第十八話 苦味
夏菜との二人っきりの後半です。
この回は次章に向けての前哨となります。
俺と和吹は、駅内にある焼肉屋で夕食を摂っていた。
安いけど美味い肉に、俺は塩で、和吹は秘伝のタレでそれぞれ付けて食べていた。
肉の肴(?)に、白菜のキムチとモヤシのナムルをそれぞれ頬張っていく。
誰かと一緒に晩飯を食うなんて久しぶりだな……
と、俺が思っていると、ここで和吹が俺に話しかけてきた。
「沢城君、今日さ……ありがとね、誘ってくれて。」
「なんだよそれ、ロープウェイでも聞いたわ。」
「いや、あの……改めて、って意味。」
「照れ臭えこと言うなよな……まあ、悪い気はしねえけどよ、俺も。」
和吹が古本を爆買いするっていう衝撃行動を目の当たりにした以外は、俺もそれなりに楽しめた。
何せ幼馴染の美空ですらも、こうやって一緒に遊びに行ったりなんてことはなかったから。
片想いしている人となら尚更……と思いながら俺は肉を頼んでいく。
幸いにも、バイト代はまだ十分に残っている。
と、俺はここでふと思い出してしまった。
そういえば俺、和吹に渡しそびれてたのがあったな、と。
本来ならロープウェイで渡せばよかったのだが、折角焼肉屋で二人っきりなので、ここで渡そうと、俺はカバンを漁った。
「ああ、そうだった。お前にこれ、渡そうと思ってたんだった。」
俺は袋詰めしたものを和吹に渡した。
「ん? なに、これ。服っぽいけど……」
と、袋の中から取り出したのは、ワニの絵がプリントされたTシャツ。
和吹は鰐が好きだということを、俺は林間学校で知ったが故に買ったのだが……正直俺は美的センスが皆無に等しいのでハッキリ言ってダサいんじゃねえのか、とは思っていたのだが。
「あ、これワニさん!? 描いてるの!!」
予想以上の反応に俺も嬉しくなった。
よかった、気に入ってくれたんだな、って。
「その……ハッキリ言ってくれねえか? 似合うかな、って思って買ったんだけどさ……ダサかったらダサかったって言ってくれれば……」
あまり自信がない俺に対して、和吹の目は子供みたいに輝いている。
「すっごく嬉しいよ!! ありがと! 大事にする!!」
「は、ハハハ……サンキュー、和吹。」
逆に小っ恥ずかしくなる。
とはいえ喜んでくれたのでそれはそれで良しとしよう。
とはいえ10月頭には文化祭だ。
北海道の夏休みはぶっちゃけた話、今デート(?)している今週の木曜日で終わりだ。
その準備をしなくてはいけないし、文化祭の規則によって、俺と渡辺の委員長&副委員長コンビで演劇の脚本を書かないといけないのだ。
ただ去年文化祭で孤立するキッカケになった大失態を、和吹は犯してしまっている。
このムードに水を差すわけにはいかなかったが、俺はどうしても、和吹を主役にして劇を成功させたいと思っていた。
それが本人の意思と相反するものだったとしても、俺は前の和吹を取り戻してほしいと思っていたのだから。
腹を括り、和吹にそのことを伝えた。
「和吹、水差すようで悪いんだけどさ……10月頭に文化祭、あるべ?」
「う……うん……」
予想通り、顔が引き攣った和吹。
やっぱり嫌なんだろうな、と思いつつ俺は続きを話す。
「俺と渡辺でさ……劇の脚本を書かないといけなくなってな……和吹に主役を張ってもらいたいんだよ……だって華があるしさ……何よりお前には……去年の失敗を乗り越えてもらいてえ。」
「え………? わ、私……? ムリだよ……出来ないって……。」
俯いてしまった和吹。
俺だって冗談でこんなことは言いたくねえし、自信を付けてもらいたいという意図があるから尚更。
幸いにも、俺にはアテがあった。
本当は頼りたくもないし、顔も見たくもないんだけど。
「……俺がなんとかする、だから……頼む! クラスの劇の……主役を張ってくれ、和吹!!」
俺は頭を下げた。
真剣じゃなければ、こんなことは出来ない。
少なくとも俺は和吹のメンタル面をサポートしなければいけない立場なのだから。
「ちょ……分かったから! 沢城君、顔上げて!!」
慌てた和吹は俺の頭垂れを止める。
そして、まあ、半ば承諾した。
「そこまで言うなら……考えとくよ……でも……あんまり、期待しないでね……?」
やっぱり去年のことが相当堪えているのは明白だ。
俺もガチで金賞とか、そんなのは狙うつもりはなかった。
ただ和吹に、去年の失敗を乗り越えて欲しい、ただそれだけだった。
「だからそこは俺がなんとかしとくから……そんな自信なさげにすんなよ……」
……とまあ、こんな風に、最後にホロ苦さだけが残って、和吹との札幌行きは終了したのだった。
電車での手稲までの帰り道。
和吹は疲れ果てたのか、俺の肩を枕にしてぐっすり眠っている。
しかし、寝顔もまた可愛いものだ。
いや、そんな事よりまず文化祭だ。
和吹がちゃんと練習通りに演技できさえすれば、輝けるような脚本は用意してある。
だからこそ、「アイツ」に頭を下げて、演技の心構えを教えてもらうしかない、俺はそう考えて電車で策を練っていたのだった。
次回から文化祭編。
沢城は沢城なりに人のことを不器用ながら考えています。




