第二十話 主役の重圧、だがそれがどうした
この回は沢城と夏菜の特訓回。
と、いうわけで俺と和吹は校庭へ出て、特訓することになったのだが、本人の性格的にもダメ出しをすれば余計萎縮してしまう部分はあるので、気は遣う。
だからこそ美空のアドバイスが役に立ったりするのかもしれない、と踏む。
「あのさ、これから特訓していくわけだけど……」
「うん……」
「……そこまでさ、怖がるこたあ、ねえんでねえの? 去年は去年、今年は今年だべや。気にしてたらラチ開かねえべよ。」
「……それはわかってる、わかってるんだけど……」
口を噤む和吹。
理由はなんとなくだがわかる。
「……主役ってなっちゃうとやっぱ怖いな……って……。ジュリエットに選んでくれたのは嬉しい、それは本音だよ? でもやっぱり去年のことがあるから……失敗して、責められて、孤立して………っていうのが……プレッシャーになってるの……」
なんとなくだが、和吹の本音は透けて見えた。
「……もう孤立したく無い、って感じか?」
「うん……だから余計怖い……今年の方が。」
俺はこういう捻くれた奴だし、孤立することには耐性は付いているのだが、和吹の心情を考えたら如何ともしれない。
だからこそ、俺は和吹にこんな言葉を掛けた。
「……別にさ、失敗してもいいんじゃねえの? たかが文化祭で。」
「で、でも……!!」
「もし失敗しても俺がいる。お前をもう……孤立して、ウジウジしてる和吹をもう、俺は見たくない。……俺と格ゲー仲間になってから、お前は変わったと思う。だから……俺はお前から離れたりなんかしねえ、むしろ和吹の失敗は俺が全責任を負ってやる。主役にお前を選んだのは俺だからな。……朗らかで人当たりが良かった去年までのお前の笑ってる顔が見たいんだ、俺は。」
俺は誠意を見せるしかなかった。
口先だけでなく、和吹本人と向き合うことで。
主役の重圧? それがどうした、前を見ろ、俺がいる、……って、みたいなどっかの映像監督みたいなセリフを言ってしまった。
当然、責任感が膨らむ。
和吹の責任を俺が請け負うって言ったんだから、本人も多少気が楽になるはずだろう。
「……分かった、分かったから……だから……沢城君が謝らなくていいように……全力でやるよ、私!」
やっぱり真面目な奴だな、コイツ。
俺は苦笑いを浮かべていた。
が、本人が気楽になってくれればそれでいい。
というわけで、俺と和吹はまず、発声練習から始めた。
腹から声を出させるように、感情が伝わるように。
この日の俺は珍しく、桜田と一緒に帰って、新札幌まで電車で乗って遊びに行っていた。
まあ、悪い気はしないし、桜田も俺のことをよく理解してくれている。
ボケにボケて、俺がツッコミで返すっていうのが最近のお決まりになってきつつある。
俺はぶっちゃけた話、多忙ではあるのだが、桜田は俺の仕事を手伝ったりしてくれているのでそこは助かっている。
今日も息抜きに、っていうことで誘ってくれたのだった。
と、桜田がいきなり俺にこんなことを聞く。
「沢城さー、最近どうなんだ? 和吹さんと。」
……まあ、フードコートでメシを買って食っている最中だったのだが、唐突な質問だった。
「なんだよ急に……」
「いや、まあ……最近沢城が和吹さんに肩入れしてるのはなんでかなー……って。今日も演技の練習に付き合ってたじゃねえか。」
「……まあ、可もなく不可もなく、って感じだ。特別な関係性はねえよ。ただまあ……本人が文化祭ってなるとどうしても萎縮しちまってるからな……心配で仕方なくて今日声をかけた。」
桜田は興味津々な目でこちらを見ている。
なにがあったのか、という風に。
「沢城……お前、和吹さんとオナチュウだろ?」
「まあな、クラスは違かったけど。」
「……萎縮する、ってことは訳があんだろ? 俺でいいなら話してみれや。誰にも言わねえから。」
正直軽い奴なので、俺は内心信用はしていなかったのだが、俺と和吹の間柄を親身になってくれて見守ってくれているというのは桜田にはあったので、意を決して俺は和吹が去年の文化祭でなにがあったのかを話した。
全部聴き終えた桜田は、苦い顔をしていた。
4月の和吹の状態を理解したかのように。
「そりゃー……心配にもなるわな、当事者からしたら。」
「全くだよ。第一アイツが新陽を受験してたなんて知らなかったし……まさかアイツと同じクラスになるなんて俺も予想外だった。ウチの中学はクズが多かったから尚更だよ。俺みたいな奴が孤立しやすい環境下だ、アイツが孤立すんのも納得はいくだろ?」
「まー……確かに沢城は感覚、独特だもんな。」
「柿本先生が入学式の時、俺にギャグ飛ばしてなかったら今でも孤立してる、それは間違いねえ。桜田にそう言われてもしゃあねえってぐれえだからな、俺の性格は。」
「でもそれが沢城だべ? それでいいんでねえの?」
「どーゆー意味だよ。」
「ぶっちゃけ人の中身ってそうそう変わんねえべ。沢城と同じクラスになって思うよ、根っこがマジでいい奴だ、ってのは。沢城はぶっきらぼうで人を避けがちだけどよ、その実、誰よりも人のことを考えて行動してる。誰かのために自分を犠牲にできる奴だって俺は思うし、お前の仕事ぶりを見てもそれが伝わる、だから俺はお前に手を貸せる。」
確かにお人好し、ってバイト先の人には特に言われているし、店に来るお客さんにも俺はいい対応だったとお褒めの電話が来るらしい。(まあ、宮西店長曰く、なのであまり信用はしてないんだけど。)
確かに俺は自分のために行動していたのが他人のためになっていたりすることもよくある。
だからこそ桜田の言葉はいい意味で深く刺さる。
俺のことを受け止めてくれて、ちゃんと理解してる奴でなければ言えない言葉だと思うから。
「……まあ、いいよ、それは。確かに桜田の言ってることも一理あるかな。自分でも思うよ、こんな性格してなかったら和吹に声なんて絶対掛けてないと思うからな。」
遠回しの感謝を桜田に伝えたが、通じてるかどうかは定かではない。
「……やっぱさ、俺思うんだけど。」
「あ? 急になんだよ、今度は。」
桜田は何故かニヤニヤしている。
「……もう付き合っちまえよ、和吹さんと。知ってんだぜ? 夏休みに二人で札幌行ってたの。」
「は!? どこ情報だよ!! なんでお前が知ってんの!?」
気恥ずかしさで俺の頬が赤く染まるのが自分でもわかる。
まさか桜田にあのことをリークされているとは予想外もいいところだった。
「俺、札駅の焼肉屋でバイトしてっから、休みの日。」
何故か勝ち誇ったかのようにドヤ顔をキメる桜田だが、俺はガクッと項垂れた。
早く言えよ、そういうの……といった具合に。
「あー、はいはい、聞いた俺がバカでしたよー……ただよ、桜田。」
「おう、なんだよ。」
「……もし俺が付き合うってなったらよ、和吹と。……お前、どう考えてんだ?」
桜田は笑っていた。
「応援するに決まってんだろ? そうそういねえべ、こんなお似合いカップル。あのいい雰囲気で付き合ってねえとか、むしろそっちの方が頭おかしいべや。」
桜田は笑っていたが、俺からしたら笑い事ではなかった。
……だって遠回しに俺のことを「ヘタレ」って言ってるようなものだったから。
メイン逆転しちゃったけど、これはこれでいい。
また応援する奴が増えたってことで、恋路を。




