの、間違いをする生き物であり……全てが正しい、なんていうものなんてない……あの後薬屋は、毒薬を売った罪で死刑となり、モンタギュー家とキャピュレット家との争いは、これを境に起こらなくなった。起こってしまった事象に「たられば」は通じない。それは今を生きる……私たちにもあるのではないだろうか。何度でも言おう。人というのは失敗をする生き物なのだから。》
俺のナレーションを終えると、演劇も同時に終了した。
会場中から盛大な拍手が送られた。
俺は舞台裏で、その量を聞いて手応えを感じたのだった。
演劇終了後、教室に戻った俺たちは。
俺に至っては疲れて倒れ伏せていた。
何せこれを成功させる為に寝る間を3時間も削ってまでして準備してきたのだ。
疲労が一気に吹き出したのだった。
みんなから労われる中、褒められる中、俺はある事を決意していた。
明日、文化祭2日目で、和吹夏菜に自分の「好きだ」という想いを伝える事を。
演劇の題材を「なろう」でオリジナルにするのは、想像以上に大変でしたwww
……まあ、本当に中盤に差し掛かった辺りなので、今後も完結に向けて頑張りたいと思います。
次回、2日目です。
お楽しみに。




